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わたしの選ぶ道

わたしの左腕をきつく掴んでいたウィルフレイ殿下の手が、ゆっくりと力を失い離れていく。


「そうだな。・・・・・俺はもう必要ない」


氷のように冷たい声。

話しの脈略を考えれば、わたしの存在など、もう自分にはいらない、と。

そういう意味だ。

今度こそはっきりと捨てられた。切り捨てられた。


そう、思った・・・・けれど、ウィルフレイ殿下の・・・その顔は・・・・。


どうしてそんなに辛そうな顔をしているのですか?

さっきだって、殿下は自分の口から出た言葉に驚いたように目を見開いていた。

わたしに向かって、酷い侮辱の言葉を言いながら。でもその表情はずっとずっと泣きそうなほど歪んでいた。

どうして・・・?

だってウィルフレイ殿下はわたしのことなんて・・・。


「・・・・お願い、こちらを見て、ラナベル嬢」


キュッと、繋いだままだったわたしの右手をアラン殿下が優しく力を入れて握る。

促されるようにそちらに顔を向ければ、跪いたままのアラン殿下が優しい目でわたしを見上げてくれている。

その熱っぽい視線が、柔らかく微笑む口元が、わたしの手を握る手の熱が。

アラン殿下の全てが、わたしへの愛情をはっきりと示してくれている。


それを体全部で受け止めると、心がじんわりと熱を帯びた。

穏やかで心優しいアラン殿下。

こんなにストレートにわたしへの愛情を示してくれるアラン殿下。

わたしの事を信じ、わたしの頑張りを『知っている』と認めてくれたアラン殿下。


彼に愛されて過ごす人生はとても平穏で温かい日々だろう。


コナー公爵家のためにも、わたし自身のためにも、アラン殿下のこの手を取るのが正しい。

わたしの幸せはきっとアラン殿下と共にあること。

アラン殿下と一緒なら穏やかで優しい家庭を築いていける。

その未来が簡単に想像できるくらい、アラン殿下はわたしへの愛情に満ちあふれている。

なによりアラン殿下はゲームにはほとんど登場しなかった。

この先、ゲームの強制力やヒロインの存在に怯えることもない。

きっとこれは悪役令嬢であるわたしが得られる最後のチャンス・・・・。

幸せになりたいなら・・・愛されたいなら、この求婚を・・・・。


「ラナベル嬢・・・。どうか僕を選んでほしい・・・」


ギュゥっときつく手を握られた。

アラン殿下のうるんだ瞳がわたしを見上げてる。


わたしは悪役令嬢で。

どう頑張ってもウィルフレイ殿下には選ばれない。

わたしだって幸せになりたい。

だったら答えなんて決まってる。


・・・・・・・でも・・・。


視線は無意識のように動いてしまう。

わたしに背を向けて離れていってしまうウィルフレイ殿下へと。


ダメだ、と頭ではちゃんとわかっている。

わたしの存在がウィルフレイ殿下の幸せの邪魔をしているのだから、さっさと退場すべきだとちゃんと理解しているのに。

選ばれない、と知っているのに。

なのにそれでも心が納得しない。

ウィルフレイ殿下がどうしても好きなんだと叫び声をあげている。


身を焦がすほどの恋心をわたしは知っている。

どれほど苦しかろうが、辛い道だろうが、それでもあきらめきれない強い思いをわたしは知っている。


けれど・・・。


燃えるような恋でなくても。

アラン殿下が与えてくれるような、心を包み込まれる暖かい愛もいいのかもしれない。

わたしは貴族の娘で。

両親に大切に育てられたのだから、ちゃんと家のためになる結婚をしなければいけない。

ちゃんと孫の顔だって見せてあげたい。

それになにより、もう頑張るのは今日この日までだとわたしは決めていたのだ。


「・・・アラ・・・・・」


アラン殿下。


そう呼び掛けようとしたとき、急に会場がざわめいた。

反射的に顔を上げて周りを確認すれば、皆驚いたように一点を見つめている。

・・・・・? なに・・・?

不思議に思ってその視線を追っていって。


言葉を失った。


ウィルフレイ殿下の前方。

背筋を伸ばしてまっすぐに立つルーカス殿下の。

とても見目麗しい殿下の、その髪。

少しくせっ毛の柔らかそうな銀髪の、その隙間から、耳が・・・・。

フサフサの毛に覆われた、二つの耳が、ピョコンとたっている。


・・・ねこ・・みみ・・?

え・・・・? それ、猫耳・・・ですよね・・・?

え、いつのまに・・・?

今までそんなものつけてました・・・?

ってかルーカス殿下ってそんなキャラじゃないですよね?

え、どうして今猫耳なんかをつけて・・・?


余りの展開に頭が混乱する。

それは誰もが同じだったようで・・・。


「・・・えっと・・・ルーカス殿下・・あの、そのお耳は・・・・」


思わずといったように誰かが呟いたのが聞こえてくる。

じろっとルーカス殿下が、声の聞こえた方向に視線を向けた。


「・・・・・俺の趣味だが? ・・・何か問題があるのか?」


趣味?

趣味ですか?

この場面で猫耳をつけるのが?


でも殿下にここまで堂々と言われたら、これ以上の何かをいえるはずがない。


シンと会場が静まり返る。


だけど、猫耳・・・。

こんなヒリヒリするような局面で、頭に猫耳の飾りをつけるような趣味が。

そんなお茶目な(で、すまされるような事態なのかわからないけど)一面がルーカス殿下にあったなんて・・・。

ゲームのルーカス殿下はツンデレキャラで、そんなことをするような感じでは・・・。

そこまで思って、おかしな既視感が頭をよぎった。


猫耳のルーカス殿下が真っ赤な顔で怒っている場面。

ううん、これはスチルだ、

そうだ、【魔女愛】でそんなスチルを見たんだ。

確かルーカス殿下は魔女に与えられた権限を使うと、猫の耳が生えて・・・。

怒り狂うルーカス殿下を見て、魔女がケラケラと楽しそうに笑っていたっけ。


・・・魔女に与えられた権限?


ドクっと心臓が一際高く鳴った。


平然とそこに立っているように見えるルーカス殿下。

けれどよく見れば、殿下の肩はわずかに上下し、息が弾んでいる。

顔色もひどく悪いし、額に汗までかいている。

それに耳が・・・。

頭に生えている方の耳。

作り物であるはずの猫の耳が、ピクピクと動いている。

であればあれは作り物なんかじゃない。


あれば魔女のいたずらで生やされた耳。

魔女に与えられた権限を使うと一定時間生える耳。


ルーカス殿下が魔女に願い、得た権限は『どんな呪いでも一時だけ解く力』。

その力を今使ったということ?


いつ?


誰に?


わたしは、何か大変な思い間違いをしているのかもしれない。











読んでくださりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 世界観とキャラがとても好きです! [気になる点] 三点リーダーに関しては・・・ではなく……を使用した方がいいかと思います。 好んで使用している場合、申し訳ございません。 [一言] 1話…
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