第一話 義母は強し(悪役令嬢?カロリス視点)
悪役令嬢?カロリスから見た婚約破棄劇です。
それではお楽しみください。
次話はヒーロー?第一王子視点です。
こんばんは。たった今、婚約者であるシェール・ギル・マーキュリー第一王子殿下に婚約破棄を宣言されたカロリス・フォンディーンと申します。実家は公爵家なので私は公爵令嬢ということになりますね。
「王子と言えど貴族家の内情に口を挟むなど、ましてや何の瑕疵もない貴族令嬢を修道院に送る権限があるとお思いなのですか?」
ドヤ顔王子の暴言に反論したのは、私ではありません。反論したのはお義母様、公爵家に後妻に入ったカトゥイーヤ・フォンディーン公爵夫人です。
お義母様は、ローズクォーツの柔らかなピンク色の髪とラズベリーの鮮やかで濃い赤い瞳を持った方です。今宵の夜会で着用しているプラムの濃い赤紫色のドレスと合わせて、赤系統で品良くまとまっていると思います。
胸元には公爵家に代々伝わるエメラルドのネックレスが光っています。耳元にもエメラルドのイヤリングが。こちらは公爵であるお父様がお贈りになったもの。お父様の瞳の色に限りなく近い明るい色のエメラルドです。お義母様ってば愛されていますわね♡
一見するとシンプルな装いなのに、お義母様が着ると、宝石を着けられるだけ身に着けてどこぞの王子にべったり張り付いている娘より華やかで品よく見えるから不思議です。あの宝石類は王子からの贈り物なのでしょうか?石の大きさばかりが目について下品ですわ~。
公爵夫人に相応しい装いで武装したお義母様が、私を守る騎士のように王子と対峙しました。
「このような公衆の面前での婚約破棄、それも王命で結ばれたものを破棄する権限など王子と言えどもありえません。しかし、カロリスとの婚約破棄は受け入れましょう。もちろん王子殿下の責で。このような暴挙に出る男に大事な娘を嫁がせるわけにはまいりません。」
扇で顔を隠すことなく、視線真っ直ぐ王子を見据えるお義母様。素敵です。本当に全身甲冑で武装した騎士に見えてきました。ぽっ♡
「何を言っているフォンディーン公爵夫人。カロリスに瑕疵がないなどと。其方、実の娘より血の繋がらない娘を擁護するというのか?!赤子の頃に生き別れてようやく再会できた娘だというのにっ?!」
王子の無遠慮な物言いに会場内がざわつきます。それもそのはず、ネルーダの髪色、瞳の色、顔立ちまでカトゥイーヤお義母様にそっくりですからね。誰の目から見ても、二人が血の繋がった親子関係にあるのは明らかなのでしょう。
しかし、かりにも王族である御方が他家の家庭事情をこのような場でベラベラと暴露するなんて…。王族として品位にかける行為だというのがわからないのかしら?
「カロリスは公爵家の大切な娘です。血の繋がりなど問題ではありません。逆に血が繋がっているからといって他人を貶める罪人をなぜ擁護しなければならないのです?戯言もほどほどにしていただけますか?」
王子にも臆さずピシャリと反論するお義母様。もうっ、格好良すぎです♡
「そもそも、先ほど王子殿下のおっしゃったことはお門違いもいいところです。なぜネルーダをカロリス同様に扱わなければならないのですか?公爵家に居候しているだけの平民女性を?差を付けるのは当たり前ではありませんか?」
「平民?ネルーダ、が?」
あら王子、呆然としています。思ってもいない答えだったようですね。
「ママ!どうしてそんな酷いことをいうの?!私があなたの娘だってことは、ちゃんと証明されたじゃないっ!私だって公爵令じょ…」
「おだまりなさい!」
お義母様の一喝で言葉を失うネルーダ。ついでに会場も静まり返ります。お義母様最高♡シビレます♡
「公爵家に居候しているだけの娘が公爵家の名を騙るなど烏滸がましいにもほどがあります。確かに貴女には貴族の血が流れてはいますが、それだけです。公爵家とは何ら関係ありません。」
「どうして?ママは公爵夫人じゃない!私を養女にして引き取ってくれたじゃないっ!」
「私の娘と認めたに過ぎません。それに公爵家には、ちゃんと公爵様の血を受け継いだ子がおります。貴女を公爵家の養女にする必要がどこにあるというのです?」
はぁ、お義母様が格好良すぎる…。それにしても、ネルーダは感情のままに大きな声を出し、言葉使いもマナーもなっていませんね。おまけに姿勢も悪いわ。仮にも公爵令嬢を名乗るなら、もう少しそれなりに振る舞ってほしいわ。他の公爵家のご令嬢にも迷惑になるじゃない。
「ちょっと待て。ネルーダは公爵家の養女ではないのか?!」
「違いますよ。フォンディーンの名を名乗ることも許してはおりません。」
「では身の回りの物に格差をつけ学園に通わせないというのは?」
「公爵令嬢のカロリスよりは劣っているとはいえ、公爵家に住まわせている以上、ネルーダにはそれなりのものを与えています。少なくとも貴族令嬢であった頃の私が身に着けていたものよりも、はるかに上等なものばかりです。身分は平民なのですから、貴族が通う学園に通えなくて当然でしょう?代わりに一般教養とマナーを学べる学院に通わせております。」
お義母様の反論に言葉を失う王子殿下。そうですよね。私と婚約破棄しても、同じフォンディーン家の令嬢であるネルーダと婚約すれば後ろ盾は安泰だとでも思っていたに違いありません。何とおめでたい頭の持ち主でしょう。
「今日の良きハレの日に一体何を騒いでいるのだ。」
しかめっ面で私たちの間に入ったのは大公である王弟殿下。この国の騎士団を束ねる御方なので、甲冑を着けていなくても筋肉だけで威圧感をひしひしと感じます。この場を収めるために駆り出されたのでしょう。お気の毒に…。
ひとまず、騒動を起こした者たちは夜会会場から出されることになりました。私とお義母様は王宮内の貴賓室を用意していただきました。入れ替わるように王様と王妃様方が会場に入ったのでしょう。賑やかな声と音楽が貴賓室に向かう私たちにも聞こえてきました。
騒動の元凶の王子殿下は自室で謹慎。勝手に部屋から出ないように扉の前を見張りの騎士が固めております。ネルーダは何を思ったのか連れていかれる際に「私はシェルの子どもを身ごもっているのよっ!」と騒いだため、どこかに連れて行かれました。恐らく真偽を確かめているのでしょうね。
私たちは王族の方々と婚約破棄の件で話し合うことになりました。
もちろん、100%王子殿下の責で婚約破棄です。王子殿下がごねにごねましたが、お義母様とお父様の鉄壁に成すすべはなかったようですね。胸がすっとしました。
そもそも王陛下の息子は王子一人でも、王女様もいらっしゃるし継承権を持つ男子も何人かいるというのに、何故王太子の身分が安泰だと思ったのでしょう?
唯一の味方と言うべき王妃殿下にもそっぽを向かれて、多少は自分の行いを反省することができるのでしょうか?王妃殿下は隣国から我が国に嫁がれてきた元王女。王族としての矜持は人一倍高い御方です。
今回の件で表舞台から退く決断をした王妃殿下。王族の品位を貶める行為を何よりも厭う彼女らしいです。この方を母に持って、なぜ息子があのようになってしまったのか不思議でなりません。
今回のやらかしで王子殿下は王籍を抜けて一兵卒からやり直すのだそうです。かなり不満のご様子でしたが、毒杯などで密かに処分されるよりは遥かにましだと思います。
まぁ、もう私には関係がなくなった方のことは考えても仕方がないですね。とりあえず元婚約者として今後のご武運をお祈り申し上げますね。
お読みいただきありがとうございました。