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あの言葉の続きを聞かせて

殿下の視点です。

よろしくお願いします。

意識が真っ暗などこかに落ちていく。

ここはどこだ?

ひどく寒い。

上も下もどこを見ても真っ暗で。

なのに、落ちていく感覚だけははっきりと分かった。


このまま落ち続けたら俺は一体どこへ行くのか。

その先には何があるのか。


色々と考えることがあるはずなのに、頭が働かない。


もういい・・・もう疲れた。


『・・・このアバズレが!』


自分の口からでたあの最低な言葉が、ずっと耳に残っている。

一体何度めだ。

大事なラナベルを傷つけたのは。

ラナベルの白い頬を涙が伝い落ちていた。

俺が泣かせたんだ。


この5年間、俺はラナベルになにもできなかった。

しかもそれだけじゃなく・・・。


『お猫様に引っかかれた傷はもうよろしいのですか?』


あの言葉に、とっさに右手首を隠してしまった。

きっとラナベルは気がついた。

いや、多分その前にはもう気がついていたんだ。

毎月毎月手紙を送り付け、執拗に付き纏っていたのが俺だったことを。

じゃなきゃあの場であんなことを聞くわけがない。


決して騙そうと思った訳じゃない。

けれど騙していたのとなんらかわらない。

きっと軽蔑された。

気持ち悪いと思われた。


───・・・こんな俺はもう必要ない。


なあ、ラナ。

幸せにできなくてごめん。

大切にできなくてごめん。

これからアランとどうか幸せになってほしい。


そう、思っていたのに。


『ウィルフレイ殿下!!』


・・・ラナ。

なぜあの時俺の名を呼んだ?


『申し訳ありません、アラン殿下。殿下の求婚をお受けすることはできません』


どうして、アランの求婚を断ったんだ?

貴女はアランのことがずっと好きだったんじゃないのか?

俺のやり方が悪かったからか?

随分と強引なやり方だった。

その自覚はある。

けれど俺にはあれ以上のやり方は見つけられなかった。

貴女には、幸せになってほしかったのに。

上手にアランのもとに送り出してあげることすら、俺には出来ない。


意識が下へ下へと落ちていく。


もういい、もう疲れた。

こんな俺はもう必要ないんだ。


けれど小さな光が、真っ黒に染まっていた俺の心に差し込まれる・・・。


『求婚をお受けできない理由は・・・』


・・・なあ、ラナ・・・あの言葉の続きは?

あの時貴女はなんというつもりだった?

どうして貴女のその視線の先に俺がいたんだ?

どうしてあんなに真剣な目で俺を見て・・・。

あれではまるで・・・。


ラナ・・・。

俺の大事なラナベル・・・。

白状するよ。

俺は本当は、一度だって納得なんかしてなかった。

ただずっと自分に言い聞かせていただけだ。

俺ではダメだ、俺では貴女を幸せにはできない、と。

自分の心を押さえ付け、ずっと考えないようにしてただけ。

だけど本当は、アランにも他の誰にも貴女を渡したくなかった。

貴女が他の誰かの手を取ることも、他の誰かが貴女の手を取ることも嫌だ。

貴女が他の男に笑いかけている、それだけで気が狂いそうだった。

ごめん、俺は実は相当に嫉妬深いんだ。


ラナ・・・。

貴女をアランにも、他の誰にも渡したくない。

今まで優しい言葉一つ言えず、婚約者らしいこと一つできなかった俺が、こんなことをいう資格がないのはちゃんとわかってる。

貴女を大切にできず、怖くて避け続けることしかできなかった俺が今更何を言っているんだと、さぞ呆れられるだろう。

でもごめん。

本当は、俺は一度だって納得なんかしていないんだ。


ずっとずっと初めて会ったあの頃から、貴女に恋い焦がれていて。

そんな貴女の隣にいるのは他の誰でもない、俺でいたい。

誰にも渡したくない。

貴女を幸せにするは俺がいい。


だからお願いだ。

あの言葉の続きを聞かせて・・・。

俺の望む言葉で。


───・・・ラナベル、どうか俺を選んで・・・!


真っ暗な空間の中、意識は下へと落ちていく。

このまま最後まで落ちてしまえば、俺はきっと死ぬ。

本能でそれがわかった。

ぼんやりと霞がかかっていたような意識が、ゆっくりとクリアになっていく。


まだだ・・・。

まだあの言葉の続きを聞くまで、俺は死ねない。


少しでも抗するために、必死で右手を伸ばした。


まだ生きていたい。

俺は・・・。


その手を、何かが・・いや誰かが握り返してくれる。


『ウィルフレイ殿下!』


この声は・・・ラナベル?

ああ、帰りたい、貴女のところに。

そして俺は・・・。


───・・・俺は貴女とともに生きていきたい!!


そう強く願ったと同時に、俺の意識はぐいっと上へ引っ張り上げられた。







「殿下!! ウィルフレイ殿下!」


すぐ耳元で聞こえる、澄み渡るような美しい声。

俺は、どうしたんだ・・・?

何度か瞬きを繰り返すが、視界がぼんやりとしていて良く見えないし、体もうまく動かない。

俺は、死んだのか・・・?

そう思ったとき、右手を誰かに握られていることに気がついた。

何度か瞬きを繰り返す。

血だらけの俺の手。

その手を、厭うことなく両手で握りしめてくれている人。

その手をたどり、ゆっくりと視線をあげていく。

細い手首。

抜けるような白い肌。

肩から流れる美しいサルビアブルーの髪。

魅惑的な首もと。

そして・・・。


「・・・・・ラナ・・・」


泣きそう顔で、じっと俺の顔を覗き込んでいる最愛の人。

ああ、ラナベル、やはり貴女か。

俺をこちら側に引き戻してくれたのは・・・。


『ありがとう』と。

そしてもう一度『愛している』と、そう貴女に伝えたい。

魔女の制約は、それを俺に許してくれるだろうか?

まだ俺は自分の気持ちをちゃんと貴女に伝えられるだろうか?


だけどもしダメだったら俺はまた・・・。

一瞬だけためらった。

そんな弱気な俺を知ってか知らずか、ラナベルが握ったままだった俺の右手にぎゅっと力を入れる。

そして・・・。

眩しいほど綺麗な顔で微笑んだ。

泣きながら、それでも疑いようがないほど熱のこもった目で俺を見つめて。


「殿下・・。 ウィルフレイ殿下、大好きです。わたしも。誰よりも殿下を愛しています」


告げられた言葉に、息が、そして思考が止まる。


今、なんて・・・?

俺は今何と言われた?

ラナベルは今、俺に何と言ってくれた?

・・・聞き間違いか?

それとも俺は、自分に都合のいい夢を作り出しているだけか?


だけどラナベルは確かにそこに存在していて、そしてその熱のこもった目には確かに俺だけが写っている。


聞き間違いなんかじゃない。

夢なんかでもない。


『誰よりも殿下を愛しています』


確かにそう言ってもらった。


ああ、ラナベル。

俺はどこまで愚かだったんだ。

貴女の本当の気持ちを知らず、こんなに遠回りをした。

貴女はこんな俺をずっと愛してくれていたのに・・・。


胸の奥から強烈な愛しさが込み上げる。

到底抑えきれないその思いを言葉にして伝えたくて・・・。


『ラナベル、俺も誰よりも愛している』

「・・・・このアバズレが・・・身の程を知れ」


・・・・・・は・・・?


俺は今、なんと・・・?


ア・・バズレ・・・?

またそう言ったのか・・・?


どうして?

ラナベルに愛していると言ってもらえた。

魔女の制約は解けたんじゃないのか・・・?

『どんな不利な状況だろうと、それでも愛し合い結ばれるのが真実の愛だろう』とそう言っていたのに。

俺とラナベルは今、愛を確かめ合い、結ばれたはずだ。

なのになぜ制約が解けない?


助けを求めるように視線を動かした先で。

隣に立っていた黒髪の女性に、すごい形相で詰め寄っていくルーカスを見つけた。

・・・その女性は誰だ?

貴族の名前と顔はおおむね把握しているつもりだが、見たことのない女性だ。

そう思ったが、その擦り切れた黒いローブと、血のように赤い瞳には見覚えがあった。

・・・・魔女?

ルーカス、そこにいるのは、俺に制約を与えた魔女なのか?


俺の声にならない言葉が聞こえたように、女性と何度か言葉を交わした様子のルーカスが顔をこちらに向けた。

そして。

なんとも言えない表情を浮かべて首を横に振り、ゆっくりと頭を下げた。


『心中お察しいたします、兄上』


そう、言われた気がした。


ルーカスの隣にいるのが魔女ならば。

そしてその魔女と言葉を交わしたルーカスが『ダメだ』というのなら。

ダメ、なのだろう。


受け入れられない事実に、ブルブルと体が震える。

魔女の制約は解けていない?

そんな・・・。

では俺はずっとこのままなのか?

このままずっとまた、ラナベルを傷つけ続けることしかできないのか・・・?


ラナベルの顔が怖くて見れない。

そんな俺が嫌になったのか。

俺の右手をずっと握ってくれていたラナベルの両手が、ゆっくりと離れていった。


深い絶望に、心が黒く染まっていく。


その時。


「殿下。ウィルフレイ殿下、大丈夫ですよ」


聖母のような優しく穏やかな声が聞こえたと同時に、ふわりと優しく頬を撫でられた。













読んでくださり、ありがとうございました。


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