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わたしの選ぶ道4

評価、ブクマありがとうございます。

とても励まされます。

多くの乙女ゲームがそうであるように、【魔女愛】も攻略失敗によるバッドエンドが存在した。

ツンデレのルーカス殿下が一番攻略が難しくて、選択肢を一つ間違えるだけですぐフラれる。

レイリーは接し方を間違えると、人間不信になり領地に引きこもってしまうし、ライナスは育て方(励まし方)を間違えると挫折してしまい、放浪の旅にでてしまう。

三人とも共通するのが、恋人に発展できずに別れを迎える、という点。

けれどウィルフレイ殿下のバッドエンドだけは違う。

どんな選択肢や行動をとっても好感度がぐんぐん上がり、バッドを迎える要因がほとんどないウィルフレイ殿下のルート。

だけど一つだけ。

絶対に選んではいけない選択肢がある。

ゲームの終盤。

夜会に出席していたヒロインはウィルフレイ殿下と踊った後、《バルコニーで休む》か《庭に出る》かの選択を迫られる。

そこで《庭に出る》を選択すると、ヒロインは男達の不穏な会話を聞いてしまう。

会話全てを聞き取れたわけではないが、どうやら誰かの暗殺計画のようだった。

ここでヒロインは再び選択を迫られる。

ウィルフレイ殿下にそれを伝えるか、否か。

ここで殿下に《伝える》を選択してしまうと、一直線にバッドエンドを迎えてしまう。

それもただのバッドエンドじゃない。

数日後、月さえ輝かない真っ暗な新月の夜。

暗殺者を捕らえに向かったウィルフレイ殿下は、その暗殺者と差し違えになってしまう。

乙女ゲームでメインヒーローが死ぬ。

多くのプレイヤーに衝撃を与えたバッドエンドだけど、実はある意味で最大の胸キュンシーンにもなってしまっている。

なぜか・・・?

ウィルフレイ殿下のルートはひたすら甘く優しい殿下に愛される話だった。

だけどめちゃくちゃに溺愛してくるにもかかわらず、ウィルフレイ殿下は最後の最後までヒロインに「好きだ」とは告げてくれなかった。

あのツンデレのルーカス殿下でさえ、エンディングで「お前が好きだ。俺の一生をかけて幸せにする」といってくれたにもかかわらず。

ウィルフレイ殿下は優しく微笑んで「ずっと大事にするよ」と誓ってくれただけ。

そのウィルフレイ殿下が、このバッドエンドでだけ。

死の間際になんとか駆けつけたヒロインに、光を失ったおぼろげな目で「愛しているよ」と呟いてくれる。

血だらけのウィルフレイ殿下の目がゆっくりと閉じていく。

そのスチルが切なくて、でも最高に綺麗で。

多くのファンが涙を流した。


そんなシーンがあったことを・・・・。

そんな悲しい結末があったことを・・・。

どうして今まで忘れていたのか・・・。

そしてどうして今それを思い出してしまうのか・・・・。








「ラナッ!!!」


すぐ耳元で声が聞こえたと同時に、ふわり鼻をかすめる爽やかな香り。

これはウィルフレイ殿下の。

思ったとほぼ同時に、体を抱き込まれた。


動かなかった体が、勢いに押され後ろに倒れていく。

ドサッと背中に衝撃を感じたけれど、ほとんど痛みを感じなかった。

いったいなにが起きたの?

なにか生暖かいヌルヌルしたものがわたしの右手に流れ落ちてきてる。

これはなに?


状況を確認しようと固く閉じていた目を開けて。


息が止まった。


「ウィルフレイ・・・殿下・・・?」


すぐ目の前に、ウィルフレイ殿下の美しい顔があった。

苦しそうに眉を寄せ、額にびっしりと汗をかいた殿下の顔が。

仰向けに倒れているわたしの体に覆いかぶさるように殿下がいて。

そして・・・。

その殿下の背中には、短剣が根本まで突き刺さっている。

つい先程わたしに向かって飛んできていた短剣に間違いなかった。


ウィルフレイ殿下がわたしのかわりに・・・・?


思った瞬間、わたしは殿下の体の下から這い出しぐったりと横たわるウィルフレイ殿下を抱き起こした。


「殿下! ウィルフレイ殿下しっかりしてください!!」


わたしの呼びかけに、ゆっくりと殿下が目を開けた。

そして・・・。

わたしを見留めた瞬間、その顔が嫌そうに歪んだ。


「ラナ・・ベル・・なんだ、死なな・・かったのか・・・」


『なんだ、死ななかったのか』


それは病から回復した時(あの日)お見舞いに来てくださったウィルフレイ殿下に言われたのと同じ言葉。

でも今ならそれが、わたしの無事を安堵しての言葉だとわかる。


「はい、フレイさまのおかげでどこも怪我などしておりません」

「・・・気安く・・名を、呼ぶな・・。・・誰が・・お前の体など・・心配・・するものか・・」


ゴボッと大量の血が殿下の口からあふれ出た。

それを見て体が震える。

恐怖でガチガチと歯が鳴った。


「・・・・・待ってください、殿下・・・ねえ、待って、待ってください・・・」


どうしていいかわからない。

わたしとウィルフレイ殿下の体の下にはもう大きな血溜まりが出来ていて。

その大きさに比例するように殿下の顔色がどんどん白くなっていく。


「ラナ、ベル・・・可愛い・・げが・・なく・・面白みの・・ない・・お前・・の・・・」

「殿下、もうしゃべってはダメです!」

 

苦しそうな息遣いをしながら、殿下はそれでも一生懸命言葉を紡ぐ。

その言葉が、そして冷たく響いていたその声が、嫌そうに歪んでいた顔が・・・。

ゆっくりと優しいものに変わってく。


「・・・婚約者で・・・られて・・とても、幸せ・・った・・・」

「殿下!! いやです、しっかりしてください!」

「ずっと・・・辛い、思いを・・させて、ごめん・・・ただ・・これ、だけ、は・・伝え、たかった・・・」


───・・・ラナベル・・・愛しているよ・・・。


光を失ったおぼろげな目。


『愛しているよ』

ゲームのバッドエンドで。

死の直前にそう呟いたウィルフレイ殿下。


いや・・・。

どうして今それを思い出すの。

やめてよ、今は()()()じゃない。

殿下の服装だってスチルとは違うし、場所だって違う。

だからこれが()()()のはずがない。


なのに・・・・。


殿下のその目がゆっくりと閉じていってしまう。

やめて、待って。


そう心の底から願ったとき。


「兄上!! 兄上を助けろ、デネブ!!」


ルーカス殿下の悲鳴のような声が聞こえ。


ピシッという耳に付く音とともに、世界が時を止めた。











読んでくださりありがとうございました。

またよろしくお願いします。

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