ねぇ拓ちゃん
「声出して行きましょう」
「はい」
「元気だして行きましょう」
「はいっ」
「さぁカモンカモン」
優信陸上部、中長。
今日は峠越えロード。
北川キャプテンの掛け声に返事をし
坂下先輩のカモンに沈黙
長い長い道のり。
車のナンバーを覚える人
電柱の数を数える人
晩ごはんは何かと考える人
僕は……東出さんが昼間に歌っていたCMソングが頭を駆け巡っていた。
最悪だ。東出さんはサビしか歌ってなかった。
ずっとそのフレーズが。
集団でだいぶ学校から離れた所にきた。
「おいおい…優信からか?」
「結構距離あるわよね」
信号待ちの人が話している。
気分をよくしたのか、北川先輩が徐々にペースをあげる。
「違うんだよなー北川!」
坂下先輩がすぐに叫んだ
まただ…
「ほっとけほっとけ笑」
なんだ、坂下先輩と鈴木先輩の余裕は。
少しだけ周りを見渡せるようになってきた。
毎日走っていると慣れたのかな。
黙々と走っている港先輩。
紅い顔をしながら走っている鵜飼先輩。
ジワリジワリと離れる1年女子。
沼沢さんと川口さんはついていた。
「長田〜八田〜堀内〜山川〜南〜つけ〜〜!」
坂下先輩が1番後ろに下がり1年女子を押し上げる
ちょっと苦しそうな常山と川上。
浜田君は淡々と走っていた。
「北川、私前行くわ!」
鈴木先輩が前に。
北川先輩は少し下がった。
後5キロくらいだろうか…
学校の正門が目に浮かぶ。
ウザいウザいCMソングをかき消すように
ゴールしてダウンをしているイメージをした。
「サクラ足は大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
坂下先輩は鵜飼先輩を気遣っていた。
そしてチラッと僕を見て
「柳、靴馴染んだ?カッコイイじゃん」
と。
「ハァハァはい、馴染みました」
「そっか、流石だな鵜飼センスあるわ。いいよそれ」
「有難うございます」
「あはは先輩、私が選ぶんですから当たり前笑」
しかしまぁ なんだこの余裕の走りは。
「拓ちゃん、ちゃんと走れてるね偉い偉い」
「ハァハァ、ちょっと苦しいっす…」
「大丈夫大丈夫、典子先輩はちゃんとペース守るから」
「典子先輩?ハァハァハァハァ」
「鈴木先輩よ」
「あ、典子ってゆ〜んすか?」
「うん、じゃ坂下先輩は?」
「え?ハァハァハァハァ…」
「ブブーアウト!内緒笑」
「ちょっと先輩…」
「ハァハァ気紛れたでしょ笑」
「ま、もう着きますね」
ダダダダダダ
正門になだれ込み、汗だくのTシャツの袖で顔を拭いた。
「補強!腹筋いきま〜す」
「はい」
「背筋いきま〜す」
「はい」
「腕立ていきま〜す」
「はい」
「ひきつけいきま〜す」
「はい」
「ダウンいきま〜す」
「はい」
毎日繰り返す部活。
ロードやトラック、坂道、クロカン等
日に日に体は絞れ、筋肉は付き引き締っていった春。
薄暗くなる頃に部活は終わり
帰りの電車からバス停までに暗くなる。
部室を出る頃には暗い日もある。
春季高校総体に向けて、僕達は頑張っていた。
「ね、柳君、だいぶ慣れたんじゃない?」
「うん、中谷さんも慣れた?」
「うん、もうすぐ総体だね」
「そうだね」
「柳君は何でるの?男子は少ないから出れるでしょ?」
「うん、なんか5000らしいよ」
「そうなんだ」
「中谷さんでれそう?」
「なんとか幅はね笑。400は無理。副島先輩達いるから」
「そっか」
「青木さんは流石よ、100.200.リレー」
「マジで?凄いね」
駅入口辺に鵜飼先輩がいた。
「あ、お疲れ様です」「お疲れ様です」
「中谷お疲れ様!拓ちゃんお疲れ様」
「じゃ柳君、私は迎えが来るからここで!」
「迎え?」
「うん、お父さんの知り合いが家に来るからちょっと買物してから帰るんだ!先輩お先に失礼します。柳君じゃ」
「うん、また明日」「お疲れ様〜」
中谷さんは違う方向へ歩いていった。
「中谷も忙しいね笑」
「ですね」
「拓ちゃんスパイクぼちぼち買わないとね」
「ですよねって髪切ったんすね?」
「うんわかった?短いの好きだし、どう?」
「よく似合ってます」
「ほんと?拓ちゃんから聞くと凄く嬉しい」
「またまたぁ笑」
「ほんとよ、私は嘘嫌いだから」
「あ…そぅ…なんすね…はずいっすやん」
「いいじゃない別に嬉しいから嬉しいの」
「は、はぁ」
しばしの沈黙
電車を待っていると、向いのホームに
女性が2人立っていた。
(…あ…2組の…平田さん…)
「拓ちゃん知り合い?向いのホームの娘」
「知ってるような、知らないような」
「ふ〜ん、右の娘は何?拓ちゃん見て違う違うしてるよ」
「ほんとですね」
「あ、お〜い浜田〜!」
鵜飼先輩は向いのホームに歩いてきた浜田君に声をかけた。
「お疲れ様っす!柳君もお疲れ」
「お疲れ」
3人でデカい声を出して話した。
テクテクと2人組が浜田君に近づいていった。
「拓ちゃん、あの2人浜田に何か話してるよ」
「はい、なんすかね」
頭をかき、何やら嬉しそうな浜田君。
「なんか浜田笑ってるよ、どしたんだろ?」
「どしたんでしょうか」
鵜飼先輩は2人組がいるのを気にせず
「浜田どした?ニタニタして」
とデカい声で話している
僕はうっすら告白されたんじゃないかと思ってたけど
黙っていた。
「先輩、なんもありません、じゃ」
電車が来て、浜田君は電車に乗った。
窓から見えた車内景色。
浜田君と平田さんの横にいた人が一緒にいた。
ガタンゴトンガタンゴトン
「ありゃ告白されたよな浜田」
「ぽいっすね」
「そっかそっか浜田やるなー」
先輩と電車に乗り、ガタンゴトンガタンゴトン。
僕は吊り革を持ち、先輩はドアの手すりを持っていた。
特に会話はなく、同じ駅で降りた。
バスは違うが、バス停までは同じだ。
改札を抜け、階段を降りた。
すっかり暗くなった外。
立ち止まった先輩が
「あ、拓ちゃんまつ毛にホコリ付いてるよ、入るから目つむり、とったげる」
「はい、すみません」
突然だった。
チュ
「………ぁ」
右頬に柔らかい唇がそっと触れた
「髪型褒めてくれたお礼ね。じゃね」
「……は…はぃ」
あの時と同じ香りがした。
軽く手を振り、ニコッと笑って先輩はバスには乗らず去っていく。
(ねぇ拓ちゃん…私はね……)
「お疲れ様でした!」
後ろ姿に叫んだ。
先輩は黙ってまた手だけ上げ闇夜に消えた。
「ただいま」
「お帰り、なんやボーッとして」
「え?何食べたらいい匂いするやろな」
「は?あんた頭おかしなったんか?」
「なぁお母さん、嗅いだことない匂いってある?」
「そりゃあるやろ、隣の村田さんの靴下とかか?」
「違う…もっといい匂い」
「あんた村田さんの靴下嗅いだことあるん?」
「え?大体わかるやん悪魔やろあれは」
「あんた酷いな…ってほんまどしたんよ」
「またね!ちょっと部屋いくし」
僕は部屋に入り右頬を手をやった。
目をつむっていたが近づく温もりと香り。
そして柔らかい感触。
「はぁ……」
ため息なんだろうか、わからない。
はぁ って言っていた。
-中谷宅-
「お帰りなさいませ、おこしでございますよ」
「え〜ほんとにぃ?」
「はい」
「ただいま」
「萌々愛お帰り」
「お父さんただいま、佐久間さんいらっしゃいませ」
「いやいや久しぶりだね萌々愛ちゃん、ほら仁!」
「やぁ、久しぶりだね」
「ど〜も」
「じゃ食事にしようじゃないか、木野、頼むよ」
「かしこりました」
私の向かいに佐久間さんの息子が座っている。
緑学園のエリートボンボン陸上部。
ずっと同じ陸上クラブ。
物凄く嫌いな顔?うううん、全部嫌い。
「萌々愛、学校はどう?僕は充実しているよ」
「そう、良かったわね」
「こら萌々愛!仁君すまないね、生意気で」
「いえいえお父様、全然気になさらないで下さい」
(は?お父様?アホか)
「お待たせ致しました、スープでございます」
「あ、そうだ萌々愛、部活どう?優信」
「別に」
「なんだよ…僕と一緒に緑学園に行くのを蹴って優信選んだんだろ?」
「そうよ、だって優信が私を欲しがってくれてたんだし」
「緑学園だって君を欲しがってたよ」
「あのさ、はっきり言うね。私はかしこまった学校嫌いなの!」
「へーそうなんだ。ま僕には関係ないんだけどね。女ばっかりでよくやってるよ笑…そうだ!陸上部に野球部だった子いない?なんだったかな…遅すぎて覚えてないや笑」
「……は?(柳君だ)いたらどうなのよ」
「センスないから辞めたらって萌々愛からも言ってあげなよ。こないだは先輩かな…邪魔入ったけど笑」
「あんた関係ないでしょ?それに遅くないから」
「ま、そのうち辞めると思うけどね、あれは遅すぎて笑えるよ」
「ちょっと!いい加減にしなさいよ」
「こらこら二人共やめないか」
「あはは佐久間さん喧嘩するほど仲が良いって言いますわな笑」
「中谷さん笑、そうですなぁ」
「ごちそうさま」
「萌々愛、スープしか飲んでないじゃないか」
「うん、お腹いっぱいなの。木野ごめんなさい」
「はい、わたくしの事は気になさらずに、ゆっくりお休み下さいませ」
「有難う。では佐久間さん、お父様お休みなさいませ、あ、じゃね」
「お休み」「お休み」「うん、おやすみ」
「仁君すまないね。何処がいいのかね」
「中谷さん、気のキツイ所とか可愛いですよ娘さん」
「あはは是非とも嫁にしてやってくれ笑」
「こちらこそ」
「木野っ!萌々愛に伝えなさい、私が怒っていたと」
「はい、御主人様、伝えてまいります」
「いいじゃないですか中谷さん」
「駄目ですよ、佐久間さん、ちゃんと叱らないと」
トントン「木野でございます」
「どうぞ」
「失礼いたします。お父様が」
「どうせ怒ってるんでしょ?」
「はい…」
「どう思う?佐久間さんの息子」
「えっと…」
「木野、正直に答えて、お願い」
「はい、わたくしは…苦手な顔でございます」
「あはははだよね。私も無理、絶対無理」
「でもお父様は嫁にと…」
「はぁ?仁の?私が?ナイナイ、1000パーない。そんなんなるんやったらノース虎夫のほうがマシ」
「お嬢様、ノース虎夫を」
「うん、クラスの殆ど信じてる笑」
「わたくしもでございます」
「そっか…でも大丈夫よね」
「はい大丈夫ですよ、きっと。あの…よくお話されている方と佐久間のお坊っちゃまは知り合いなんでしょうか」
「そうみたい…あんなに頑張ってるんだもん、直ぐに仁なんて抜き去るよ」
「そうでございますか」
「木野、また色々話聞いてね」
「はい、では失礼いたします」
「また無理したのかね」
「すみません先生」
「折角治ってきたんだから、いいかい、遅れをとるの不安だろうけど、休むのもトレーニングだよ」
「はい…」
ズズジャジャズズジャジャズズジャジャ
「うるさいわね!」
「………」
最悪の金曜日。
パパは出張
あーも〜なんだよ…最悪!
あ……あんず…パパ1個持っていくの忘れたんだ。
カチャ
プルルプルル
「はい柳でございます」
「………」
「もしもし?柳でございますが」
「村山と申しますが、拓さんおられますでしょうか」
「あ…村山さん?」
「は、はい…」
「あなた、めっちゃ美人な村山さんでしょ」
「は?」
「拓が言ってますよ。わたし母です」
「はぁ…えと…」
「あ、ちょっと待ってね今呼んでくるから」
トントン「拓、電話」
「誰?」
「めっちゃ美人な村山さんから」
「えっ?」
ダダダ
「もしもし」
「……よっ」
「村山さん、どしたの?」
「あのさ、お前今暇か?」
「うん、大丈夫だよ」
「そか、そのさ、なんだ あんずのよ」
「うん、何?曲かな?」
内容なんてどうでも良かった。
パパがいない家。
気がついたら柳に電話していた。
「またかしてくれないか…実はパパが好きなんだ」
「そうなんだ!お父さん、あんず好きなんだ」
「あぁ」
「お母さんは?」
「え?……あ…えと…」
「ご、ごめん…なんかいらんこと言った気する。ご、ごめん…」
「いいよ別に。色々あるんだよ」
「僕のお母さんは大丈夫だった?」
「なにが?」
「変な事言ってなかったかな」
「…あ、あぁ…大丈夫だ」
「村山さんの漫画めっちゃ皆んな読んでるね笑」
「だな、花ケ崎の相手だれなんだろな」
「え?まだわかんないの?」
「まだまだかな、先は長いな」
「そっか」
「あ、あのよ、45巻に出てくるんだけどな」
「うん、なに?」
「暗い夜に花ケ崎が、とある女性にキスするシーンがあるんだ。でな」
「あは…あははは…」
「どした?お前なんか変だぞ聞いてるのか?」
「大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫聞いてる」
「何回ゆーんだよ、もういい」
「話し変わるけど村山さんって、どれくらいのペースで髪染めてるの?いい色だよ」
「地毛だけど」
「マジで?」
(な訳ねーだろ、単純だな笑)
「あぁ、お前のツンツンヘアも中々いいぞ」
「ありがと」
「ま、また…かけていいか?」
「うん、大丈夫だよ」
「おぉ、じゃな」
「教室でも沢山話しようね」
「ば、ばか…照。じゃな」
ガチャ
新鮮だった。
村山萌々香さんからの電話。
「はぁ…あんずか…全然違うよな」
鏡を見ながら私は少しだけ あんずのバイバイポーズを真似た
「フッ…にてねーな」
「ただいま」
「どうだった?」
「うん、無理したら辞めないといけないんだって」
「えぇ?どうするの?」
「休むのもトレーニングのうちだって先生が」
「そぅ、仕方ないわね」
「うん」
「じゃお風呂入ってきなさい」
「うん」
「あ、そうだ洋子の友達、上手くいったの?」
「どうだろ…また聞いとく笑」




