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最低な婚約者4

後数話殿下にお付き合いください。


誤字脱字お知らせしてくださった方、わざわざありがとうございます。

時間を見つけては、秘密裏に何度も『魔女』の元に通った。

なんとか制約を解いてもらえないか。

ダメなら別の制約にしてくれないか、と何度も交渉を持ちかけたが。

魔女は一度として首を縦に振らなかった。

制約を解く方法はただ一つ。

『真実の愛』を見つけることだけだ、とそういってきかない。

なんなんだ、『真実の愛』って。

そんな目に見えない抽象的な物を、いったいどうやって見つけろというのか。

そしてなにをもって『見つけた』と定義するのか反論すれば、『どんな不利な状況だろうと、それでも愛し合い結ばれるのが真実の愛だろう』と魔女はケラケラと笑う。


・・・・つまり愛情を示せない(こんな)俺が、それでもラナベルに愛されろ、と?


そんなこと不可能だ。

元々好き合っていたならまだ望みはあっただろう。

けれどラナベルの心は元々アランにあった。

好いていたのは俺だけ。

そんな状況で、口説くこともできない俺が愛されるなんて出来るわけがない。


それでも『魔女』がそういうのなら・・・どれだけ不可能な状況だろうと受け入れるしか俺に選択肢はない。

「嫌なら願いを無効にするか」と言われればなおさら・・・。





婚約者の役目を一つとして果たさない俺に、思うところはたくさんあっただろうに。

恨み言も泣き言も一度として言わず、毎日毎日ひたすらに努力するラナベル。

王子妃教育のため王宮を訪れたその姿を見る度に、愛しさが募っていく。

最近は少し疲れているように見える。夜はしっかりと眠れてる?

先日公爵と一緒に、別荘に遊びに行ったと聞いたよ。楽しかった?

さっき読んでいた本、俺も読んだよ。続編があるんだけどよかったら貸そうか?

今日は天気がいいから、時間があるなら外でお茶でもどうかな?


そんな些細な会話を交わしたかった。


けれど行動を縛られている俺には、そんな日常さえ望めない。




『魔女』との交渉は平行線のまま、なんの解決策も見つからず時間だけが過ぎ、ラナベルは14歳になった。

デビュタントの年だ。

婚約者同士は衣装を合わせるのが一般的で。

普通ならどんな色の衣装を着るのか事前に取り決め、それに合わせて男が装飾品をいくつか贈る。

けれど俺はその責務すら果たせなかった。

サファイアブルーのドレスを着る予定だという彼女に、よく似合うであろうティアラ、イヤリング、ネックレス。

いくつもその候補を見つけておきながら、いざ行動を起こそうとすると体が言うことを聞かない。

ラナベルには絶対に似合わないであろう物ばかりを送り付けようとしてしまう。

時代遅れの型落ちブローチ。

葬礼の時に使われることが多い黒真珠のイヤリング。

品位のないゴテゴテしいネックレス。


第一王子()が贈った物となれば、どれほど酷い品物でもラナベルはそれを身につけざるをえない。

そうなれば、せっかくのラナベルのデビュタントが台なしになってしまう。


・・・・そうして俺は、そんな大事な日に何一つとして彼女に贈り物をせず。

ちぐはぐの衣装で入場して、彼女に恥をかかせ。

ダンスさえ踊れず、彼女に惨めな思いをさせた。


「どうして兄上はラナベルを大切にしないのですか!?」


その夜、怒りで激しく肩を奮わせたアランに詰めよられた。

・・・・本当にその通りだ。

何一つとして反論できなかった。

俺がもう少しだけと望んだがために、ラナベルは確実に不幸になっている。

俺がもっと早くに手を放していれば。

もっと早くにアランに返していれば。

少なくてもラナベルは、デビュタントという大切な日に、こんな最低な婚約者に振り回され、一人でポツンと過ごすこともなかったはずなのに。


「大切にできないのなら僕にラナベルをください!!」


ああ・・・・。

そうだな・・・。

アラン、お前の言う通りだ。

俺ではラナベルを大切には出来ない。

・・・・・出来ないんだよ・・・。


・・・けれどアラン・・・。

今のお前のままではラナベルを幸せには出来ない。

穏やかで、優しい性格。

それはお前の美点で、決して欠点ではないが・・・。

ここ王宮においては話しは別だ。

優しいだけではラナベルを守れない。

後ろ盾のないお前では、発言力も立場も弱い。人脈も少ない。

それにもっと王族としての力の使い方を覚えないと。


だから・・・・。


俺はアランをバハムへと送った。

そこで自分だけの人脈を見つけ、見聞を広げ、知識を蓄えて。

そうして誰もが一目置く力を身につけて・・・そしてラナベルを迎えこい。


そしてラナ・・・。

俺の大事なラナ・・・。

ごめん、もう少しだけ辛抱してほしい。

貴女がずっと頑張ってきたことを俺は誰よりも知っている。

その貴女の努力、王子妃教育が無駄にならないように、できる限り穏便に。

そして貴女の評判を落とさないように上手に婚約を解消するから。

貴女が想いを寄せるアランのところに返してあげるから・・・。


だからごめん、後ほんの少しだけ・・・・・。





ラナベルとの婚約を、ラナベルの名誉を傷つけないように、なるべく穏便に解消する。

言うのは簡単だが、実行するのはとても難しい状況だった。

この婚約は王家と公爵家で正式に結ばれたものだ。

王子とはいえ、俺個人の発言だけで、正式に結ばれた婚約をしかもこんなに時間が経ってから覆すには無理がある。

それでもどうしても意見を通そうと思えば、それ相応の理由が必要となってくる。

例えば、相手の令嬢が王子妃として性格的、能力的に問題がある、とか。

世継ぎを望めない体である事が判明した、とか。

婚約解消が許されるのは国レベルの問題だけで、性格が合わないとか、何となく好きじゃない、とかそんなレベルの言い分では話にならない。

ラナベルは王子妃教育でもとても優秀な成績をおさめているし、性格は穏やかで誰にでも公平。

ついでにいえば、その姿は女神のように美しいし、笑った顔は天使のようにかわいい。

・・・・・俺はその笑顔をもう何年も見れていないけど・・・。

・・とにかく、性格的、能力的な問題云々の理由では婚約解消には持っていけないし、どの道そんな理由をつけてしまえばラナベルの名誉がこれ以上ないほど傷ついてしまう。


ではどうすればいいのか・・・。


・・・・いや、簡単な方法があるじゃないか・・・。

これ以上ないほど簡単で、確実な方法が。

ラナベルの名誉を守れ、かつ次の彼女の婚約者にアランが選ばれる方法が。


・・・・・俺がいなくなればいいんだ・・・。


いない人間と婚約継続はできない。

俺さえいなくなればラナベルの名誉を傷つけることなく、穏便に解放してあげられる。

そうして一応婚約者候補を置いているルーカスとは違い、アランにはまだその婚約者候補さえいない。

それが許されていたのはアランが第三王子だったからだ。

けれど俺がいなくなり繰り上がりでアランが第二王子となれば、婚約者は絶対に必要となってくる。

(それはのらりくらりと逃げ続け、未だに正式な婚約者を選んでいないルーカスにも同じ事が言えるが)

今から婚約者候補を選び王子妃教育を行わなくても、俺から解放された誰よりも優秀で、女神のように美しいラナベルがいる。

ルーカスがラナベルを望むことはその性格上ないだろうから、ほぼ間違いなくラナベルがアランの婚約者に選ばれる。


・・・・俺が無理矢理引き離した二人を、あるべき場所へと返してあげられる・・・。


・・・俺さえいなくなれば。


行動を起こすならいつがいいか。

まだアランの成長を確認できていない。後一年は様子を見るべきだ。

やり方は不慮の事故を装うか?

しかし急に第一王子()がいなくなれば国が混乱する。

なるべく混乱が少ないように、予兆を見せておいた方がいい。

であれば、病気? 病に倒れたように見せかけるために、微量の毒を飲みつづけるか。

なるべく自然な衰弱に見えるにはどの毒がいいか。


本気でそんなことを考えていた。


───・・・俺などいらない。いなくなればいい。


世界はもうずっと灰色のままで。

なにをしても楽しいと思えず、なにを見ても心が動かない。


だからきっと頭がおかしくなっていた。

相当に危うい精神状態だった。

なにか一つきっかけがあれば、大事に育ててくれた父や母を裏切って俺はその命を絶っていただろう。


そんな俺をまともな世界(こちら側)に引き戻してくれたのが弟のルーカスだった。




忘れもしない。

欠けたところのない真ん丸な月が、ランランとその存在を主張する夜だった。

自室で残った執務を片付けていた俺の元に(正確にはバルコニーに)、酷く弱った猫が一匹迷い込んできた。

白銀の毛並みに、アメシストのような瞳の、とても美しい猫だった。

・・・・ここは王宮で、ネズミ一匹侵入できないほど警備は強固のはずなのに、猫は入り込めるらしい。

本当だったら人を呼んで適当に対処するところだが、しかし俺は昔から生き物、特に猫が大好きだった。

なぜって、少し釣り上がったその目元や、凛としたたたずまいがラナベルに似ているから。

できればほんの少しだけでも撫でてみたい。

さらに欲を言えば抱き上げたい。

けれど俺は生き物にはことごとく嫌われる謎体質で・・・。

猫はバルコニーで丸まったまま動かない。

どこか怪我でもしている? 手当が必要か?

猫を怖がらせないようにそっと近づいた。


結果。


人生の中で三本の指に入るだろう、というほどの衝撃を受けた。


「・・・兄上・・・」


そう呼びかけられたのだ。

猫から。

そして猫は人の言葉を話しつづけ・・・・。


「・・・ルーカスです」


そう自分の身分を明らかにした。


・・・・・結論からいって、その猫はルーカスだった。


頭に浮かんだのは、書庫で見つけたあのボロボロの本の中の一節。

『ケモノに変身した人を見た』

・・・・・なるほど、確かに人はケモノに変身することが稀にあるらしい。

まさかそれが弟の身に起こるとは思いもしなかったが・・・。











読んでくださりありがとうございました。


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