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求婚されました

「はあ~?」


淑女どころか、女性として、なによりヒロインとしてどうなのかと思えるほどドスの利いた低い声。

そんな声が、ピンク頭から聞こえてくる。


アラン殿下に甘く見つめられて呆けてしまっていたわたしは、その声に驚いてピンク頭のほうに顔を向けて。


絶句した。


ええ、わかりますよ、その気持ちは。

わたしも、ものすごく驚いていますからね。

でもだからと言って、さっきの声はどうなのですか。

そしてその顔もどうなのですか。

アウトです。

どう考えてもアウトです。

っていうか、怖いんですが。


ピンク頭は鬼のような形相でわたしを睨み付け、ドスドスと足音荒くこちらに歩いてくる。


「それ以上こちらに寄るな」


ピシャリと放たれた、刃物のような鋭さを持った言葉はアラン殿下によるもの。

わたしに向けられていた柔らかな笑顔が、一瞬で氷点下のような冷たさにかわり、細められた瞳がピンク頭を睨み付ける。


あまりの迫力にか、ピタリとピンク頭の足が止まる。


昔はとても穏やかで、声を荒げることなどないような方だったけど。

やっぱりどれだけ穏やかに見えても、アラン殿下も王族なのだ。人を従わせることがこんなに簡単にできる。


わたしだったら多分この時点で諦めただろうけど。

ピンク頭はさすがヒロインと言うべきか、これほどの威圧感を放ちまくるアラン殿下に食い下がった。


「アランさまぁ、そんな怖い顔しちゃ嫌ですぅ」


小さくてかわいい体をくねくねとくねらせ、ピンク頭がうるんだ瞳で上目遣いにアラン殿下を見る。

小動物みたいで確かにかわいい。

自分がどうすればかわいく見えるか熟知している。

これは殿方から見れば、たまらないのでは・・・。


「名前を呼ぶことを許した覚えはない」


すごい、バッサリ切った。


「えぇん、ひどぉい。アランさまは意地悪ですぅ」


え、あんなにバッサリ切られたのに全然効いてない。

すごいな、ヒロインのメンタル。


「あ~、わかったぁ。アランさまってば、ラナベルさまに唆されちゃったんですねぇ?」


ちょっと、殿下相手に唆されたって。

不敬にも程がある。

これ以上はアラン殿下つきの近衛が黙っていないだろう。

いくらなんでも牢屋に入れられるなんて可哀相だ。なんとかしないと。

視線で一生懸命『これ以上馬鹿なことを言ってはいけない』と忠告する。

なのに、ピンク頭には通じない。

それどころかどこをどう勘違いしたのか、続いた言葉が。


「なんですぅ、ラナベルさまぁ? そんな眼でわたしを見てぇ? まさかわたしまで誘惑するつもりですかぁ? 本当に節操がない」

「ちが・・・・」

「そうやってぇ、アランさまも手玉に取ったんですねぇ? ラナベルさまみたいな悪女に騙されてかわいそうなアランさま」

「あの、お話でしたら向こうで・・・・」


もう本当に口を閉じて!

どうしてこの空気がわからないの。

さっきからアラン殿下の纏う空気が、本当にやばいの!

ヒロインってこんなに鈍感なの!?


「ねえ、アランさまぁ。そんな節操のないラナベルさまなんかほおっておいてわたしと・・・」

「それ以上僕の大事なラナベル嬢を侮辱することは許さない」


ピンク頭の言葉を遮るようにして響くのは、地を這うようなそれはそれは低い声。

わたしでもわかる。

ってかみんなわかってる。

アラン殿下、めちゃめちゃ怒ってる。

なのに怒りの矛先にいるピンク頭だけがそれを理解していない。


「もう、違うんですぅ! アランさまはラナベルさまに騙されているんですよぉ?」

「・・・・・へぇ? 僕が? どう騙されていると?」

「アランさまの前では猫かぶってたかもしれないですけどぉ。ラナベルさまはすっごく意地悪なんですぅ。

わたしぃ、仲間外れにされたしぃ。教科書は破り捨てられたしぃ。ドレスだって破かれたしぃ。

最後には階段から突き落とされて殺されそうになったんですぅ。えぇん、こわかったですぅ」

「・・・・・・・・・」


ピンク頭がうるうるした眼でアラン殿下を見上げている。

その様子をわたしは黙って聞いていた。

全部冤罪だ。今ピンク頭が言ったことは、一切身に覚えがない。

時間をかければ、それを証明することはそう難しいことじゃないと思う。


けれど・・・・。


もう疲れてしまった。

どうせわたしは何をしたって『悪役令嬢』なのだ。

どれほど努力しても報われず、許されず、選ばれない。

この世界はヒロインさまのもので、ヒロインさまに都合よく回るようになっているのだ。

今のこの状況だって。

きつめの顔立ちをしたわたしと、ふわふわとかわいいヒロイン。

並んでいれば、やっぱりわたしが悪者に見える。


ちらりと離れた場所に立つ、ウィルフレイ殿下に視線を向ける。

ウィルフレイ殿下はずっと何もいわない。

ピンク頭を擁護するでもなく、もちろんわたしの事をかばってくれるわけでもない。

ただじっと無表情でアラン殿下を睨みつけているだけ。


・・・・アラン殿下はなんというだろう?

婚約者だったウィルフレイ殿下だって信じてはくれなかった。

きっとアラン殿下だって・・・・。


「ラナベル嬢はそんな愚かな真似は絶対にしない」


・・・・・・・え?


顔を上げれば、優しい眼差しのアラン殿下と目が合った。


「ラナベル嬢はそんな愚かな真似は絶対にしない。僕は知っている」


わたしに言い聞かせるように、アラン殿下は穏やかに笑う。

『信じている』ではなく『知っている』と。

わたしの為人を。

わたしの努力を。

わたしが必死になって築き上げてきたものを。

知っている。

だからそんな愚かな真似は絶対にしない、と。


「アラン殿下・・・・」


その一言がなによりもうれしかった。

全てを認めてもらえた気持ちになった。

わたしが今まで歯を食いしばって耐えてきたこと。

ずっとずっと辛かったこと、寂しかったこと。

それでも頑張ってきたその年月を、肯定してもらえた気持ちになった。


「ひどいですラナベルさま! 一体どんな手でわたしのアランさまを騙したんですかぁ!? とにかく、アランさまはわたしに返してくださいぃ!」


パタパタと子供のような走り方でアラン殿下に近づいてきたピンク頭が、アラン殿下のその体に触れた。

いや、触れようとして。

けれどそれよりも早く。


「捕らえろ」


アラン殿下の命令が響き渡り、前にでた近衛が、一瞬でピンク頭の体を押さえ込んだ。


「何をどう勘違いしているのか知らないが、僕がお前のものだったことなど一度だってない」

「でもぉ・・・」

「それに気安く名を呼ぶなと言った。近づくことも、ましてや体に触れることも許していない」

「ええ? いたぁい、ちょっとこれなんですかぁ? 痛いです、放してくださいぃ。わたしはウィルフレイさまの寵姫ですよぉ?」

「寵姫だろうとなんだろうと、お前はラナベル嬢のように兄上と正式に婚約を結んでいるわけではない。ただの子爵令嬢だ。そのお前が、王族()公爵家の令嬢(ラナベル嬢)に礼を欠いて許されるわけない。

・・・・ですよね、兄上?」


「・・・・・・・」

 

アラン殿下はゆっくりとウィルフレイ殿下に視線を向けた。

随分挑戦的な言動と仕種だったけど、それでもウィルフレイ殿下は口をつぐんだまま。


「ねえ、フレイ、フレイ、助けてぇ」


両手を後ろで捕まれ、頭を床に押さえ付けられながら、ピンク頭が泣きながら必死で助けを求めている。

なのにやっぱりウィルフレイ殿下は微動だにしない。


「・・・・恋人が呼んでいますよ、兄上? 助けなくてもよろしいのですか?」

「・・・・・・・」


アラン殿下に促されるようにウィルフレイ殿下の視線が動いた。

ちらっとピンク頭を見た殿下のお顔が、条件反射のように柔らかく緩む。


そして馬鹿なわたしの心は、大好きだった人のそんなささいな表情の変化にまで気がついて、性懲りもなく痛みを覚える。


「・・・・後で迎えに行くよ、愛しいアイシャ。少しの間だけ奥で待っていて」

「ええ? ちょっと待って、フレイ! 後でってどういうことぉ? 今助けてよ、ねえ、フレイ・・・」


奥で待っていて・・・?

奥って、奥?

牢屋のこと?


「はぁ~? ちょっと()()()()じゃない! どういうことよぉ! ねえ、ちょっとぉ!」





そうして近衛兵に引きずられるようにして、ヒロインさまは強制退場。


場に残ったのは、見目麗しい攻略対象の皆様と、悪役令嬢のわたし。

ゲームにはほとんどでてこなかったアラン殿下と、大勢の観客。


・・・・・え、ヒロインがいなくなっちゃったけど・・・。

これってどうなるの???









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