現実と夢
愛されない子どもの、愛を求める眼差しは、もどかしい自身の不出来への焦燥は、周囲を恐怖しけれども憤る体の震えも全て、私が夢から覚めても頭の中に残った。体は気持ちの悪い熱をもって、うっすらと神経がしびれた。蓄積する不快感が鬱陶しくて、私は何度も本を読み、メモを書き、正体を考えた。無滑稽でリアリティのある夢の話なんて、誰にも相談できなかった。一人で考えるうち、その分析に夢中になった。
ちょうどリアルでも、社会不適合者の罠にかかり、半ばノイローゼになっていた。――だから一年も経たないうちに死んだんだけれど。
深く深く、夢をもとにした分析の世界に潜っていたとき、ネサフでとあるネット小説を見つけた。なんてことはない、よくある話で、よくできた話で、ジェットコースターみたいに愉快で痛快な物語。キラキラの主人公は女の子で、成り上がる物語。
ただ、私はそれを読むと同時、悲鳴をあげた。対となる? いいえ、ただ物語の刺激物として「私」がいたからだった。夢の中の私。私が育った貴族の家に、私が能力がないと退けられて空いた穴に、その主人公が入った。村の中で母ひとり子ひとりで育った彼女が、母を亡くし、気のいいおじのもとに引き取られると、いとこ達とやんちゃな幼少期を過ごす。そのうちに癒やしの力が発現し、領主の目に留まると、貴族が彼女を引き取ると言い出した。
彼女は子どもを「なくした」「かわいそうな」「特殊能力を持つ」貴族の一家の一員となった。癒やしの力を発現させたその子が加わった。
その様子を痛快に、コミカルに、ちょうどいいぐあいのストレスを加えて、辛いことは主人公に起きないように……幼少期に甘やかされて、美味しいデザートで舌鼓。可愛い洋服で婚約者候補は一目惚れ、娘を失った義家族を癒やし、喪失に苦しむ従者を導く。学園では目覚めた力が大活躍。その出自をからかう貴族令嬢を一蹴したら、平民で優秀な友達に救いの手を差し伸べる。反省した貴族令嬢を友人に携えて、誘拐事件を独自に調査。秘密の教団に狙われて、助けられた義兄とともにダンジョンにくりだす。ダンジョンに絡む利権を察知し、問題解決で義父母に抱きしめられて、それでも自分の出自を不安に思い、その理由は胸のときめき横にいる義兄のせい。身分に悩み、つながりに悩み、それでもその勇姿は王家にも覚えられ、彼女は自分の出自を知る。王弟の隠された子ども、祝福を受けた予言の子。だから、ラスボスに立ち向かい、義兄の愛を勝ち取る。いとこの皇太子を横に置き、その恋慕の視線を受け入れながら、そうやって、そうやってハッピーエンド。子どもは三人、幼い頃からともに遊んだ村で時折子どもを遊ばせる。彼女の力と、見出された平民のお陰で、出身の村も発展する。結末はどこまでも明るい。でも、辛いことが起きないと物語はメリハリがつかない。ジェットコースターにならないから。だから、彼女が、――私が、傷を負うのだ。
退けられたその子どもは、どうしてか村のいとこに大怪我を負わせてその場を立ち去る。火事に気づいた女の子が引き返し、その状況を見て助けたので、村に被害はない。大やけどを負ったその子も助けるけれど、いつの間にか姿を消す。敵を癒やすなんて、君はどこまで優しいんだと言われながら、その後ひどい目に合わされていたその子どもの家主が殺される。その子に殺される。老婆がかばわれて震えている場面を最後に、暗転する。