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わたしの選ぶ道5

ウィルフレイ殿下の呼吸が・・・止まった。

苦しそうに上下していた肩も、胸も。


震える手で首元にふれる。

本来そこで感じるはずの拍動がなにも感じられない。


「で・・・・んか・・・」


「デネブ、お前なにをやっている!!」


視界の端で、ルーカス殿下がピンク頭につかみ掛かっていくのが見えた。


デネブ・・・・?


聞いたことがある。

どこでだっけ・・・?

なにか重要な名前だったはずなのに、わからない。

頭が働かない。

殿下は・・・わたしの大事なウィルフレイ殿下はどうなってしまったの・・・。

どうしてこんなにもお顔の色が白いの・・・。

どうして拍動を感じられないの・・。

どうして呼吸をしていないの・・・

どうして・・・・。


だめ、考えてはいけない。

その先には怖いことしか待っていない。


「痛い痛い、放せってば、シロ!! 大丈夫だよ、時間を止めてるからシロ(あに)は死んでない!!」

「当たり前だ! もし兄上になにかあったら俺はお前を絶対に許さない!!」

「悪かった! 謝るから放せってば、シロ!」

「うるさい、馴れ馴れしくおかしな呼び方をするな! お前よくも俺の兄上を!!」

「違う、シロ兄を狙ったんじゃない。あっちの邪魔者を排除しようとしたんだよ!」

「同じ事だ!!」

「全然違う。あの場で動けるはずがなかったんだ。特にシロ兄は。僕の制約と威圧、二つ同時にかかってた。あの場で誰よりも動けないのはシロ兄だったのに。なのにそれでも動いてきたんだよ! 勝手に前に出てきたんだ! そんなの僕のせいじゃない!」

「ふざけるな! そもそもなぜラナベル嬢を攻撃した! それにラナベル嬢が危険だとなれば、兄上は動くんだよ! それこそお前が言っていた『真実の愛』だろう! ああ、捜し物が見つかってよかったな! これで満足か!!」


・・・・・真実の愛・・・?


聞き覚えのあるフレーズに、思わず顔をそちらにむけた。


そこにいたはずの、異様な空気を醸し出していたピンク頭がいない。

変わりにそこに立っていたのはルーカス殿下と。

そしてそのルーカス殿下に胸ぐらを掴まれた、かわいらしい女の子。

歳は三つ程下だろうか?

肩まであるクルクルの黒髪に、真っ赤な瞳。

擦り切れた年代物の黒いローブを着た・・・。


ドクッと心臓が高くなった。


【魔女愛】における最重要人物。

登場する度に、老婆だったり、子供だったりと姿を変わっていたけれど、血のように赤い目だけは同じだった。

この世界で、わたしは赤い目をした人物にあったことがない。

であれば、あそこにいるのは・・・・。


───・・・魔女デネブ。


魔女は重い対価と引き換えに、願いを叶えてくれる。

そう魔女は願いを叶えてくれるのだ。

ならウィルフレイ殿下も・・・?


しっかりしろ、ラナベル!

ここでほうけていて何になる!

考えることを放棄するな。

そんな暇があったなら、今できることを探せ。

ウィルフレイ殿下がわたしの命をあきらめず、その方法を探し出してくれたように。


ゆっくりと息を吸い込み、肺に新鮮な空気を送り込む。

体全体に血を巡らせたところで、ゆっくりと時間をかけてその息を吐き出した。


とにかく冷静に、周りの状況を確認しなければ。

まずわたしの腕の中にいる、呼吸が止まったウィルフレイ殿下。

顔色が真っ白で、微動だにしない。拍動も感じられない。

けれど・・・・体がカチカチに固まっていて動かない。

これは明らかにおかしい・・・。

周りにも視線を向けてみる。

そこに立つ令息令嬢も同じように微動だにしない。

動けないんじゃない、石像のように動かない。

これは・・・。

時間が止まってる・・・?

そういえばさっき「時間を止めた」って・・・。

じゃあ、まだウィルフレイ殿下は生きている・・?

魔女の力を借りられれば助けられる・・・?


「・・・・『真実の愛』が欲しかったんだよ。シロが言ったんだ『兄上に愛される女性は幸せだ』って・・。だから僕は・・・シロ兄の愛が欲しくなった。婚約者を消せば僕が愛されると思ったんだ。・・・アイシャだって『アイシャの姿をしてこの学園に行けばシロ兄に愛される』って、そう言ったのに。なのに話が違う・・・」

「はあ? お前が言っていることは何一つとして意味がわからない」


アイシャがそういった・・・?

今そういったの?

じゃあ実はヒロインはデネブでした、っていう落ちじゃなくて、ヒロインのアイシャ ベルンが他にいるってこと?

そして自分のかわりにデネブを学園に行かせた・・・?

どういうこと・・・?

ううん、いまはそんなことよりもウィルフレイ殿下を助けてもらわないと。


「最近シロもシロ兄も森に来なくなったし・・・。暇で暇でしょうがなかったんだ! だからアイシャの頼みでもあったし、僕の方から会いに来てやったんだ!」

「頼んでいない。それになんだ、今までのあのくねくねしたバカみたいなしゃべり方のアイシャ ベルンは!」

「バカみたいとはなんだ! 可愛い女子を研究し尽くした僕の力作だぞ! 最高に可愛い女子だった!」

「どこがだ! アレだったらまだいつものお前の方がましだ!」


言い争いはいつまでたってもおわらない。

もう待っていられない。


相手は自由奔放で、こちらの常識など通じない魔女で。

たった今わたしを殺そうとして、結果としてわたしの大事なウィルフレイ殿下を傷つけた人だ。

だけど、この中でウィルフレイ殿下を助けられる人は、彼女しかいない。


強かになれ、ラナベル。

例え相手が誰であろうと、冷静に対処するの。

そのための知識も経験も、わたしは既に手に入れている。

だから出来る。


「魔女さま。あなたはもしかして西の森に棲むという、あの偉大な魔女さまではありませんか?」


あの少女のような見た目が、魔女の本来の姿どうかはわからない。

けれど話し方や表情から、随分子供っぽい性格であることが分かる。

ルーカス殿下に猫耳を生やして、笑い転げていたあのスチルからもそれは間違いないだろう。

であるならば、こうやって下手に出て持ち上げた方がいい。


わたしの問い掛けにルーカス殿下とデネブがピタリと話をやめ、顔をこちらに向ける。

数秒の沈黙。

だめだった? 一瞬そう思って冷や汗が流れたけれど・・・。


「・・・ふふふ・・偉大な魔女・・」


魔女の顔がふにゃりと揺るんだのを見て、わたしは内心安堵の息を吐き出した。


「・・・ふふん、ああ、ああ、そうだとも。僕が世界で一番優秀な魔法使いの・・・・・・」

「偉大かどうかは知らないが、こいつは確かに魔女デネブだ」

「おい、シロ! ここは僕が格好よく名乗りをあげる場面で・・・・」

「うるさい、少し黙っていろ」


まだ言い争いをしているけど、そんなことよりも・・・。


「偉大な魔女さま、お願いです、どうかウィルフレイ殿下を助けてください」


わたしの心からの願いに、ルーカス殿下もじろりと魔女を睨みつけた。


「そうだ、兄上をお助けしろ。早く。今すぐにだ」


魔女は重い対価を払えば、願いを叶えてくれる。

だからウィルフレイ殿下も助かるはず。

そのはず、なのに・・・・。


「それは僕には無理だ」


間を置かずして返ってきたその言葉に、わたしの心は絶望で一杯になった。







デネブがなぜルーカスを『シロ』と呼んでいるのかは、後々ルーカスの怒りのコメントと共にでてくる予定です。


ルーカスはお兄ちゃんの制約をなんとかといてもらおうと実は何度も魔女の森に通っていました。

(できた弟です)

で、結果、デネブとはそれなりに仲良くなってます。


読んでくださりありがとうございました。


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