1-7
「おはよう御座いますお嬢様」
「おはようナナ」
開かれたカーテンから差し込む日差しに、んーっと伸びをする
昨日ベットに運ばれた私はその後また兄達の過保護が爆発してしまい、夕食のスープは一口一口、フーフーと冷ました後にあーんされる始末
まだ起きたばかりの私は胃が驚かないようにとシェフが回復食のスープを出してくれている
美味しいのだがなんだか味気なく思っていたが、あんな事をされてはもうお腹いっぱいだ
「その、お伝えしなくてはならないことが、、」
寝ぼけ眼で昨日に思いを馳せる私にナナは言いにくそうに口を開き私を見つめた
「今朝方、ルディカーティス様がいらっしゃり応接間にてお待ちです。
お引き取り願いましたが、ひと目会いたいと、、」
その言葉に一気に目が覚め血の気が引く
昨日の今日でなにを?まさかメアリアン様の事を強い口調で申し伝えた事がやはり不敬だったのかもしれない
「お部屋にお通し致しますか?それとも、、」
言い淀むナナに私は覚悟を決めるしかなかった
昨日はたまたま家族勢揃いだったがみんな仕事がある
本当に運がよかった、、というか私が眠る3ヶ月間、隙あれば各々休んで看病してくれていたようだがそのツケがきっちり回ってきたようで
昨夜泣きながら仕事を辞めると言い出す家族達を宥めるのに必死だった
「、、急いで支度して」
心強い家族たちがいない今私がなんとかするしかない
ー
ーー
ーーー
応接室に入るとルディカーティス様は直ぐに立ち上がり私を見ると少し悲しそうな表情をした
そういえば昨日は車椅子に乗っている姿は見せていない
「その、朝早くからすまない」
口調からして怒っているわけではなさそうだ
少しホッとしながらも逆に要件が分からなくなってしまった
「いえ、お待たせしてしまい申し訳ございません」
はからずともこの姿を見れば昨日の言葉に少しは現実味が出るだろう
昨日の婚約破棄を断ったのは既に私は座っていたし、社交活動に支障が出るという言葉にあまりピンときていなかったのかもしれない
ナナの介助の元、ソファに座り直そうとするとルディカーティス様がサッとナナを制する
「私が、」
そう言い唐突に抱き上げられびっくりする
ルディカーティス様も驚いたように目を見開く
「その、随分、、軽いのだな」
その言葉に顔が真っ赤になるのが分かる
思いの外高く抱き上げられた私は固まったままゆっくりソファに降ろされた
共にダンスを踊ったことは何度もあるが、抱き上げられたのは初めてだ
「その、、リーチェと呼んでも良いだろうか」
落ち着く間も無くかけられた唐突な言葉に私は目をパチクリする
一体なんの話だろうか
「えっと、、?」
「私の事もルカと、、いや、ルディもいいな」
突拍子もない言葉に私は思わず眉間に皺を寄せた
「その、婚約破棄を検討している段階ですし、、今更愛称で呼ぶのは些かおかしくはありませんか?」
私の言葉に不機嫌そうに足を組む
「婚約破棄は、しない。昨日もそう伝えたはずだ」
「えぇ、ですがご覧になりましたよね?」
チラリと車椅子に視線をやるもルディカーティス様は意にも介していない
「そんな事より許可を」
そう言われて首を傾げる、会話が噛み合わなさすぎる
「リーチェと呼ぶ、許可を欲しい」
真っ直ぐと瞳を見つめられて妙に頭痛がしてきた
「・・・お好きになさって下さい」
私の言葉にうんと小さく頷くと指先をいじいじと回す
「その、、リーチェ、、」
こほんと咳払いをして口にされなんだか背中がざわりと泡立った
家族や使用人以外の男性からそう呼ばれたことは勿論ない
「その、ルディカーティス様「ルカと、、いや、ルディでも良いが」
遮るように言われた言葉にきゅっと口をつぐむ
ルディカーティス様の漆黒の瞳は相変わらずで表情も一切変わらない為何を考えているのか分からない。
「その、、ルカ、様は」
慣れない言葉に少し詰まってしまった
「なぜ婚約破棄をなさらないのですか?」
「なぜ、、?理由がない」
やはり変わらない表情に困惑する
理由なら昨日言ったし、他にもあるではないか、、恋人とか恋人とかメアリアン様とか
「社交活動の事を気にしているなら問題無い、そもそも私はああいう場はあまり得意では無い」
そういう割にはよく夜会にも顔を出していた気がするが、、、
「る、、ルカ様が良くても周りはそうはいかないかと」
なんだか愛称が照れ臭く毎度詰まってしまう
「周りの事など気にしなくていい、」
そうはいかないでしょう
私が呆れてため息をついたのを知ってか知らずかルカ様は話題を変える
「今日からリハビリを開始するそうだな」
え?そうなの?
まぁそうか、私も知らない私の予定だが、普通に考えてそうだろう
「私も手伝おう」
思ってもいない申し出に驚く
暇じゃ無いはずなのに、一体どうしたというのだろう