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そうして始まった逆断罪劇

「噂は本当だったのですね。・・・兄上が得体の知れない子爵令嬢に入れ込んでいる、と」


シンと静まり返った会場で、最初に口を開いたのはアラン殿下だった。

悲しさと、あきれと、そしてほんの少しの侮蔑を含んだ、そんな声。

そんな負の感情を隠そうともしないアラン殿下に、いち早く反応したのはウィルフレイ殿下のもう一人の弟ルーカス殿下で。


「アラン!! 貴様、兄上に向かってなんという口を・・・・・」

「いい、ルーカス、いわせておけ」


軽く右手をあげて(ルーカス殿下)を制したウィルフレイ殿下が、ゆったりとこちらに向き直った。


「・・・それで? 噂とは?」

「兄上が、子爵令嬢に入れ込んで、一番大事にすべき婚約者、ラナベル嬢を蔑ろにしている、という噂・・・いえ、これは噂ではありません、もはや真実です」

「・・・・ほう? 根拠は?」

「全て調べさせてもらいました。貴方はもうずっとラナベル嬢を蔑ろにしている!

 デビュタントでは一緒にダンスさえ踊らず、会話すらまともにしていない。

 交流会もここ数年ずっと欠席。

 この一年は、人目も憚らずあの子爵令嬢を側においていた。

 ラナベル嬢が、ずっとずっと努力をしつづけていたにも関わらず、です!

 この卒業パーティではラナベル嬢にドレスも贈らず、エスコートすらしていない。

 あなたがドレスを贈り、エスコートしたのはあの子爵令嬢だ。

 これは明らかな不貞行為。

 あなたはラナベル嬢に婚約破棄を言い渡したようですが、

 どう見ても責任はあなたにある! ラナベル嬢にはなんの落ち度もない!!」

「・・・・・・・・」


ウィルフレイ殿下の静かな眼がアラン殿下をじっと見つめている。

何を考えているのかまるでからない。

そして数秒の後。

ウィルフレイ殿下の口角がゆっくりと持ち上がった。

その表情は、自分の不貞を追求されて怒っているようにも見えるし、笑っているようにも見えた。


「悪いのは俺、だと?」

「そうです、ラナベル嬢は少しも悪くない」

「ふん、随分肩を持つな。・・・お前は昔からその女に気があったものな?」


その女。

名前さえ呼んでもらえず、物のように顎で雑に指し示されて体が震える。

ひどい。

そんな扱いを受けるほどの事をわたしはしただろうか・・・。


「じゃあもう一度改めて求婚でもしたらどうだ? 俺が捨てた女だ。そんなに欲しけりゃお前にくれてやるよ」


ははっと嘲笑うウィルフレイ殿下の声が遠くで聞こえる。

大好きだったウィルフレイ殿下。

その瞳に少しでもうつりたくて毎日努力を続けたのに・・・。

わたしは・・・。

わたしはいつからここまで殿下に嫌われていたのだろう。


「ラナベル嬢。ごめん、そんな顔をさせたかったわけじゃないんだ・・・・・」


もう一度、右手をそっと掬い上げられて、またわたしは自分が無意識に俯いてしまっていたことに気がついた。

顔を上げれば先程と同じように。

ううん、先程よりもずっと熱のこもった眼でわたしを見るアラン殿下がそこにいた。


「ただ、悪いのは君じゃないってことを、ここにいる全員に知らしめたかった・・・」

「アラン殿下・・・・」

「君がどれ程努力してきたのか僕はずっと見てきた。君の事がずっと好きだったんだ」


そうしてアラン殿下は再びわたしの前で跪いた。


「何度でも言うよ。ラナベル コナー公爵令嬢。 ずっと・・・幼い頃からずっとお慕いしていました・・。 どうかわたしと結婚してはくださいませんか?」

「・・・・・・」


わたしをじっと見つめる、疑いようがないほど熱のこもった瞳。

向けられる誠実な言葉。

わたしの右手を優しく包みこでくれる大きな手。


ずっと一人で寂しかった。

ずっと一人で頑張り続けてきた。

そんなわたしのことを『知っている』と認めてくださったアラン殿下。

わたしを『選んで』くれたアラン殿下。


もしかして、とふと思う。


わたしを陰でずっと見守っていてくれた人。

わたしが辛いときに励ましてくれ、その頑張りを認め、無理をしないでと体を労ってくれた人。

毎月手紙をくれた『その人』はもしかしてアラン殿下だったのではないだろうか、と。


わたしは・・・・。


「───・・・月が雲に隠れました、兄上・・・」


わたしの思考を断ち切るように、突如聞こえてきたのは、ルーカス殿下の静かな声。


「ほんの一瞬、ほんのわずかだけ・・・・お心残りがないように、兄上・・・」


とん、とルーカス殿下がウィルフレイ殿下の背中を押したのが視界の端で見えた。


そして・・・・。


「・・・・・・っ! ・・・ラナ!!」


ガシッと、左手を捕まれました。

泣きそうな顔で走り寄ってきたウィルフレイ殿下に。

そして苦しそうな表情をした殿下の口がゆっくりと動いて。


告げられた言葉が。


「・・・・っ! ・・・この、アバズレが!!」




公爵令嬢、ラナベル コナー。

大好きな婚約者に婚約破棄を言い渡され。

その弟に求婚されたら、なぜだか泣きそうな顔の元婚約者に腕を掴まれました。

そして言われた言葉が「アバズレが」って・・・。

ひどくないですか・・・・・?

何これ、どういう状況?














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