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バンっと勢いよく開かれた扉に応接間でソファに座っていた私は驚きのあまり少しだけ飛び跳ねた
手紙を届けた早駆けはすぐに折り返してきたのだが、それから10分も経っていない
確かにすぐに来るとは書いてあったがまさかこんなにも早く来るとは思ってもいなかった
今しがた応接間に移動してきたばかりでまだ心の準備が追いついていない
私を見るや足早にこちらに向かってくるルディカーティス様をさっとお兄様達が阻止する
「とてもお早いご到着で驚きました、妹はまだ目覚めたばかりです、、とりあえずお掛けいただけますか?」
にこやかではあるがどうもトゲトゲしく聞こえるお兄様の言葉に少しハラハラしてしまう
今この部屋にいるのは日々登城している為怒りでも礼儀を忘れなさそうな2番目と3番目のお兄様だ
他のお兄様達はお父様も含め暴れ出しかねないという事でお母様と使用人達で取り押さえている
「・・・二人にはして貰えないのか?」
着席するなりそう言い兄達を見回す婚約者に何故か帯刀までしているドレイクお兄様からカチャリと音が聞こえた気がした
ジルお兄様も小さな声でぶつぶつとルディカーティス様に文句を言っているのがギリギリ隣に座る私には聞こえてしまう
あれ、人選間違えてない?
頭の回るジルお兄様は精神的に攻撃をどうしてやろうかと呟いているしドレイクお兄様は今にも切り掛かってしまいそうだ
「お兄様、少し外していただけませんか?」
両サイドに座るお兄様達を見回すとまさか出ていかさられるとは思っていなかった二人があたふたと私とルディカーティス様を見比べる
「・・しかしだなリーチェ」
こんな奴と?とでも言いたそうにルディカーティス様を見つめるドレイクお兄様
「大丈夫なのかい?」
とにかく二人きりにしたくなさそうに私を見るジルお兄様
「ナナに居てもらえば私は大丈夫よ
それに、何かあったらすぐお呼びしますから!」
語気を強めた私に二人は渋々立ち上がる
「妹は衰弱しておりますので手短にお願いします」
「・・・リーチェ、すぐ外に控えているからな」
二人とも何か一言は言いたいみたいだ
バタンと閉じた扉にようやく胸を撫で下ろす
ルディカーティス様との対面よりお兄様達への対応の方がよっぽど気を使う
「・・・もう、大丈夫なのか?」
かけられた言葉にようやくルディカーティス様を見て少し驚いてしまった
こんなに真っ直ぐ見つめられたのは、目があったのはいつぶりだろうか
思えばいつも横顔が、少し俯いている顔ばかり見ていた気がする
それに、なんだか少し痩せられたような、、?
「今朝方目を覚ましたばかりなので、、全快とはいきませんが座っているくらいなら大丈夫です」
にこりと笑いかけるとルディカーティス様はそうか、とだけ短く答えすぐに視線を逸らされてしまった
、、、それだけ?
兄達を退場させる意味合いの分からない会話だ
まぁ、私も今から言うことを思えばいなくなってもらっていた方がありがたいからいいのだが
スゥッと息を吸い緊張する心を落ち着ける
大丈夫、大丈夫、、どうせまた そうか とだけ言われて終わるはず
「その、一つお伝えしたいことがございます」
少し震える
「こっ、、婚約を破棄した方がいいかと思いますっ」
私の言葉にピクリと眉毛を動かすとルディカーティス様は驚いたように私を見つめた
「なぜ、、?」
私も経緯から話そうと思っていたのについつい先走ってしまった
「実は、足首を痛めてしまったようで完治は難しいと言われました。
公爵夫人となれば今後社交の場で踊らなくてはならない場面も多くあるかと思いますが私にはそれがもう難しい為、もっとふさわしい方が他にいると思い至りました。」
何度も考えた言葉をなんとか一息で言い切ると思い切ってもう一度
「なので、婚約破棄をっ「婚約は、破棄しない」
すぐに被せられた言葉に思わずヒュッと喉が鳴る
「その、もっとふさわしい方が、、」
「そんな者はいない」
何を言っているのか、いるでしょう、恋人が
眠っていた3ヶ月、何か大切な事がと思ったが、つい先日王子による婚約者の決定とお披露目があったのだ
つまり、選ばれなかったのだメアリアン様は
婚約破棄を提言しようと思った理由の一つがこれだ
私さえいなくなれば晴れて二人は婚約出来る、めでたしめでたし
私は適当に隠居でもして猫や犬に囲まれて暮らそうと思う
恋人やらはもう懲り懲りだし、子供は大好きだがお兄様達の子供やナナの子供を我が子のように可愛がれればそれでいい
まぁまだ誰も結婚していないが
「その、、私に遠慮なさっているなら大丈夫です」
「遠慮などしていない」
「社交出来ないのですよ?」
「そんなの、別にしなくとも問題ない」
いや、、あるでしょ問題
「、、、そうもいかないですよね」
「俺が、なんとかする。お前は気にしなくていい」
まるで私には関係ないかのような言い方
もしかして、社交は愛するメアリアン様となさるのかしら
婚約破棄も、メアリアン様がフリーになるや否や即乗り換えたのでは外聞が悪いからもう少し間を置いてからでもなさるのかしら
私が社交できないともっと知れ渡ってから破棄した方が確かにルディカーティス様には都合が良さそうだ
でも、それじゃあ私は?
貴方の体裁が保たれるまで私はきっと突き刺さる視線や悪意のある噂に耐えられないだろう
「とにかく、婚約破棄はしない」
念を押されるように言われた言葉に私はカッと頭に血が昇るのがわかった
「メアリアン様とっ、ご婚約なされば良いじゃないですか!!」
「・・・なぜそこでメアリの名が出る?」
また、愛称で呼んでいるくせに馬鹿にするのも程々にしてほしい
「私がっわた、くしが気づいていないと、でもっ」
上がる息に少し眩暈がする
どうやら無理しすぎたようだ
ナナが慌てて扉を開いてドレイクお兄様を呼ぶ
「リーチェっ!」
すぐにドレイクお兄様が私に駆け寄り射殺さんばかりの視線をルディカーティス様に向ける
「ぁ、、私も、、」
手伝おうとするルディカーティス様にお兄様は結構と短く答えると私を抱き上げる
ジルお兄様が車椅子を持ってきてくれたがドレイクお兄様はそれさえも無視して私の寝所までツカツカと進む
「本日は、お引き取りください」
ナナが丁寧に頭を下げるとルディカーティス様を案内している
ジルお兄様もにこやかに微笑みルディカーティス様の肩に手を置くと耳元で何かを言っているのが見えた