やればできるさ
「中谷、おこせ」
「はい、すみません。柳君、ねぇ柳君ってば…」
「………」
「もぅ早く起きてよ…先生すみません…」
「ほんまにぃ!こっら〜柳〜っ!!おきんかい!」
ガタン
「は、はい、すみません、生きてます生きてます。えと、みんな元気でした!すみません」
「お前は何をゆ〜とるんや!授業中に堂々と寝やがって!それから変な夢でも見てたんか」
「えと…その…」
僕は嫌な夢をみていた。
「柳君大丈夫?」
「中谷さん、なんか皆同じ中学だった…」
「ん?何が?」
「夢の中でね、陸上部の仲間や先輩も同級生でさ、琵琶湖商業も一緒…鵜飼先輩なんて飲み屋の人だった…」
「柳君大丈夫?昨日のロードがキツかった?ちゃんと寝てる?」
「う、うん…まぁ」
「じゃ柳、罰や67ページ」
「はい。すみません…読みます。
私の父は下着を履かずに1日仕事をしたのだろう。なんとも言えないスースー感を味わっていたのだろうか…。何食わぬ顔で営業先をまわり、昼食をし、隣の社員と雑談していたのだろう。父が下着を履いてないなんて知らずに相手は笑っていたのだろうか…」
「はい、有難う。娘さんはいつまでたっても父親の失態を忘れることができない。では続きを東出」
「はい。平気な顔をして帰宅した父は笑いながら私に言った。【あはは、お父さんな、今日下着履かずに仕事したんだよ!】と。聞きたくなかった…言わないでほしかった…母は笑いながら【あらら大変だったわね】と。私は…」
「東出有難う。じゃ、この時の娘の気持ちはどうだっただろうか…はい、浜田」
「きっと悲しい気持ちだったと思います」
「うん、どうしてかな」
「自分の父親の情けなさにです」
「有難う。しかしこれから先、みんなもこんな事があるかもしれないぞ〜。じゃ中谷」
「はい、誇らしい父親だと思ったに違いありません」
「うん、どうしてだい?」
「1日をいつものように演じたからです。バレるんじゃないか…とかドキドキせず平然とやりきった父親に感動しているとおもいます」
「中谷有難う。そうだよな。もしかしたら先生だって今日は下着履いてないかもしれないぞ(笑)」
(マジか キモイ ヤバ)
この日の国語の授業は殆ど耳に入ってこなかった。
キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン
「きりつ・例」
ガラガラガラ
「ちょっとどうしたのよほんとに」
「うん…嫌な夢だったよ」
僕は中谷さん、東出さん、小西さん、浜田君に夢の内容を話した。
村山さんはお休み。職員会議の結果、1日だけ謹慎だった…。
「えーじゃ柳君は植物状態だったの?」
「うん、そうなんだ…お父さんの集金の時に襲撃されて…」
そして僕は皆を近づけ小声で犯人を言った。
「マジで!」「うっわ〜」「ありえる〜」
なんとも言えない顔の皆。
そこに 原くんが来た。
「まっいどまいど〜!あれ?ヤンキーは?」
「あ、原くん、村山さん?1日謹慎だって」
「そうけ〜」
相変わらずのペースで話し、村山さんの席の椅子に座った。
「なぁ、拓とか陸上部男子って駅伝でるんか?」
「え?駅伝?」
そう言えば女子のことばかりで自分達が出場するなんて考えていなかった。
「そうだよ、えと…だれだっけ…君」
「俺?原。あんたは?」
「東出ゆかり」
「宜しく」
「宜しく。出るなら応援いくぞ」
「うん私も」「私も」
「浜田君、僕達出るのかな…」
「う〜ん、確か男子7人だよね…2人足りないし無理じゃないかな」
「そうだよね、いないもんね…原君、僕達多分出ない(笑)」
「そうなんか、女子はバリバリやろ?」
「うん、あと1人なんだよな…ね、中谷さん」
「うん、そうだね」
「あんた可愛いな〜」
「え?あ、有難う」
「すまん、でも俺タイプちゃうねん」
「…はぁ?こちらこそ遠慮しますよ〜だ」
原君と中谷さんは言い合いをしていた。
チラッと東出さんを見たら
なんとなくなんとなく原君を好きオーラがでていた。
原君が続けた
「先週よ、本屋でベースボールナイス読んでたら隣に陸マガがあってな、表紙が仙台はぐくみ の人やったんやけど速いんけ?」
「あぁ あの人めっちゃ速い。小山ゆうりさん だったよね?中谷さん」
「そうそう1年からインターハイ選手。そりゃ一区でくるでしょうね」
意外に陸上に興味がある原君。
キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン
「ほなまた来るわ」
「うん」
原君は自分の教室に消えていった。
「ね、ね、柳君、私あの人前に自己紹介したよね?」
「え?ごめん、わからん」
「何部なん?彼」
「男子バレー部だよ」
「彼女いるんかなぁ」
「聞いとこっか?」
「うん」
「こんな話前しなかった?」
「え?私と?」
「うん」
「さぁ」
東出さんと僕はお互いにアホさを発揮し
無事に6時間目を終えた。
「じゃ中谷さんまた後で」
「うん」
タタタタタタ
トントン
「失礼します」
「うぃ〜」
「(あちゃ…ゴリラ)先輩ちわ」
「お〜柳やないけ」
「先輩…いつも絶対上裸ですよね」
「んなもん筋肉が拒否しとるぜよ」
「(ぜよ…)ベンチプレスどんだけですの?」
「今け?130くらいか」
「ほーそれはそれは」
「こないだよ力入れすぎてな、屁こいてしもてよガハハハ」
「音鳴ったんですか?」
「あぁ港に聞かれた」
「うっ…マジッすか!港先輩どんな反応でした?」
「上条、あんた昨日何食べたんやってよ」
「それで先輩なんて答えたんです?」
「におうけ って聞いたわい」
「会話になってませんやん、で港先輩は?」
「黙ってどっかいきよった」
「めっちゃ冷たい視線ちゃいました?」
「あいつ多分 俺が好きやな」
「え?なんでです?」
「恥ずかしそうにしてたからな」
「(泣かしたろか負けるけど)ちゃうちゃうちゃうちゃうちゃいますって臭かったんちゃいますのん」
「アホぬかせ香水の香りじゃ」
「(はぁ…脳みそも筋肉なんやろな)めっちゃいい匂いですやん(ゆーとこ)」
「そやんな!その後に副島が 誰かオナラしたやろ〜!ゆ〜とったさかいに、ほんまや!誰や!くっさー ゆーといたった」
「(ゴリラ…やっぱ臭いんかい)あらら臭いんですやん」
「ほな、先いくわ。部室の鍵ヨロシクメカドック」
「はい」
また部室の外から
上条服を着ろと言われていた。
「しゅ〜ご〜〜っ」
ダダダダダダダダダダダダ
「お願いします」
「お願いしますっ」
各パートメニューを聞き競技場に向かおうとした。
「柳」
「は、はい」
僕は小野寺先生に呼ばれた。
「お前こないだの体育祭で速かった女子と同じクラスやな?」
「はい」
「で?」
「はい?」
「どうなった?」
「えと…」
「鵜飼から聞いてへんか?勧誘の話」
「はい、誘ってはいるんですが…」
「今から呼んでこい」
「あ、すみません今日は謹慎で…」
「謹慎?」
「はい、ちょっとありまして」
「なんや、面倒くさい奴なんか?」
「違います違います」
「ほなら西川先生んとこ行って家聞いて行ってこい」
「はい?」
「家に行ってこい」
「今からですか?」
「そや、走ってな」
「(ぬぉ…なんて理不尽な)多分…」
「多分なんや」
「入部拒否かと…」
「ま、聞くだけきいてこい!」
「は、はい」
僕は職員室に行き西川先生に事情を話し
村山さんの自宅に向かった。
(12キロくらいか…)
タッタッタッ
ガタンゴトンガタンゴトン
-電車内から走ってる柳を見た-
「ね、ね、コニタンあれ柳君じゃない?」
「あ〜ほんとだ。どこいくんやろ」
「さぁまぁ頑張れだね」
「うん」
ガタンゴトンガタンゴトン
「ハァハァハァハァ」
タッタッタッ
(このあたりか…)
「すみません、村山さんのお宅わかりますか?」
「あ〜あこを右曲がった所やわ」
「有難うございます失礼します」
タッタッタッ
(これか…ハァハァハァ)
ピンポーン
ガチャ
「はい」
「あ、あの…村山萌々香のお宅でしょうか」
「はいそうですけど」
「あ、同じクラスの柳と申しますが、萌々香さんは」
「あ、ちょっと待ってくださいね、呼んできます」
「はいすみません」
-萌々香の部屋-
トントン
トントン
トントン
ガチャ
「返事くらいしろっ!ほんま愛想ないなあんたは!謹慎とかアホちゃうか!客や!玄関にいるわ」
「チッ…のいて」
「なんやあんたわ!」
-玄関-
「あ、柳…どしたん?」
「やぁ村山さん(笑)」
「お前…学校から走ってきたのか?」
「うん、まぁ(笑)」
「汚いけど上がれよ」
「え?いいよ」
「遠慮すんな、茶くらいだすから」
「う、うん、有難う、お邪魔しま〜す」
テクテク
「あらぁ萌々香ちゃんのお友達なのね。ごゆっくりどうぞ」
「有難うございます」
僕は村山さんの部屋に入った。
壁にはハリーズのポスターが貼ってあり
綺麗に整頓された教科書と漫画。
「ジロジロみんなよ」
「あ、ごめん」
「コーラにするか?」
「ごめ〜ん炭酸禁止なんだぁ」
「そっか、じゃスポドリでいい?」
「有難う」
「はいどうぞ」
「有難う」
僕は村山さんの部屋でスポーツドリンクをもらった。
「何か用事か?」
「え?まぁ…つか…お母さん?優しそうだね」
「…(笑)うん、で、どした?」
「村山さん…」
「な、な、なんだよ」
「お願いします、陸上部に入ってください」
整頓された本棚には陸マガやトレーニングの本も並んでいる。
「あのさ、今更入ってどーなるよ」
「え?だって体育祭速かったし、それにどいうしても都大路を走ってる姿見たいんだ」
「…人数いんだろうよ」
「うん、確かにいるよ、でも今の1年はこのままじゃ難しいかな」
「なんとかなるだろ?」
「このままじゃ琵琶湖商業に負けると思うんだ…同じ1年に町田って人、中瀬って人、我妻って人とか…いっぱい速い人いるんだ」
「優信だっているだろ?」
「あと1人足りない…僕は村山さんに入ってほしいんだ」
「はぁ…柳…気持ちは嬉しい、でもな…」
「高校生活を陸上に捧げてみない?」
「……」
「お願いします」
「まぁそんな頭さげるなよ、な、じゃ今夜電話でどうすっか連絡するよ」
「うん、いい返事待ってるから」
「ま、連絡するよ。つか走って戻るのか?電車賃貸してやろいたか?」
「(笑)大丈夫走って戻るよ」
「そか」
「うん、綺麗な部屋だね」
「やめろよ」
「あ、あんずのカセット」
「お前がダビングしてくれたやつな」
「聴いてる?」
「あぁもちろん」
「良かった〜。村山さんのウォークマン可愛い色だね」
「だろ!限定だったんだよ。柳は薄紫だよな」
「うん、オートリバース助かるよね」
「あれめっちゃいいよな(笑)」
「ほんと助かるよ。じゃボチボチ行くよ」
「そか、気付けてな」
「うん、じゃ」
テクテクテク
「お邪魔しました。失礼します」
「あらもぅ帰るの?また遊びにいらしてね、萌々香ちゃんも喜んでるし、ね」
「はい、失礼します。じゃ村山さんまた」
「あぁまたな」
ダッダッダッダッダッダッダッダッダッ
僕はまた長い道のりを走り学校まで帰った。
「拓ちゃんどこ行ってたの?」
鵜飼先輩が心配そうに話してきた。
「お疲れ様です。小野寺先生から村山さんの所へ行けと」
「そうなんだ、で会えたの?」
「はい、何とか(笑)今夜入部か連絡あります」
「ふ〜ん、そなんだ」
「あ…なんかマズかったですかね?」
「なんだかんだ拓ちゃんやればできる子だねヨシヨシ」
そう言って鵜飼先輩は僕の頭をナデナデし、ニコニコと僕を見つめた。
「あは…あはは…が、がんばりました…はい」
「えらいらえらい」
先輩はニコニコと頭をナデナデしている。
その姿を…中谷さんが見ていた。
ジーッとナデナデされてる僕を見て
少しだけ笑った。
そして青木さんと八田さんと
グラウンドの向こうに消えた。
「ふぅ…拓ちゃん、中谷に見られたね(笑)」
「せ、先輩…」
鵜飼先輩はワザとなんだろうか…
「大丈夫大丈夫、拓ちゃん(笑)」
ニコニコと先輩は僕に話し
そして
「あの子入ったら大変だ〜」
そう言って去った。
タタタタタタ
浜田君が走ってきた。
「柳君、ずるいよ、頭ナデナデされてズルいよ」
「浜田君…これ中谷さんが見てた…」
「あ〜ぁ…誰が見ても…ま、いいや」
「ちょっと浜田君…」
「お疲れ様〜また明日」
「お…お疲れ様」
僕は着替えを済まし
あんずを聴きながら駅に向かった。
「お、お疲れ様でした」
「お疲れ様」
クールな港先輩に挨拶をし
ホームにいると
中谷さんがきた。
「中谷さんお疲れ様」
「お疲れ様」
「……」
「どしたの?なんかあった?」
「え?あ、さっき…」
「あ、鵜飼先輩の頭ナデナデ?あれ私いるの知っててワザとやってたよ。柳君気を付けた方がいいよ〜」
「え?」
「う〜ん同性だからかなぁ…ちょっと先輩…」
「あ…そうな…んかな…」
「ま、柳君がいいなら別にいいけどね。そだ先生から聞いたよ。村山さん家行ったんでしょ?どだった?」
「今夜にどうするか連絡くれるってさ」
「そなんだ!入ってくれたらいいね」
「うん」
そんな会話をしながら電車に乗った。
ガタンゴトンガタンゴトン
沈黙の2人。
じっと景色を見つめる中谷さん。
その横顔をみる僕。
陸上部の決まり事。
座ってはいけない
耳を出さないといけない。
そんなショートカットの中谷さん。
可愛い。
気付けているのかいないのか
彼女はめちゃくちゃモテる。
プシュー
「じゃまたね」
「お疲れ様」
プシュー
ガタンゴトンガタンゴトン
1人の車内。
静かに電車に揺られ
家に着いた
「ただいま〜」
「おかえり。お風呂入っといで」
「うん」
高校1年生の何気ない日常。
連絡があるまでの時間が長い。
プルプルプルプルプルプル
「僕出る!」
プルプルプルプル
「はい柳です」
「村山です」
「うん」
「あのさ…今日はわざわざあんがとな」
「うん、こっちこそ有難う」
「約束の電話な」
「うん」
「やっぱ」




