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番外編 ドレスコードは基本です5

お兄ちゃん視点です

随分早かったな。


バカ、バカ。


照れくさいのか、顔をしかめて何度も魔女どのを罵倒しているルーカスを見て、思わず口角が上がる。


ルーカスの息があがってる。

珍しいな、基本マイペースなルーカスがそこまで自分のペースを乱すなんて。

知らせを送ってからここにくるまで随分早かったし?

まさか馬車ではなく騎馬で来てたりするのか?

ルーカスは騎馬はあまり好きじゃなかったはずだが。

・・・それに、式典用の装いも完璧だな。

知らせうけてから支度をしていたんじゃあ、もっと時間がかかったはずだよな?


「・・・『状況に応じた相応しい装い』というものがあるだろう。主役であるならなおさらだ。無頓着もたいがいにしろ、バカ」


服装のダメ出しばかりを繰り出すルーカスに、魔女殿は随分と不満顔だ。

当然だな。

久しぶりにあったはずなのに挨拶もしないルーカスが悪い。

まあ急いで駆けつけてみれば、魔女どのがこんな針のむしろ状態であった、となれば焦りもするし、苛立ちもするだろう。

ルーカスの気持ちも分からないではないが、それにしてもマナー違反だろう。


それでも魔女どのが以前のように激しく怒り出さないあたり、ラナベルの(教え)がしっかり根付いている証拠だ。


魔女どのはここ数年で劇的に変わったからな。

あの常識が通じず(自由奔放で)善悪が分からなかった(大きな子供だった)魔女どのを、たった二年でここまでかえるなんて。

うん、さすがはラナベルだ。

控えめに言って、女神だな。


ただ、出来ることなら、その深い愛をこれからは俺だけに向けてほしい。


先日食事に誘ったとき、『デネブ様とケーキを食べに行く約束をしてしまいまして』と断られた。

笑顔で了承したが、実はかなりのダメージをうけた。

悔しい。

今度ラナベルが王宮に来るときは、ラナの好きなベリーを使ったケーキを焼くようにシェフに言っておこう。


いつの間にか、魔女どのはラナベルとお揃いの髪飾りをしているし。

しかもラナベルが提案し、買い揃えたというじゃないか。

悔しい。

俺も早急に、なにか揃いのものを贈ろう。


『ぱじゃまぱーてぃ』をした、という話も聞いた。

『ぱじゃま』をきたラナベルは物凄くかわいかったぞ、と翌朝魔女どのにはこれでもかというほど自慢話をされた。

めちゃくちゃに悔しい。

そもそも『ぱじゃま』とはなんだ?

寝衣とはまた別なのか?

くそ、俺はラナのそんな姿、想像すらできないというのに。

自分の想像力のなさが憎い。


「シロはなんでここに来たんだ?」


おっと、話がそれたな。

今はどれどころじゃなかったか。

けれどやっぱり悔しい思いが抑えられないので、隣に立っているラナベルの腰を不自然じゃない程度に自分の方に引き寄せつつ。

不機嫌顔のルーカスと、不満顔の魔女どのに意識を向ける。


「・・・・・・っ」


黙ってダメ出しを聞いていた魔女どのの鋭い指摘に、ルーカスが言いよどむ。

わずかに顔が赤い。

普段めったに顔色を変えないルーカスの、あんな何とも言えない気まずそうな表情は珍しい。


さて、ルーカスはなんと答えるつもりか?


「・・・別にっ。王族として挨拶に来る必要があっただけだ」


嫌そうに顔を歪めて。

魔女どのからつんと顔を背けたルーカスのその言葉に、思わず笑みが漏れる。

・・・ああ、そうだな。

確かに王立学園の卒業式には、王族が祝辞を述べるのが慣例だ。

間違ってない。

だが今年は、王太子である俺がラナベルの婚約者として出席している。

勿論挨拶は俺がすることになっているし、王族は誰か一人出席すればいい。

つまりルーカスは『王族として』ここにくる必要なんてないはずなんだが?

それは随分苦しい言い訳じゃないか?


「・・・なんですか、兄上?」

「いいや、なんでもない。来てくれて助かった、ルーカス」


ジロリとルーカスに睨まれてしまったので、慌てて顔を引締める。

けれどなかなか笑いがおさまらない。

一生懸命誤魔化そうとしているルーカスが、おかしくて仕方がない。


あ、またルーカスに睨まれた。

怖い怖い。

それにしても、ルーカスは素直じゃない。

どうして『あなたのために来たのだ』と言えないのか。


『魔女どのの一大事だ』

あんな雑な言伝一つで、こんなに慌てて駆けつけてきたくせに。

マナーは完璧なはずなのに、それが抜け落ちるくらい取り乱してたくせに。

それで魔女どのに想いを寄せていない、なんて良く言えたものだ。


思えばここ数日、ルーカスは執務中もずっとそわそわしていた。

普段そんなことしないのに、「来客はないか」と何度も側近に確認していたし。

会議中以外は必ず自分のところに一報入れろ、と念まで押していた。

あれは、魔女どのが会いに来ていないか確認していたのか。

きっと今日のエスコートを自分に頼みに来る、と思っていたんだな。


・・・で、あれだけ待ったのに結局魔女どのは来なかった、と。


ああ、それで今朝のルーカスの機嫌が最悪だったのか。


意地を張らずに、自分からエスコートを申し出ればよかったのに。

去年は王族としてバハム王女をエスコートしなければいけなかったが、今年はそうじゃない。

いくらでも声をかける機会はあっただろうに。


バハム王女とルーカスが婚約するのでは、という噂が少なからず流れているようだが(もしかしたら父上にはそういう意図があったのかもしれないが)、あの二人はダメだな。

相性が悪すぎる。

個人的交流も卒業後は全くないようだしな。


未だに婚約者を決めようとしないルーカスに父上は頭を抱えていて、『もうこの際、誰でも言いから連れて来い』とまで言っている。

つまり、魔女どのと添い遂げられる可能性もゼロじゃない。


「結局シロはなにが言いたいんだ?」


ルーカスと魔女どのの言い合いはまだ続いている。

相変わらず魔女どのは察しが悪いな。

まあ、ルーカスの言い方にも問題があるんだろうが。

端から見ている分には微笑ましいし、なによりちょっと楽しいんだが(ルーカスには絶対内緒だ)。

こんな調子で二人はどうなるのか。


こればっかりは、ルーカスと魔女どのの気持ち次第だから、俺がとやかくいうことではない。

魔女どのとの結婚は、色々と大変だろうとも思うしな。

だからルーカスが決めたことなら、あれこれうるさくいうつもりはない。


ただ一言だけ、王子としてではなく兄として言わせてもらうなら。


「ルーカス、『キメる』べきところはきっちりと『キメろ』よ」


後で後悔することがないように。

男らしく、言うべきことはきっちりと伝えろ。


そんな意図を込めた言葉に、ルーカスがちらりと視線をこちらに向けてきた。

嫌そうに歪んでいた顔が、また一段と嫌そうに歪んだ後。

ふと真面目な顔になる。

そしてそのアメシストの瞳は、ゆっくりと魔女どのに戻っていって。


「エスコートしてやるから、さっさと『ふさわしい格好』に着替えろ、と言っている!!」

「へあ?」


うん、よく言ったぞ、ルーカス。

それでこそ、俺の自慢の弟だ。








そうして、デネブにヤキモチをやいた殿下は、さっそくラナベルとおそろいのものを贈ろうとしたそうですが。

ルーカスに、「あと数日もすれば、これ以上無いほどのもの(結婚指輪)をお互いの指につけるではないですか」 と言われ、大変満足したそうです。



読んでくださりありがとうございました。



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