表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

夢の夢

皆が私を殺すから、私もまた(みな)を殺すのだ。



私はずっと夢を見ていた。

繰り返すのは魔法と剣とモンスターの世界、異世界の夢の中で、繰り返すのは一人の少女の一生だ。愛され、傅かれ、蝶よ花よと育った彼女は私だった。

ある日、自身の才能が開花しなかったことにより、彼女の周囲は一変する。

優しかった家族と引き離され、父方の祖父のもとに連れ出される。

祖父は彼女わたしに生きる術として、格闘術のようなものを教えるが、私はそれをものにできない。

ある日私を諦めた祖父は、私をとある家に引き取らせ、食べ物も与え放置することにした。厄介な娘を託されたその家にはお金がなかったので、住まうために長い髪を切られた。

そこで野でも山でもダンジョンでも、生きる術を叩き込まれた。幸いその世界は冒険者の住むタイプの異世界で、貧乏であってもモンスターをハントすれば報酬がもらえたし、アイテムがポップした。

私が小さなモンスターを捕まえると、そこの住人二人は喜んだ。

年老いて自身を記憶の波に放り投げた老婆は、自身の年齢がわからない。それを守る利き手を負傷した狩猟者は、壮年で、おそらく彼らは親子だったのだと思う。でも、老婆は息子だろう彼を「おにいさま」と呼んだ。寡黙な彼はそう言われると従順に彼女の言うことを聞く。

私の狩猟の成果は、私の口には入らなかった。本当に雨風をしのげる宿を提供しているようなもので、金銭も渡されずに能力も開花していない子どもをあづかるなんて、そんな大変なことをされたのだ。老婆は子どものようによく食べた。ときには食べたことを忘れたし、おままごとのようにその辺の草をすりつぶして「怪我に良いスープよ」と私に差し出した。私にだけでなく、壮年の狩猟者にもそれをしたから、彼女に悪気はないことはわかったけれど、だからといって不快感が消えるわけではない。ましてや彼女は元貴族で、お嬢様だったのだ。

不自由ない生活から、最下層の一歩手前までおちてしまった思春期の女の子が、ただただ日々の糧を得るために体を魔獣の血で汚す女の子に、一体何の咎があるだろうか。

彼女はたくさんの魔獣を狩って、ほとんどを家主に渡し、ドロップ品や解体品で得られる骨や皮で生きる糧を得た。

周囲の子どもにそれは異常にうつった。小さな村の外れに住む、正体不明の親子に、正体不明の不気味な子どもが加わった。小麦や野菜を育てる自給自足の村のこどもたちも、モンスターを倒すことができるのはせいぜい畑に来る害獣程度。自分の身長を超すような魔獣を自分の体もいとわず殺す私は、異常に映っただろう。

後に村の外で魔獣をハントするのは一般的に15歳を過ぎてからであると知った。血の匂いを薄っすらとさせた、体中傷だらけの子どもは、「怖くて不気味なモノ」だった。だから、それに石を投げるのは当然だった。

石だけでなく、私は何度も泥や家畜の汚物を投げつけられた。祖父にも預けられた家の者たちのみ、平民は攻撃するなと言われていたから、そのたびに逃げた。逃げた私を面白がり、私はその村の「モンスターもどき」になった。

祖父に依頼された家主は、私への暴力を度々振るった。最期に生き残るための訓練だったと言っていたけれど、生死をさまようことが何度もあった。加えて死んだはずの私が得るべき知識も教え込まされた。しんどいといえば、出来損ないと罵られたし、今の家族の現状を持ち出されて、羨むように仕向けられた。ちゃんとしたことは言われていないのに、私はいつか家族が私を迎えに来てくれると勘違いして、それにすがって生き延びた。――なんども、なんども。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ