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すぐにでも起き上がり歩けると思っていたのだが3ヶ月も寝たきりとなればそうもいかず
先生に車椅子を用意してもらう事になった
そしてナナに簡単に身支度をしてもらい家族の集まる食卓で昼食を取る事になった
ベットで昼食の準備をとされていたが、普段忙しいお兄様達もみんないるのになんだか勿体無い気がして無理を言って移動する事にした
車椅子で移動する私にまたもお父様は涙を流しルディカーティス様とメアリアン様の名前を呪詛のように唱え出す
「リーチェ、無理しなくてもいいのよ?」
お母様の心配そうな声に私は首を振る
「3ヶ月も眠ってたなんて嘘みたいに元気なのよ?
それにお兄様達もみんないるなんてなかなか無いでしょう?お部屋にいるなんて勿体無いわ」
私の言葉に感動しながら兄達は甲斐甲斐しく私の世話を焼いてくれる
ナナから車椅子を押すポジションを奪い
車椅子から抱き上げると椅子にそっと私を下ろし膝にナプキンを敷く始末
車椅子では確かに高さが合っていなかった為助かりはするのだがなんだか気恥ずかしい
両サイドに誰が座るか揉めに揉め、2番目と5番目のお兄様が勝ち取った
ちなみに3番目のお兄様は先程車椅子から抱き上げてくれた為早々に難癖をつけられ権限を奪われていた
食後は1番目のお兄様が私を車椅子に戻し、4番目のお兄様が部屋まで車椅子を押してくれるという事になったらしい
くだらない争いにお父様も自分はなんの権利を与えられるのかと大騒ぎしていたが悉く無視されていた
こんなくだらない事に真剣に争っているがお兄様達はとても優秀なのだ
長男のアッシュお兄様はお父様の後継として商才を発揮しており海外経験も豊富で何ヶ国語も話せる
次男のジルお兄様は勉学に励みアカデミーを主席で卒業後、王宮で宰相補佐をしている
三男のドレイクお兄様は剣術を極め、異例の若さで王宮騎士団で副官をしている
四男のベスお兄様はアッシュお兄様の補佐をしつつ劇作家をしており都でも高く評価されている
五男のルーファお兄様は現在アカデミーに通っているのだが末の皇女様に熱烈アピールを受けているらしい
当の本人にその気はなく医師の道を目指しているそうだ
全員が席についたタイミングで私は先程ナナと先生と話し合った作戦を話した
特段体に問題は無く後遺症も残らないが、筋を痛めたのは確かで、それを大袈裟に言い婚約破棄を申し出る作戦だ
「日常生活に支障はない、、そうだね車椅子でいるのは不便だろうし歩けるようになったら杖を、その次はあえて足首を固定して少し不便そうに歩こうか、、」
ルーファお兄様の言葉にジルお兄様が頷く
「短くても半年はかけよう、徐々に回復しているがこれ以上はという形にすれば信憑性も出るし、その間何度か婚約破棄を提言すればそのうち受理されるだろうしね」
「リーチェ、もう結婚できなくなってしまうかもしれないのよ?」
お母様が心配そうに私に声をかける。
「もう、結婚はいいの、、また愛されなかったらと思うと怖いし田舎で犬でも飼って暮らそうかな、、
それに、貴族との結婚が難しいだけでしょ?」
「田舎なんて行かなくてもずっとうちにいていいんだよ?」
アッシュお兄様の優しい声掛けに微笑む
「それじゃあアネット姉様に悪いわ」
アネット様はアッシュお兄様の婚約者で、爵位を継いだら籍を入れる予定の方だ
「アネットはリーチェを妹のように可愛がっているし、むしろ田舎に行くなんて言ったら心配で着いて行ってしまうんじゃないか?」
悪戯な笑みを浮かべるアッシュお兄様に笑みが溢れる
確かに、アネット姉様なら当然のように一緒に着いてきそうだ
「・・・騎士団には、そう言った事は気にせず誠実にリーチェと向き合ある奴ばかりだぞ」
ドレイクお兄様の言葉にベスお兄様はうへぇっと舌を出す
「むさ苦しそうだけど」
「・・いざという時に頼りになる」
むっと言い返すドレイクお兄様はベスお兄様の腕を見てフンッと鼻で笑う
確かにドレイクお兄様のムキムキな腕と比べると細いが、別にヒョロヒョロって訳でもない
「ペンは剣よりも強しっていうでしょ?」
やれやれと首を振りながら言い返すベスお兄様に眉間の皺が一層深くなるドレイクお兄様
火花を散らす二人にまぁまぁとアッシュお兄様が仲裁に入る
「リーチェ、ルディカーティス君はいつ呼ぼうか?」
お父様の言葉に私は少し深呼吸した
その日が婚約破棄を提言する日と思うと少し緊張する
でももう決めた事だ
「・・・今日にでも」
そう、決意の揺らがぬうちに言ってしまうべきなのだ
私の言葉にお父様は頷き執事を呼ぶ
どうやらまだ私が起きた事も伝えていないらしく早駆けに手紙を渡す
「本当にいいのね?」
再度お母様に心配そうに見つめられ私は深く頷いた。