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最低な婚約者6

上手な婚約解消法を見つけられないまま日にちばかりが過ぎ、ラナベルが学園に入学してきた。

なんなんだ、あれは。

本当に他の女生徒と同じ制服なのか?

可愛すぎないか?

見慣れたはずの学園の制服が、彼女が着ているだけでとても品良く見える。

あれはどう見ても天使だ。


そしてそんな彼女を他の男が放っておくはずがなかった。


いつ見かけても彼女はクラスの中心にいて。

そしてそんな彼女の周りには、明らかに彼女に好意を寄せる令息が何人もいた。


ラナ、お願いだから他の男の前でそんなかわいい顔で無防備に笑ったりしないで欲しい。


けれど婚約者としての役目を何一つとしてこなせない俺が、彼女の友人関係にまで口をだせるわけわけがない。

俺にはそんなことを言う資格なんてない。

そうして俺は口を噤みつづけた。


学園での生活が残り一年となったとき、ラナベルと同じ学年に一人の令嬢が転入してきた。

この国では、貴族は基本的に学園に入学することが義務づけられている。

その学園に途中編入という時点で『訳あり』なのが確定する。

病弱で今まで学園に通えなかったか、それともどこかの貴族の庶子か。

どちらにせよ、学年も違えば身分も違う。

俺が関わることはないだろう、とそう思っていた。


けれど違った。


その転入生、子爵令嬢のアイシャ ベルンはなにかと理由をつけては俺に近寄ってきた。

耳障りな甘ったるい声。

品のない喋り方。

媚びるような上目遣いに、支離滅裂な話題。

王族として誰にでも公平に接し、そして誰とも必要以上に馴れ合わない。

そう心掛けて来たにも関わらず、俺は彼女の顔を見るだけで嫌悪感に苛まれた。


なにより俺の心を揺さぶったのが、ラナベルの話題だ。


お前と俺が仲良くしているのをラナベルが嫉妬して、イジメてくる、だと?


馬鹿を言うな、誰がお前と仲良くなどしているものか。

それにラナベルがイジメだと?

彼女がそんなことをするわけがない。

それになにより、彼女は俺の事で嫉妬などしない。

同じ学舍にいながらも、昼食を共にしたことなどないし、学園のどこで会ってもいたって義務的な挨拶しかされない。目だって合わないし、一度だって・・・・いや、やめよう、俺が彼女に嫌われているのは承知の上だ。

その傷を自分でえぐってどうする・・悲しくなるだけだ。


どれだけ避けても、どこからともなく現れて、俺に付き纏うアイシャ ベルン。

まるで行動を読まれているか、監視でもされているようだった。


そしてそんな状態が数週間経った頃。

学園で不穏な噂が立ち上っていることに気がついた。

第一王子()がアイシャ ベルンを寵愛している、と。


馬鹿も休み休み言え。

誰があんなチンチクリンを寵愛などするものか。

俺の唯一はいつだってラナベル一人で・・・。

他の令嬢に心が揺れたことなど一度だってない。

そんな噂がたつこと自体、俺にとってはひどい屈辱だった。


けれど・・・俺は気がついてしまった・・・・・。


長い間苦しめたラナベルを、俺から解放してあげられる方法を。

ラナベルの名誉を傷つけることなく、最低な婚約者であった俺から助けられる方法を。


完全なる俺の不貞による婚約破棄。

それも中途半端なものではダメだ。

万が一にもラナベルの名誉が傷つかないように、誰がどう見ても俺が悪い状況を作り出さないといけない。

たくさんの目撃者がいる場所で婚約破棄を一方的に告げ、その上ではっきりと俺の素行を糾弾する人間も必要だ。

第一王子であり、近々王太子として起つこともほぼ決まっている。

そんな俺を、真っ向から憶することなく糾弾できる人間。

・・・・アランがいる。

誰も頼るものがいない隣国にありながらも、逞しく立派に成長した異母弟が。

・・・・アラン・・・俺は忘れていない。

お前はあの時俺に「ラナベルのことを誰よりも大切にする」と確かにそう言った。

・・・「なによりも優先するから」と。

「泣かせたり哀しませたり絶対しない」と。

そう訴え出たことを俺は確かに覚えている。

・・・人は皆同じじゃないから、たまには意見が衝突することもあるだろう。

少しばかり喧嘩をして、その拍子で気丈な彼女も泣いてしまうことだってあるかもしれない。

そんな小さなことはいいんだ。

喧嘩や意見の交換で絆は強くなっていくものだから。

けれどアラン・・・頼むからその言葉通りラナベルをなによりも大切にし、なによりも優先してくれ。

俺は何年もそれができず、彼女を苦しめたから・・・。

俺の変わりに、など到底言えないが。

せめて俺の分まで彼女を大切にしてほしい。


・・・・・もうすぐ、お前に彼女を返すから・・・。




俺の不貞による婚約破棄。

・・・・はっきりとその道が見えてしまってからのことは良く覚えていない。

けれど誰がどう見ても俺に非があるように、精一杯愚男を演じたことだけは覚えている。

俺の計画に巻き込まれるアイシャ ベルンには少しだけ罪悪感を感じたものの。

今までの彼女の行動、言動、そしてそれによる数々の罪。

王族に対する偽証罪、不敬罪、俺の体に許可もなく触る猥褻罪、王族の婚約者をおとしめる侮辱罪。

牢屋行きどころか打ち首になってもおかしくないレベルの罪の数々にそんな気持ちもいつしか消えた。

全てが終わった後、少しだけ刑を軽くするように尽力しよう。



そうして今日。


俺、カルシオン王国第一王子であるウィルフレイ カルシオンは。

沢山の令息令嬢がいるこの華やかな卒業パーティーで。


「ラナベル コナー公爵令嬢。 今この時を以て、お前との婚約は破棄させてもらう」


幼い頃からずっと愛しつづけた唯一の女性ラナベル コナーに。


・・・・・婚約破棄を告げた。








読んでくださりありがとうございました。


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