あなたとずっと
どんな困難な状況であろうと愛し合い結ばれる。
そんな『真実の愛』を見つけたなら魔女の制約はとけるはず。
なのにウィルフレイ殿下の制約はまだ解けていない。
なぜ?
わたしが相手では『真実の愛』にはならないの?
そこまで思って、そうではないと気がついた。
ウィルフレイ殿下の右手は今もわたしの手を握ったまま。
今までの殿下なら、わたしをわたしだと認識した途端手を振り払っていたはず。
なのにそれがない。
それにその美しい顔に浮かべられた表情。
自分が発した言葉に絶望し(物理的にではなく精神的に)今にも死んでしまいそうな顔つきをしている。
これも今までなかったことだ。
つまり・・・。
制約の一部は解けている・・・?
でも先ほどの『アバズレ』発言を見る限り、完全に解けたわけではない。
うーん、と考えて、一つの可能性に行き着いた。
そもそも、魔女は何を以て『結ばれた』と定義しているのか。
ゲームのエンディングでは必ず、ヒロインと『結ばれて』制約が解けたと明記されていた。
結婚式のスチルがあって、その後制約が解けた攻略対象者単体のスチルが続いた。
つまり、制約が解けるのは結婚式の後。
でも一部の制約が今解けているのを考えるなら、重要なのは結婚式ではなく、その後の・・・・。
『結ばれる』の定義は心が通じ合う、だけじゃなくて、体も、ってこと・・・?
今は心だけが通じ合った状態だから、制約の一部だけが解けてるって感じ・・・?
確証はないけれど、そう考えればつじつまが合った。
魔女の制約が完全に解けるのは、身も心も結ばれた後。
そこまで考えて、ふとゲームのウィルフレイ殿下の制約は解けたのだろうかと気になった。
他の攻略対象者ははっきり『解けた』と明記されていた。
でもよくよく考えてみれば、ウィルフレイ殿下だけはヒロインと結ばれたであろう後も、その事実が明記されていない。
魔女に願いを叶えてもらったという描写が、ルート前半であったにも関わらず。
ヒロインと結婚式を迎えた後、どこか遠くを切なげな顔で見つめているウィルフレイ殿下のものすごく綺麗なスチルが一枚あっただけ。
それがまた意味深で、ファンの想像力をこれでもかというくらい掻き立てたわけだけど。
(ちなみにウィルフレイ殿下が好きだったのは実は弟のルーカス殿下だったのでは、という独特の見解もあった。本人たちが知ったら、特にルーカス殿下は激怒するんだろうなぁ)
・・・多分、ウィルフレイ殿下の制約だけは解けなかったんだ。
ゲームのウィルフレイ殿下も同じようにわたしの回復を願ってくれて。
結果、魔女に同じ制約を受けていたなら。
殿下が愛していたのはずっとラナベル一人。
だから最後の最後までヒロインには『好きだよ』とは言ってくれなかったんだ。
ラナベルと結ばれなかったから、殿下の制約は解けなかった。
ずっとずっと一人で堪えて、そして最後に婚約破棄という手段でラナベルを自由にしてくれた。
ラナベルの幸せのために。
きっと最後のあのスチル、あの切なげな顔、その視線の先にはラナベルがいたんだ。
もう手の届かない愛する女性が。
そう思うと、どうしようもないほどの愛しさがこみあがってきた。
今ここにいるのはゲームのウィルフレイ殿下じゃない。
けれどもしなにか一つでも違っていたら、わたしたちは同じ結末をたどっていたのかもしれない。
あんなふうに一人で堪え、一人で全てを背負うウィルフレイ殿下がいたかもしれない。
愛おしい。心の底から殿下が愛おしい。
くしゃりと崩れたウィルフレイ殿下の顔。
苦しそうに細められたその目から、ツーッと音もなく涙がこぼれ落ちていく。
きっとまたわたしを傷つけたとご自分を責めているのだろう。
一筋二筋と涙は止まることなく流れ落ちていく。
わたしが知らなかっただけで、殿下はもうずっと長い間、こうやって一人で堪えてくださっていた。
でももう一人になんてさせない。
目に見えるもの、耳に入るものだけを信じない。
わたしはウィルフレイ殿下に確かに愛されている。
そしてわたしもウィルフレイ殿下を愛している。
わたしが信じなければいけないのはそれだけだった。
「殿下。ウィルフレイ殿下、大丈夫ですよ」
握っていた右手をそっと離し、両手で殿下のお顔に触れた。
血の気を失い、ひどく冷たい頬。そこに伝い落ちて来る涙を掬い上げる。
こんなふうに苦しそうに声を殺して泣かなくても大丈夫です。
わたしは本心ではない貴方の言葉で傷ついたりしない。
「愛しています、ウィルフレイ殿下」
ずっとずっと幼い頃から大好きだったたった一人の人。
わたしはもっと早くに貴方にそう伝えるべきだった。
「ずっとわたしをお側においてください」
わたしの言葉に、息をのむ音。
驚いたように美しいサファイアブルーの目が大きく見開かれ。
徐々にその顔がまた崩れていく。
そして。
顔をくしゃくしゃにして、ウィルフレイ殿下は笑った。
「・・・このアバズレが。俺の前に顔を見せるな、不愉快だ」
その言葉と同時にわたしはぐいっと体を引っ張られ。
ウィルフレイ殿下に力いっぱい抱きしめられた。
ラナベルの予想通り『結ばれる』の定義は身も心も、です。
ルーカスがデネブ本人に確認をとってます。
今の殿下は言葉だけ縛られている状態ですね。
読んでくださりありがとうございました。




