春季総体前ですよ
「こんばんは港です。ごめんなさいね、部員名簿見てかけたの」
「ここここんばんは・・・はい・・・」
ここ最近で一番緊張した瞬間だろう
「いきなりごめんね。鵜飼とどんな関係?」
ストレート過ぎた。強烈な無感情的な話し方にビビった。
「え?先輩と後輩ですけど・・・・」
「そう。柳は総体5000なんだよね?」
「はい(先輩は僕を柳って呼ぶんだ…)」
「小野寺先生はなんて?」
「17分半でいけって」
「随分ゆっくりでいいんだね」
「僕には今はいっぱいいっぱいかと・・・」
「中学野球部だもんね・・・って速い人は何部とか関係なく速いけどね」
「はい・・・ですね。なんとか頑張ります」
「言っとくね、鵜飼には気を付けなよ」
「え?」
「じゃ」
ガチャ プープープー
(なんだったんだろ・・・緊張した)
初めて挨拶以外に港先輩と会話した。
リビングに行き冷蔵庫からバナナとオレンジジュースを。
「おお拓、何やちゃんと食べてるんかよ」
「食べてもそれ以上のカロリー消費で笑。お父さんこそ痩せたら?」
「あほか!ガッツリ痩せとるわい」
「どこがよ、昔の写真と別人やん。捜索願もんやん笑」
「出せ出せ笑、そやそや、お父さんな、来月から暫くホテル暮らしやしな」
「は?大工が出張か?」
「おう、職人が足りんくてな」
「へーそうなんや」
「ビックリすんなよ。あの中谷建設の仕事やぞ!」
「マジで?」
「小林さんの紹介よ」
「そうなんや。じゃ小林さんと内装仕事なん?」
「そやろな、いっぱい職人くっさかいあんまわからん。でかい仕事や笑」
「いいやん」
「社長どんな人やろなー。お母さんみたいに怖いんかな笑」
「うわぁーゆーたろ笑。やっぱ髭か?」
「あはは想像したらそーなるわな」
「会社めちゃめちゃデカいんやろ?」
「浜にあるビルよ。あれやんけ」
「まじか!」
「絶対家もデカいやろな」
「電話出るのに5分かかるんちゃう笑」
「かもな。凄いよなーお父さんも柳工務店…」
「あんた一人親方やんか笑。もう拓に話したん?」
「お母さんええやないか社長やぞ社長!」
「一応そうやけど…ほんで拓、あんたは大会でるんか?」
「うん、5000走る」
「どっからどこまでよ?」
「競技場、競技場。12周半」
「うわぁ・・・お母さんゾッとする笑」
プルルルルプルルルル
「拓電話でて」
「えー」
「はよ、切れるやんか」
「はい柳です」
「こんばんは、鵜飼です」
「あ・・・こんばんは」
「どしたの?ビックリした?」
「い、いえ・・・」
「拓ちゃんさ、中谷にガツンと言ったら?」
「え?・・・」
「あーダメねー、今日は私が言ったけど、次言われたらちゃんと言いなよ」
「は、はい・・・」
「もー同じクラスだかなんだかしんないけど、拓ちゃんは一生懸命やってるんだから」
「はい」
「私は好きだなー拓ちゃんのそんな姿・・・」
「せ・先輩・・」
「大丈夫、私が守ってあげるからね」
「・・・」
「聞いてる?」
「は、はい・・・」
「よしよしえらいえらい」
「あ、あの」
「ん?何?」
「なんの香りですか?」
「ん?」
「ですから・・・先輩の発する香りはなんすか?」
「あはは拓ちゃんの変態笑。そんなの自分じゃわかんないよ。また近くで嗅ぐ?いつでもいいよ笑」
「え・・・・・?いえいえそそそそんなつもりじゃ」
「いいよ拓ちゃんなら」
「・・・・」
「じゃちゃんと体ケアして寝なよ。後、ホドホドにねっ」
「は?…ま、お疲れ様です」
「うん、お疲れ様・・・あ私チョクチョク拓ちゃん夢にでるよ。じゃね」
ガチャ
(・・・ほーそうですかそうですか先輩の夢にそうですかそうですか笑)
「もしもし山際さん?」
「あ鵜飼ちゃんどしたの?」
「いい感じよ今」
「いいなー青春だねー」
「うん、頑張ってる笑」
「でも仲いい人いるんだよね?その後輩」
「うん、でもね今そうでもないのよ。ちょっとゴタゴタしてるみたいよ」
「へーって・・・ゴタゴタさせたんじゃないでしょうね?笑」
「そんなのするわけないでしょ笑。一生懸命をバカにしたらダメだよって言っただけ」
「そうなんだ。色んな手使ってるのかと」
「いやだなー山際さん。今回はし.ん.け.ん」
「今回は?それ何回目笑?」
「初めてよ笑」
「へー初めてねー笑 何回聞いたか」
「今度見に来たら?めっちゃ可愛いから拓ちゃん」
「うん行く行く、拓ちゃんね。ガッカリさせないでよ」
「大丈夫!あ、山際さん駄目よ好きにならないでね」
「オッケー笑」
「じゃまた明日」
「うん陸マガ持ってく」
「よろしくねー」
ガチャ
-翌日-
「おはよー」「おっはー」
「柳っちおっはーおっはーキャッチボールしない?」
「・・・あ、野間さんおはよ…ごめん…しない」
「よ・・・おす」
「村山さんおはよー」
ガラガラ
「・・・ぉはよ・・・」
「な、中谷さん・・・ぉはよ・・・」
中谷さんは小声で挨拶をし、前を向いたまま座った。
村山さんがちょっと複雑な表情で僕を見
「大丈夫?お前」
と聞いてきた。
村山さんのお前に中谷さんの肩は揺れなかった。
「う、うん・・・大丈夫」
「そか」
ツンとした顔が少しだけ心配顔に。
中谷さんは、授業中一切僕を見ず、休み時間になると廊下にでていった。
昼休みの弁当の時間は弁当を持って何処かに消えていった。
嬉しそうに野間さんが僕を見ていた。
静かに弁当を食べていると村山さんが
「はぁ…お前らウザ!」
左手にパンを持ちながら睨んできた
「え?な、なに…かな…」
「あのさ、喧嘩したのかしらないけど、この空気なんとかしろよ!ウザいんだよ!」
めっちゃ怒っていた。
うんうんと東出さんと小西さんも頷いていた。
「ご、ごめん…」
「はぁ…ダリィ…」
そう言って残りのパンを口に入れ、僕の弁当のウインナーを手でとり
「理由はしんないけど、早く仲直りしろよな!」
とウインナーを揺らしながらパクっと食べ
嬉しそうに僕を見ていた野間さんに
「あぁ?」
と威嚇していた。
何も知らない中谷さんが戻ってきた。
「村山さん次の16巻貸してもらえるかな?」
「なぁ、地球なくなる前に仲直りしろよな」
「え?村山さん何?」
「あのさ、こいつにもいったんだけど、ドンヨリした空気持ち込むなよ!ウザいから」
「……ごめんなさい」
「何があったか知らないけど、いつもの二人でいてくれよな…じゃないと…」
「え?」
「……別に」
「な、中谷さん…ごめん…」
僕は謝った。
「柳君正直に言うね。私は何で柳君がよそよそしくしてるのかわからないし、鵜飼先輩にバカにするなって怒られたのかわからないの…」
「ごめん…」
「なに?私なんかした?ね?私は柳君に何かしたかな?おしえてよ」
興奮していた。中谷さんはかなり興奮していた。
前を向いたまま東出さんと小西さんが聞いている。
漫画を読みながら黙って村山さんが聞いている。
ちょっとザワつくクラス。
「ごめん…」
「そればっか!柳君はそればっかりじゃない!何で私が先輩に怒られて柳君によそよそしくされなきゃいけないの?ごめんばっかり!柳君って 最低」
「・・・」
ガラガラ
「何ザワザワしてんねんっ!座れっ」
5時間目の保健体育が始まった。
最悪の中、小野寺先生の保体。
僕は…
「柳!お前…」
「すみません…」
キーンコーンカーンコーン
ずっと前を向いている中谷さんに野間さんが近づいてきた。
「あのさ、今柳っちと喧嘩中?ならヤレヤレ!私さ、あんた嫌い。毎日毎日楽しそうに柳っちと話してさ、ニタニタほんとに嬉しそうな顔がムカつくの。だから、ね、もうさ、柳っちと話すなよ中谷」
「大丈夫。私、この人に興味ないから!言いたい事はそれだけ?じゃ好きに話しすればいいじゃない。いちいち話しかけないで!柳っち?はって感じ。たまたま同じクラスになって同じ部活。中学の実績ない彼に興味なんてある訳ないでしょ!これでも私は推薦エリートなんだから!ヘボ野球部あがりと一緒にしないでよ!」
野間さんはひきつった顔で席に戻った。
もぅ僕は下を向いたままだった。
バンッ!
隣から机を叩き村山さんが立ち上がった
「中谷お前!」
「あらどうしたの?村山さん。好きな人がバカにされて我慢できないの?ね、好きなんでしょ?この人」
「てめぇ…」
「好きって言えばいいじゃない。私は昨夜おなじ部活の先輩に告白されたわ。いい先輩よ。誰かさんと大違い」
(か、上条先輩か…)
「中谷てめぇ…」
「誰を好きになるかなんてわからないから。そうでしょ?ずっと一人の人を好きでいれる?親はどう?結婚して幸なのかな?我慢してるのかな。あなたのご両親はどう?幸せ?」
「……わ、わたしは……ずっと…」
「ずっと何?親は幸せ?ね?」
「…そ、それは…。私はずっと好きでいれる!中谷ほんとはお前もだろ?」
「……無理よ…ありえない。ないない私はない」
「なぁ…柳…」
(あ…村山さん…名前…呼んだ…)
「気にするなよな…」
「う…ぅん…」
この日から僕と中谷さんは
話さなくなった。
中谷さんは村山さんに漫画を借りることはなくなり
一人で過ごす時が増えた。
東出さんや、小西さんもあまり話さなくなっていった。
学ランのカラーがまだヒンヤリしていた頃
僕の前に座る女性の顔を忘れつつあった。
【まもなく電車がまいります】
ホームに一人。
デカいスポーツバッグにリュックの僕。
険しい表情で車内に。
ガタンゴトンガタンゴトン
トントン
「はい?」
イヤホンを外し振り向いた
「柳拓だよね?」
「はい」
「あたし浅井」
「はい?」
「前電話したんだよ」
「あ!」
「誠中の柳拓だろ?」
「うん」
「あのさ、いつかキャッチボールしない?夢なんだ」
「は?」
「私さ、ソフトボール部なんだ。その、白川中学でさ…ずっとあんたが…」
「え?白川中なの?隣の?バリバリのソフトボールだよね?」
「うん、でさ、あんた6割打ってただろ?」
「ま、まぁ…たまたま」
「ずっと憧れてたんだ…同じショートだし」
「そ、そうなんだ……」
「高校一緒でビックリしたけど、陸上部って聞いてもっとビックリした笑。てっきり甲子園行く学校かなって」
「あはは…全く勉強できないし、たまたま先生が話くれてね」
「未練ないのかな…野球…好きなんだろ?」
「…いいんだ、野球は観る方にしたよ」
「…そっか。ちょっと聞くけどミートポイントかなり近かったよね?」
「うん、自分でも思うよ」
「やっぱ左だからか?」
「かな…わかんないけど、変化球意識してためてたらそうなってたよ笑…」
「そっか、なんだ野球の話ししたら楽しそうだね。よかったよ。じゃ陸上もあれこれ考えてるのか?」
「まだまだ全然わかってないから、今は正直がむしゃら」
「へーじゃ余裕ができて、楽しくなったら、いっかいキャッチボールして」
「うん、たまには気晴らししたいしね」
「有難う。じゃ、あ、私3組ね」
「うん、僕は」
「5組だよね」
「正解」
「仲いいよね、前の娘と」
「……あ」
「じゃね」
知らないうちに見てたんだろうな
仲いいか……
以前はね…
中谷さんの笑った顔…
忘れたな…
トントン「萌々香入るよ」
「うんパパ」
「最近はどうだい?」
「柳と中谷が仲悪くて空気重い」
「そうか…仲良くしてほしいよね」
「うん」
「で、萌々香は柳君や中谷さんとは話すのかい?」
「話してないよ」
「どうして?」
「なんか…おんなじように話しづらい」
「萌々香は関係ないじゃないか」
「そうなんだけど」
「はい、これあげる。会社の人にもらったんだ」
「え?でもパパが」
「あはは2つあるから。ほら」
「ほんとだ」
「柳君にあげなよ、きっと喜ぶよ」
「うん、パパ有難う」
「萌々香、自分に素直にね、じゃお休み」
「おやすみ」
「明日も無理するなよ」
「うん、ありがと」
パパから あんずのキーホルダーをもらった。
柳、お前にやるよ




