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今日はラインとバングルを受け取りに行く約束をしている

随分前に完成はしていたのだが、元々予約していた日にラインが急遽出動が決まってしまい一度キャンセルしたらそのままどんどんと延期になってしまった

人気店ということもありただでさえ予約が難しい上に都が警備強化を開始した為ラインの仕事も忙しくなかなか受け取りに来られずにいた


この度ようやく受け取るための予約が出来、私は貯金を握りしめてソワソワとしていた

これで足りるだろうか、、


オーダーメイドなんて初めてで、一体いくらくらいなのか見当もつかない


何より選んだ宝石がよくなかった

グレー色の宝石は既製品で見たことがなく価格の想定が一切出来ず誰に聞いても予想すら立てられずにこの日が訪れた


昼前に予約した為店近くの広場で待ち合わせた

珍しく私の方が早く広場につきベンチに腰掛けるとぼんやりと空を眺める

もう時期どちらともつかないこの関係に終止符を打たなくてはいけなくなる

ラインとこうしてお出かけするのも最後になる可能性だってあるのだ

どちらかを選べばどちらかとの関係は終わってしまうという事実

至極当然なのだろうがどちらを選んでも身分差が生まれてしまう為友達としてというのもなかなか難しい話になってしまいそうだ


そうこう思考を巡らせていると歩いてきたラインが私を見つけ駆け寄ってきた


「待たせちまったか?」


爽やかに微笑みかけられ私は緩やかに首を振った


差し出された手をとって立ち上がるとラインは嬉しそうに微笑む


「バングルを受け取ったらランチはあそこなんてどうだ?」


指さされた方を見るとニューオープンの文字を掲げたお店が賑わっている


「新しいお店かしら?素敵ね!」


外観からは何料理か窺い知れなかったがテラス席で楽しく食事している人たちを見るだけで食欲がそそられた


そこから他愛もない話をしているとあっという間にアクセサリーショップにたどり着く


カウンターでラインが引き換え用の紙を渡すと店主は奥へと消えていく

言われてみれば他に従業員もいない、一人でやっているのだろう

ここが人気店となればそりゃあ予約が取れないわけだ


いくらもしないうちに戻ってくると綺麗なバングルが二つ乗ったプレートをカウンターの上に置いた


どちらも同じデザインでプレートとチェーンというとてもシンプルなデザインだ

綺麗な銀にアクアマリンが散りばめられた少し大きめのバングルと

眩いゴールドに少しだけ灰がかった宝石が落ち着いた雰囲気を醸し出すひと回り小さいバングル、、

二つ並んだバングルはまるで並び立つ私たちを反転したようだ

途端にカップルに大人気というナナの言葉が頭を駆け巡り顔に少し熱が集まる


デザインは完全に店主に任せたのだがどちらも洗練されたとてもおしゃれなデザインだ

元宮廷御用達の名は伊達じゃない

手にとってみてみるとバングルの側面にも一つ宝石が嵌め込まれている

どちらも同じようにつけていてあまり目立たなそうな側面にポツリとついた宝石に首を傾げる

店主はそんな私に気がつき口を開く


「婚姻が決まった時に、その側面の宝石を使って指輪を作るリメイクを施すのもいいんじゃないかと思ってね

特別なもんにしたいんだろ?」


チラリとラインに目をやる店主にラインは照れたように目を逸らした

どうやら私が知らないうちにラインがなにかオーダーしていたみたいだ


「その、リーチェはアクセサリーたくさん持ってるだろうから

あんまり無いようなやつにしてくれって言ったんだよ」


少し照れくさそうに呟くライン

私は婚姻という言葉にどうしたらいいかわからず顔を赤くしたまま固まっていた


「指輪を交換してもいいし

バングルを交換して指輪を新しくお互いの色にしてもいい、どっちもこの色のままお互いがつけるでも好きにするといい

少しバングルは厚めに作ってあるから指輪一つ分くらい削れるようになってる

結婚の時はまた新しく指輪を作ってもいいが、このグレーと全く同じ色の宝石はまた用意できるかは約束出来ない」


職人気質の少しぶっきらぼうな言い方で説明されるがなによりも結婚を前提に進められる話に私とラインの間に少しぎこちない雰囲気が流れる

気恥ずかしさと気まずさが入り混じった私たちの空気感に店主はやれやれという顔をする


「そのままつけて行こうか」


ラインがぎこちない空気を振り払うように少し明るい声を出した


「う、うんっ」


私もまだ顔は真っ赤なままだが頷く


頷く私を確認するとラインは金のバングルを取りおもむろに跪くと私の手首に優しくつけてくれた

バングルはラインと同じ色で煌めく

そっと握られた手から体温が伝わってくる

なんだかプロポーズのような所作に息が苦しくなるほどに心臓がドクドクとうるさい


「あ、ありがとう、、」


なんとか声を出すとラインは嬉しそうに目を細めて私を見上げる


「俺にもつけてくれるか?」


すっと立ち上がって腕を差し出してきたラインに私はおぼつかないながらもなんとかバングルをつける


「リーチェのものになれたみたいで嬉しいな」


腕についたバングルを眺めながら呟くラインに私は何も返さずただ赤面を続けるしかなかった

確かに、このバングルはまるで私物に名前を書くようで相手のものだと主張しているように見える

私の手首でラインを主張するように輝くバングルに婚姻を前提として送り合う人が多いのだろうと妙に納得した


お会計をしようと顔を上げるが店主がいない

どうやら空気を読んで奥に引っ込んだようだ


呼び戻そうと思ったがラインに静止された


「作業始めちゃったみたいだし、もう行こうか」


確かに耳を澄ませるとモーター音と何か削るような音が聞こえる

どうやらアクセサリー作りを始めてしまったようだ


「でもお会計、、」


どうしたらとチラリとカウンターの奥に目をやるとラインは少し気まずそうに頭を掻く


「あー、それは、もう大丈夫」


どうやら事前に払ってくれていたようで困惑する


「でも、、せめて自分の分だけは」


そう言い募る私にラインはそれじゃあと口を開く


「ランチはリーチェが出してくれる、っていうのでどうかな?」


金額が見合うわけない、、他にも何かと思い悩んでいるとラインはそっと私の手を握り口元に運ぶ

手の甲に唇が触れるか触れないかなところで止め手首についたバングルをもう片方の手でそっと包み込む


「俺がどうしてもリーチェにこれを贈りたかったんだ、、どうか俺のリーチェになって下さいっていう願いみたいなもんだから

だから俺が贈らないと意味ないだろ?」


そう言って少し口角を上げる

妙に色っぽい所作で触れるか触れないか程度の口づけを手の甲に落とすとラインは握った手をそのままに私の手を引いて店を後にする


ようやく一度落ち着いた私を包む熱がまたあっという間に体中を駆け巡り熱くする

のぼせそうなくらい熱くなる顔に頭は回らなくなるのになぜか手の甲の感覚だけが妙に鮮明で

真っ赤になる私をラインが本当に愛おしそうに見つめるから、いつまでも熱に浮かされた状態で私はただ手を引かれることしかできなかった

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