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現実は現実、夢は夢

その小説は更新が頻繁にあって、だからきっとある程度書ききったもので、だからそれは創作で、だから私の夢は偽物で、だけれどリアルなそれを夢の間の嘘だと断じることはできない。中二病を詰め込んだみたいな、ダークヒーロー。キラキラの主人公ちゃんに添えられた味の引き締め役。それにしては火傷を負い、意味不明な力で形成を変え、主人公を邪魔する人間を殺した。

時々閑話として、不気味な私の様子に焦点が当たる。正体不明の汚れた敵役、神出鬼没なトリックスター、悪逆非道な復讐者。刺激物で、意味の分からない彼女はなんだろうと、時々コメントにあがる。「このこつら」「いみわからんからきもちわるい」「主人公に比べて不幸すぎワロタ」「えーなんか時々でてきて美味しいところもっていきますね」、作者が「えっw ちょっとつらいですか??」「大丈夫です、主人公ちゃんはこんなことないんでww」「伏線あるんで、最期にわかります! ありがとうございますっ!」と軽く答えた。




私の夢は一気に進む。その小説の裏を縫う。

石を投げる悪ガキの中に、その子がいた。高貴な身分の愛人の子どもという噂で、それを裏付けるように一段いいものを身につける彼女は、犬の前に骨を置くように貴金属を下の子供たちに見せびらかした。ほしいなら土下座して、と人形遊びのように人がひざまずく様子にコロコロと笑う。

この村ではその子が一番のお姫様で、ヒーローだった。

その子の力が発現したのは、私が最初にあまりにもひどい怪我をしたせいだった。悪ガキ共のいたずらが過ぎて、私は崖から落とされた。折れた足を見て怖気づいて逃げる子を助けるために、自分たちの悪行を隠すために、彼女は癒やしの力を使った。不完全なそれは、私の体に傷跡を残した。彼女たちは味をしめた。

石にあたった傷を、大人に気づかれないように癒やして、痛みはそのままに不格好な傷跡に加工する。まだまだ私の能力は熟練していないから、だから試す相手が必要なのだと無邪気に笑った。子どもたちは石を投げる。私はそれを避けられず傷を負う。今度は火傷はどうだろうと、火をつけた木を投げる。木は畑に燃え移る。何故か私が放火したことになる。その子は私の傷を見て、また治すように痕を残す。

嫌で嫌で、仕方なかった。彼女に見つからぬよう、私は逃げた。傷を心配して老婆が雑草の、泥まみれのスープを無理やり飲ませる。老婆とは思えない力は、振りほどけば家主の癇に障り、私は部屋の端で体を丸めて眠る。避けられなかったお前が悪いと、その男は声を荒らげる。火をつけるとは何事かと、声を荒げる。

誰も信用できない――誰も。だから早く、迎えに来てほしい。

迎えに来てほしかったのに。

うそつき。

うらぎりもの。

うらぎったというかちもない、あいつらは、価値がない。

わたしは、ころされた。


その日はカンカン照りの、陽の影が強く出る朝だった。

彼女は貴族と見間違うような、レースをたっぷりと使ったワンピースドレスを着ていた。――昔の私のような。

私な背をかがませて、その場を通り過ぎようとする。

悪ガキがそれに気づいて、石を投げる。

やめろ、と声がかかった。

頭上、眼前、聞き慣れた、見慣れた、懐かしいあの人が現れた。

おとうさま!

声を上げることは憚られた。傷ついた私の容姿に、古布で巻かれたこの体躯に、――そばにいる、あの子を抱き上げてこちらを見る父親と、私を守ってきた従者の姿が、私の声を失わせた。体を震わせた。

「そんなひどいことをする道理はないだろう」

そう、領主様はおっしゃった。私の父が笑った。隣の悪ガキが背を正す。でも、でもお父様と、あの子が私の父をそう呼んだ。

「火傷を負ったけれど、私が治したの」

「浮浪者の子どもがいるとは、なにかしないといけないな」

「ちがうよ! あの子は村外れの冒険者崩れの人の子どもなの」

だから、家はあるのよ。でも、少し乱暴なだけ。

どくどくと、脈打って熱くなっていた体が冷える。

お父様、私が分からないの。

私に傅いていた従者が、あの子に跪く。

「お嬢様、どうぞこちらへ」

私を汚物みたいに、目を眇めて見て、視界から消す。

「子ども同士のあそびでしょう――程々にしておきなさい」

そう、いつの間にか近くに来ていた兄が言う。

「村の子どもの遊びは少々野蛮だな」

「私だって、村の子よ! 木登りだってできるんだから」

「うわあ、女の子なのに、すごいね。その能力を我が家では、別の方面で生かして欲しい」


彼女の声が遠くなる。彼らの姿が遠のいていく。

「死んだ俺の娘も――やんちゃだったよ」

「僕の妹だ……君くらいの」年齢で、かわいくて。



遠のくその雑談。柔らかい思い出話。彼らの思い出はもう帰らない私を切り取って、世界は、四角く、切り取られて、色あせて、だからあの子が、色になる。


べちゃ、と私に泥が投げつけられる。

見送った悪ガキたちは、動かない女の子を標的にする。何度も、何度も、泥は投げられる「仲良くって、領主様も言ってたぜ!」合間に軽口。遊びだから、何人かが笑う。



その時、女の子は初めて人を殺した。








やめて、あげて。


その子を殺さないで。


その子が殺せば、その子が死ぬの。



私は知ってるから、

だから、

だからさ。



一緒に逃げようか。

私だったらわかるかもしれない。



だってほら、私の体は溶け消えたから。

貴方と一緒は楽勝よ。


その爪の、使い方を教えてあげる。

いやいや違うか、考えようか。



だって私たちはちがうから。

二人で考えたら、分かるかも。


一旦、ここまで、ごめんなさい。

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