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わたしの選ぶ道3

誤字脱字報告ありがとうございます。

修正しました。

ずっと不思議に思ってた。

変わらずずっとウィルフレイ殿下の婚約者でいられることに、嬉しさを覚えながらも。

どうして役立たずで用済みなわたしを、殿下はいつまでも側に置いておくのか、と。

顔を見るのも嫌な女を、婚約者の座に据えておくことに何の意味があるのか。

婚約者を選び直すなら、早い方が絶対にいいのに。

なぜウィルフレイ殿下はそれをしないのか。

何度考えてもそれがわからなくて。

最終的にこれがゲームの強制力だ、と自己完結した。

ゲームが終わるまで、わたしは殿下の婚約者としてそこにいなければいけないのだ、と。

そこに殿下の想いなどない、と。

またわたしはゲームを持ち出して勝手に決めつけた。

あの時、前世を思い出して『悪役令嬢の自分は愛されない』と勝手に決めつけたように。


けれど違った。


───・・・『親愛なるラナベル いつだって貴女の幸せを願っている』


一度だって「好きだ」と言葉で伝えてもらったことはなかった。

けれど殿下からの愛情は確かに何度も感じていた。

どうしてわたしはそれを信じることができなかったのか。

前世を思い出した(あの)時わたしがすべきだったことは、『愛されないことを悟って、それでも努力すること』なんかじゃなかった。

殿下の愛を信じて『どうして殿下が突然冷たくなったのか』。

ここはゲームの世界だから。

自分は悪役令嬢だから。

だからしょうがない、と放り出したりしないで、その原因をきちんと考えるべきだった。

そうしたら、きっと答えを導き出せたはずなのに。

そのためのゲームの知識(ヒント)をわたしはいくつも持っていたのに。


ウィルフレイ殿下が拒絶の態度をはじめてとったのは、わたしが死の病から奇跡的に回復した直後。

そしてこの世界には重い対価と引き換えに、願いを叶えてくれる魔女がいる。


あの段階まで病状が進んで回復できた事例は今まで報告されていない。

まさに奇跡ですね、と。

ラナベル様は余程神様に愛されているのですね、と。

何度もそういわれた。

けれどそうじゃない。わたしが助かったのは奇跡なんかじゃなかった。


きっとあの時殿下が魔女に願ってくれたのだ。

『ラナベルを助けてくれ』と。

そしてそのせいで、殿下は愛情を正しく示せなくなった。


答えはこんなにすぐ近くにあったのに。

なのにそれに辿り着けず、長い間ウィルフレイ殿下一人に重荷を背負わせてしまった。


わたしをずっと愛してくれていたのは神様なんかじゃない。

その身を呈して、ずっとずっとわたしのことを守ってくれていたのはウィルフレイ殿下だった。


「ウィルフレイ殿下!!」


わたしの呼びかけに、ウィルフレイ殿下は右手を隠したまま青い顔をして後ずさった。

その美しい顔が嫌そうに歪む。


「・・・気安く名を呼ぶな。不愉快だ」


嫌悪感まるだしの冷たい声。

ゆっくりとわたしからそれていく視線。


わたしはこの声を、そしてわたしを突き放すその態度だけを信じてしまった。

目に見えるものだけ、耳に聞こえたものだけ。

それだけしか信じられず、その奥にあるものを見つけられなかった。

わたしは間違ってた。ずっとずっと間違い続けた。

けれど・・・。

今からでもその間違いを正せるだろうか?

ゲームだからとか、悪役令嬢だからとか、そんなこと関係なく。

ただのラナベルとして、あなたのことがずっとずっと好きだった、と。そして今この瞬間も大好きです、と。

そう伝えたい。


「アラン殿下・・・・」


まだ跪いてわたしの顔を見上げてくれているアラン殿下に声をかける。


「申し訳ありません、アラン殿下。殿下の求婚をお受けすることはできません」


正面に向き直り、丁寧に丁寧に、心を込めて頭を下げた。

馬を駆って急いで駆けつけた、と言ってくれた。

幼い頃からずっと好きだったと告げてくれた。

あなたに愛される未来はとても穏やかで優しいものだと簡単に想像ができた。

けれどわたしの心はいつだってウィルフレイ殿下でいっぱいだった。


「・・・理由を・・聞いてもいいかな・・・・」


優しいアラン殿下の声に。


「お前は馬鹿か! お前のような馬鹿な女を引き取ってくれる殊勝な男など、アランをおいて今後現れないぞ!」


ウィルフレイ殿下の罵声が重なる。

冷たい声で告げられる、侮辱の言葉。

けれどわたしはもう間違わない。


「求婚をお受けできない理由は、ウィ・・・・」


───・・・ウィルフレイ殿下を誰よりも愛しているから。


その言葉が。


突然響き渡ったバタンという大きな音に遮られる。


会場の外へと繋がる大扉。

その扉が何か大きな力で無理矢理こじ開けられた音だと気がついたのは、数秒後。


そして・・・。


「なんなのよぉ・・・。()()()()じゃないのよぉ」


近衛に連行されて強制退場したはずのピンク頭が、そこに立っていた。


え、どうして・・・?

彼女はアラン殿下の命令で、近衛に連行されていった。

その命令を覆せる人間なんてごく少数しかいないはずなのに。

それに扉の前は、別の近衛が守ってたはず。

なのになぜ彼女は()()にいるの?

なぜ扉が開かれているの?


開け放たれたままの扉の奥。

ピンク頭の背後に倒れている人影が見えた。

赤と黒を貴重とした軍服。


あれは・・・近衛・・・?


え・・・?  

ピンク頭がやったの?

訓練を積んだエリート軍人を?

どうやって?

ゲームのヒロインは特別な力なんて持ってなかった。

健気で、少しだけか弱い、ごく普通の女の子だったのに。


ピンク頭から漂う不穏な空気。

そして周りを威圧し押さえ込む、圧倒的な存在感。


どう見ても普通じゃない。

怖い。ここから逃げなければ。

本能的に危険を感じて、体が回避行動をとろうとする。

なのに、体が動かない。

なにこれ、どうなってるの?

目だけで必死で状況を確認すれば、目の前のアラン殿下も、周りにいる多くの令息令嬢も、そして壁際にいる近衛さえも動けないでいるようだった。


「ねえ、どうなってるのよ、おかしいでしょ・・・?」


ブツブツと独り言のようにビンク頭が言う。

「おかしいでしょ」はこっちの台詞よと、言ってやりたいのに動けない。


誰も動けないでいる中、ゆっくりとピンク頭が一歩を踏み出した。


瞬間体に電気が流れたように痛みが走る。


なにこれ、魔法・・・?

どうしてピンク頭にそんな力があるの?

ヒロインだから?

それとも・・・・よく聞く転生チートっていうもの?

ピンク頭も転生者?

・・・わからない。

でもこの状況が非常に良くないことだけは理解できる。


「ああ、そっか、わかったぁ。()()()がいるからいけないんじゃなぁい?」


ケラケラと楽しそうに笑うピンク頭の目が、ゆっくりとこちらを向いた。

赤い赤い。

血のように赤い瞳。


ヒロインってあんな目の色してたっけ・・・?


ぼんやりとそんなことを思ったわたしに向かって、何かが飛んできた。

ピンク頭の体から放たれた黒いもやのようなもの。

それはすごいスピードでわたしの方に向かってきながら、ギラギラと冷たい輝きを放つ短剣へと形を変えた。



避けなければ。

自分の身を守るためにあらゆる武術を学んだ。

剣だって上手に扱える。

なのに体が動かない。

指一本動かせない。

短剣はもうすぐそこだ。

ダメ、避けられない。

唯一動かせる瞼を固く閉じ、衝撃に備えた。


その時


「ラナッ!!!」


ふわりと鼻をかすめる爽やかな香り。

これは、ウィルフレイ殿下の・・・。

思ったとほぼ同時にわたしの体は力強い腕の中に包まれた。





ねぇ、ウィルフレイ殿下。

わたしの大好きなフレイさま。

思えばわたしも、一度としてちゃんと言葉にして貴方に気持ちを伝えたことがなかったですね。

機会は何度だってあったのに。

わたしは殿下と違って、ちゃんと言葉にして伝えることがいつだってできたのに。

なのに一度だってあなたに好きだと伝えなかった。

もしちゃんとそう伝えることができていれば。

もっと早くにわたしが好きだと伝えていれば。


そうすれば大事な貴方を、こんなに長い間苦しめずにすんだのに・・。


本当にごめんなさい。


フレイさま・・・ずっとずっと愛しています。













読んでくださりありがとうございました。

またよろしくお願いします。

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