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私は高鳴りすぎてもはや痛いほどに鼓動する心臓の音がルカ様に聞こえてしまいそうで必死で抑える
起きた時に直ぐに目を開ければよかった
ふわりとかけられたジャケットからルカ様の香りがしてさらに緊張してしまう
きっと顔は真っ赤になっているに違いない
私は微睡みながら夢と現実の境をふわふわとしていた、ルカ様が何かを言っている声が聞こえて、あぁ起きなきゃと眠気と格闘して
身じろぎと共に近くに寄ってきたルカ様にようやく意識が覚醒した、が
何やら私が寝てるのに気がついてため息をついたので目を開けるタイミングを逃してしまった
なんとなく眠ったふりをしているとルカ様はなんだか自嘲気味にフッと笑うと囁くように小さく呟く
「すまないリーチェ、、君を思うならば身を引いた方が良いのかもしれない
それでもどうしようもないくらい好きだ、、リーチェ、愛しているんだ、、、」
あまりに切実で胸が締め付けられるような愛の告白に息が上手くできない
思えばルカ様のこんなにストレートな言葉を聞いたのは初めてだ
彼が私を愛しており、それで婚約した事は知っていたが直接愛を囁かれた事は無かった為なんとなくそうなんだと思っていただけで自覚できていなかったようだ
早鐘を打つ心臓にますます目を開けるタイミングを失ってしまう
今直ぐ目を開けたら寝たふりをしていたとバレてしまいそうだ
「情けないな、、面と向かっても言えないくせに」
そう言ってジャケットをかけてくれるとルカ様は隣にごろんと寝転ぶ
なんだか気落ちしたような声音にあわてる
どんどん目を開けにくくなっていく
それにルカ様も、どうしてかすごく落ち込んでるみたいだし
「な、、情けなくなんか、ないですっ!」
ガバリと起き上がった私にルカ様はポカンとしている
緊張から少し声が上ずってしまった
「ご、ごめんなさいその、、聞いてしまいました」
寝たふりがバレるとか、聞いていたことがバレてしまうと慌てていたが
そもそも、バレてしまってまずい事はない気がした
ここは素直に言ってしまえと思い切って告白したが少し後悔した
私の言葉に少しだけ上体を起き上げていたルカ様はたちまち顔を真っ赤にして少し口をぱくぱくと言葉にならない息だけを吐いた
直ぐにちゃんと起き上がると居た堪れなさそうに座り私から顔を隠す
あまりにも見慣れないルカ様の姿に私もなんだか心臓がまたドキドキと鳴り出し顔に熱が集まる
二人でモジモジと照れながら並び座る妙な時間が流れる
「あ、、そ、そうだ、釣りをしようと思って持ってきた、、
別にこれはベスから聞き出したとかではなく、勝手にあいつがリーチェは釣りが好きだと言っていてそれで」
特になにも聞いていないのに凄い勢いで言い訳をしているルカ様になんだかおかしくなってしまった
「ふふっ、、良いですね、釣り、やりましょうか」
釣りが好きだなんて言ったこともなくて、お兄様の適当なメモに翻弄されているのも、それを信じて私を喜ばせようとしてくれているのもなんだか可愛らしくて
おかしい気持ちをなんとか抑えながら私はルカ様と並んで座り釣りを楽しんだ
ー
ーー
ーーー
「その、またリベンジさせて欲しい」
まさかルカ様が釣りをなさったことがないなんて思わなかった
餌をつけるのも一苦労で
さらにようやく釣れた魚も外し方が分からずアワアワとしている姿もなんだかおかしかった
社交界の貴婦人たちが見たらびっくりするだろう
ポーカーフェイスな塩対応で有名なルカ様は少し微笑んだだけでざわつくのに
こんな姿、卒倒してしまうかもしれない
釣った魚を入れるバケツもなかった為キャッチアンドリリースをしたがせっかくなら串打ちをして焚き火で焼くのもありだったかもしれない
「私が自然遊びの手ほどきをしてあげますね」
「お手柔らかに頼む」
なんだか穏やかな空気感にグッと距離が縮まった気がした
すっかりと日が長くなった
夕暮れの中ゆったりと馬を走らせる
「・・・もう時期だな」
ポツリと呟かれた言葉に何がとかはなくとも分かる
生誕祭まで残り1ヶ月と迫っていた
自分自身の今後の人生を大きく左右する選択が迫っている事への妙な緊張感がのしかかる
ずるい考えなのは分かっているが答えを出さずに引きずってしまいたいような気持ちになる
友人としてのラインを失うのも辛いし
こうしてルカ様と会えなくなるのも辛い
どっちつかずで揺れる自分の心に苦笑いしか返さずにいるとそれを知ってから知らずかルカ様は遠くを見つめながら口を開いた
「どんな選択をしたとしても、、気に病むことはない、俺も、きっとラインもただ受け入れるだけだ
ただ、もし俺から離れるとしても、一人の友人としてたまにこうして釣りをしてくれると嬉しい」
「・・・はい、ありがとう、ございます」
なんだかほんの少し寂しい気持ちが湧きあがった
なんだか諦めたようなルカ様の言葉がそうさせたのかもしれない