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学園での生活

ウィルフレイ殿下との関係性はかわらないまま。

わたしは15歳を迎え、王立学園に入学した。

この世界の貴族は15歳から18歳までの四年間、この学園で学ぶことを義務づけられている。

それは王族だろうと末端貴族だろうと同じで。

殿下に二年遅れでわたしは学園に入学した。

壇上から、新入生に祝辞を述べるウィルフレイ殿下。

それを他の新入生と同じように会場で聞くわたし。

殿下がわたしの方に視線を向けてくださることなんか一度だってなかったし、勿論入学祝いにわたしのもとを訪れてくれることもなかった。


・・・・まだわたしの努力が足りていない証拠だ。


学園に入ってからはより一層、立ち居振る舞いに気をつけた。

殿下の婚約者として恥ずかしくないように。

少しでも殿下の役に立てるように。

学友には身分関係なく公平に接し、穏やかに、けれど品格を持って過ごした。


入学してから、どの分野においても常に首席の殿下に負けないように。

わたしも学業、音楽、ダンス、武道、剣術、全てにおいて学年一位を保持しつづけた。


勿論殿下にお会いしたかった。お昼ご飯もできればご一緒したかったけれど。

しつこく付き纏えば、殿下に嫌がられるのがわかっているので、接触は最小限に。

自分から会いに行くなんてことはせず、教室移動などで偶然出会ったときは淑女として優雅に挨拶するだけに留めた。

そこに婚約者同士の甘い視線や会話なんて一つもなかったけれど。

学園で少しでもウィルフレイ殿下の姿を拝見することができる。

それだけでわたしはこれまで以上に頑張ることが出来た。


ただ一つ気になったのは。

偶然見かけるウィルフレイ殿下が常に無表情である、ということ。

友人と一緒にいるところを見かけても、笑顔どころか、困っている顔や、焦っている顔すら見かけない。

学園のどこで見かけても、何をしていても、殿下は常に無表情だった。

少しも楽しそうじゃない。

昔はあんなに表情豊かで常にニコニコしていたのに。


けれど殿下に無価値と評され、近づくことすら嫌がられるわたしではどうすることも出来ない。

わたしはわたしで、殿下に認めてもらえるようこれまで以上の努力を続けるだけ。


そんな学園生活が二年目を迎えた頃。

ゲームと同じようにヒロインさまが学園に入学してきた。

学年はわたしと同じ二年生。

庶子のヒロインが子爵に引き取られて貴族になったところもゲームと同じ。

珍しいピンクゴールドの髪や、庇護欲をそそるふんわりかわいい見た目も同じ。

けれど・・・。

わたしが転生者だから。過度な先入観がそう思わせるのか。

ヒロインさまの性格が、なんだかあまりよくないように思える。

例えば、自分より身分が低い男爵令嬢を明らかに見下している発言をしたり。

見目がいい男性の体にベタベタと触れたり。

平民として育ったから。

貴族の生活やルール、言葉遣いに慣れていないだけといえば、そうなのかもしれないけれど。

それでもやはりその特異さは目に付いた。


ヒロインの様子がおかしい・・・・?


わたしがゲームのラナベルと違う成長をしたように、ヒロインにも何か変化が起きているのかもしれない。


であればもしかしたら、ウィルフレイ殿下もヒロインに惹かれたりしないかもしれない。


わたしの心に差し込んだ一筋の光。

魂を震わすような、微かな喜び、そして期待。


けれど・・・。


結果としてウィルフレイ殿下はみるみるヒロイン、アイシャさまに傾倒していった。


今までずっと無表情だった殿下が、アイシャさまの前でだけ甘くとろけるような顔をする。

「アイシャ」と呼びかける声はどこまでも優しくて。

アイシャさまを見つめるサファイヤブルーの瞳は、火傷するほどの熱を帯びていた。


いつも無表情なウィルフレイ殿下。


わたしにだけ嫌悪感をあらわにし、嫌そうに顔を歪めるウィルフレイ殿下。


そしてアイシャ様の前でだけ嬉しそうに破顔一笑するウィルフレイ殿下。


ウィルフレイ殿下の心がどこにあるのか、なんて子供でもわかる。


────・・・ウィルフレイ殿下はアイシャ子爵令嬢を寵愛している。


そうしてわたしは殿下の婚約者という立場から、いずれ殿下に捨てられる女へと成り下がった。



学園の正門、食堂、下駄箱。

体を寄せ合うようにして話す二人をよく見かけた。

もしかしてわざと人通りが多いところを選んでいたのだろうか?


・・・・わたしに見せ付けるために?


楽しそうに、ウィルフレイ殿下が笑う。


・・・・あんな笑顔、わたしはもう何年も向けてもらっていない。


アイシャさまが頬を染めながら、ウィルフレイ殿下の腕に手を回す。


・・・・わたしはもう何年も殿下に触るどころか、近寄ることすら許されていないのに・・・。


やはりどれほど努力をしても、わたしでは敵わないのだ。

殿下はヒロインさまと結ばれる運命で。

それこそが殿下にとっての『真実の愛』なのだ。






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