アラン殿下
ブクマ、評価本当にありがとうございます。
広い会場に響き渡る、力強くも優しい声。
目の前に立つその人が誰なのか、なんてすぐにわかった。
たとえ後ろ姿で、ご尊願を拝することができなくても。
その人が金髪碧眼で非常に整った顔立ちをしていることをわたしは知っている。
第一、第二王子殿下とは母違いの第三王子、アラン カルシオン殿下だ。
でもなぜ殿下がここに・・・?
アラン殿下は攻略対象ではない。
ゲームに登場することは、ほとんどなかった。
もちろんこの断罪劇にも現れない・・・・はずだった、のに。
「大丈夫?」と問い掛けながらこちらを振り返ったアラン殿下は、わたしを見て安心させるようにふわりと微笑んでくださる。
薄い金髪がシャンデリアの光を反射して、キラキラと輝いて。
ただそこに立っているだけで、まるで絵画のように美しかった。
昔から綺麗な顔立ちをされていたが、久しぶりにお会いしたアラン殿下はより一層美しさに磨きがかかっている。
ウィルフレイ殿下や、ルーカス殿下とはまた違うタイプのイケメンさんだ。
「久しぶりだね、ラナベル嬢」
「はい、アラン殿下。 お久しぶりでございます」
突然の麗しい王子殿下の登場に、プチパニックに陥った。それでも、礼儀作法を叩き込んだ体は勝手に挨拶を述べ、カーテシーをする。
久しぶり。
その言葉通り、わたしがアラン殿下のお姿を拝見するのは二年ぶり。
最後にお会いしたのは、デビュタントの時で・・・。
その時もわたしはウィルフレイ殿下に一言も口を聞いてもらえず、ダンスさえ・・・いえ、やめましょう、もう済んだことだ。
とにかくそのパーティーのすぐ後、アラン殿下は急に隣の国のバハムに留学されてしまいそれ以降今までお会いすることはなかった。
わたしと同じ歳のアラン殿下は、現在そのバハムの学園に通っており、まだ学生のはず。
その殿下がなぜここに・・・・?
「よかった、間に合って。
友人から『もしかしたら君がこのパーティーで大変な目に会うかもしれない』と報告を受けてね。
急いで馬を駆って帰国したんだ」
「実はついさっき着いたばかりなんだ。服装が乱れていたり髪が適当だったりするけど、ごめんね?」と。
アラン殿下は、わたしの耳元に顔を寄せ小声で囁き、ばつが悪そうに微笑んだ。
アラン殿下の少し荒い息が耳にあたってこそばゆい。
ちょっとかすれた声が色っぽい。
そしてなにより距離が近い!
内心大混乱だが、長年培った精神力を総動員し、なんとか持ちこたえる。
冷静に、淑女らしい笑みを浮かべつつ。
不敬にならないように気をつけながら後ろに一歩身を引き、距離を取ってやり過ごす。
それにしても、改めてアラン殿下を見てみると・・・。
確かに急いできてくれたんだろう、殿下の息はわずかに上がっている。
服装は王族らしく上品なジュストコートをこれ以上ないほど美しく着こなしているけれど。
あ、息が苦しかったのかな、首元が少しだけ寛げてある。
そこに汗が一筋流れ落ちていって、なんだかすごく艶っぽい。
髪も一つに結ってあるだけだけど、決して乱雑な感じはしなくて、逆に殿下の魅力を上げてさえいる気がした。
「・・・・アラン・・・。・・・お前ここになにをしに───・・・・・」
「ええ? あれが第三王子のアランさまぁ? やだぁ、アラン様もすごいかっこいいぃ」
びっくりするほど低い声で問い掛けるウィルフレイ殿下の声に、ピンク頭の耳障りな声が重なる。
王族の、しかもほぼ王太子に決まっている第一王子の言葉を遮る。
普通であれば当然不敬。
学生とはいえ、二、三日牢屋に放り込まれても文句は言えない。
けれどウィルフレイ殿下がその罪をピンク頭に問う事はない。
いつもにもまして柔らかで優しい眼差しを向けるだけ。
『愛しい』って顔にかいてある。
今のやり取りでなぜそんな対応になるのか。
これがヒロイン補正なのか。
それとも恋の力が、どんな態度も愛しさへと変えてしまうのだろうか。
思うと同時に、胸がまたチクリと痛んだ。
「そんな顔をしないで、ラナベル嬢」
すいっと右の手をすくい取られて初めて、わたしは自分が俯いていたことに気がついた。
顔を上げれば、わたしの右手を優しく握ったままアラン殿下がまたふわりと優しく微笑んでくれる。
「なにをしに来た、とお尋ねでしたね兄上?」
わたしの眼をじっと見つめたまま、アラン殿下は異母兄であるウィルフレイ殿下に問い掛ける。
そして・・・・。
ゆっくりとその場に跪いた。
「え・・・!?」
「ラナベル コナー公爵令嬢。ずっとお慕いしておりました。どうかわたしと結婚してはくださいませんか?」
わたしはラナベル コナー。
【魔女愛】において婚約者に捨てられ、身分を剥奪される公爵令嬢。
そのはずが・・・。
突如隣国から帰ってきた美しいアラン殿下に、熱烈に求婚をされました。
読んでくださりありがとうございました。