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ルディカーティス視点 


「・・・そうか、、」


部下からの報告書をみてため息をつく


私的な調査だった事もあり公にはしていなかったものだが、どうしても落胆してしまう

自分は確かに至らない婚約者ではあったが、リーチェとのお茶会の後は必ず手紙を出していた

面と向かっては言えなかったこと、勿論筆が乗った時は愛を語った内容の事もあったと思う

今回の事件を受けて、リーチェが全く好意に気がついていないという事に少なからず違和感を覚えた

確かに面と向かって愛を囁いたことはなかったが手紙やプレゼントはよく送っていた

手紙に関してはこの10年間、月に一度は必ず、多い時は週に一度送っていた事もあった

その殆どが届いていなかったようだ

最初の半年は届いていたようだがそこからは年に一度届いていればいい方だった

どれも都を出る前に消えているようだ

勿論メアリアン嬢を疑ったがプレゼントのいくつかは彼女に渡っていたが手紙は知らないようで、自白剤を使ってもそれは変わらずなので信憑性もある

どこで消えたかわからない手紙にどうもメアリアン単独で起こした事件ではないと分かるがどんなに調べても黒幕が分からずにいた


「そろそろお時間です」


執事の言葉に慌てて準備をする

今日はリーチェとの遠駆けの日だ、待ちに待ったこの日を台無しにするわけにはいかない

執務室のデスクにしまった小さなノートを取り出し強く握りしめる


ーー

ーーー


馬車から降りるとすぐにリーチェが出迎えてくれる

よろこびに浮き足立つが直ぐに打ち消されてしまった


ラインの代わりにと頭を下げたリーチェに心がざわつく


別にラインをどうこうしようという訳ではない

ただ、リーチェが代わりに頭を下げる間柄という事に妙な嫉妬心が芽生えているだけだ


俺は食事会以降、毎日ぐるぐると頭の中で彼の言葉を反芻させていた

お茶会の時の彼女の顔、、初恋を拗らせてしまったせいで直視出来ずチラチラと盗み見てはいたが、落ち込んでいるように見受けられた事は無かった

初めて会った時のあどけなさはなりをひそめており、完璧な淑女としての振る舞いしか知らない

しかし、どうやらラインには心の内を見せていたようだ


なぜ彼に責め立てられなくてはならないのかとも思ったが

もし逆の立場であったらと思うと、、

本当にリーチェが日々落ち込んで帰っていたのだとしたら、俺はその婚約者に詰め寄っていたに違いない

身分があったからこそ手に入れる事ができた地位にあぐらをかいていると暗に指摘され返す言葉もなかった


ーー

ーーー


チラリとベスが渡してくれた小さなノートをひらき盗み見る

劇がいざ公開となったら他国にしばらく身を隠すと事前にベスから聞いていたのだが

その際にせいぜい頑張れと小さなメモ帳を渡された

そこにはリーチェの好きな食べ物や好きな事がたくさん書かれていた

そもそも10年も婚約していてそんな事も知らないのか、という話だが、、それはもう今更どうこうなる事ではない

執務室で大切に保管していたこれが、今日ようやく日の目を浴びるチャンスがやってきたのだ


このメモによるとリーチェはとても活発で、よく山に入っては魚を釣ったり山菜を取ったりしていたと書いてある


リーチェの手作りご飯に舌鼓を打った事だし、そろそろ釣り具を準備してもいいかもしれない


ごろんと寝そべりのどかな空気が流れる今なら言えそうだ


こほんと咳払いをしてなんとか口を開く


「その、、釣り具を持ってきてみたのだが、良かったらやってみないか?」


「・・・」


「り、リーチェは釣りをした事はあるか?」


「・・・」


わざとらしかっただろうか

遠駆けで釣り、、そんなに珍しくないと思うが、、

黙り込んだままのリーチェに不安が募る

頼んだ訳ではないとはいえ、兄から情報を得たという事実は不快だったのかも知れない


「すまない、リーチェ、、不快にさせてしまったか?」


「・・・すー・・すー・・」


返ってきた寝息に拍子抜けする

緊張でリーチェの方を見ることすら出来なかったのだが一気に肩の力が抜けた


「本当、ダメなやつだな」


10年間も彼女をみていなかったと指摘されて反省していたはずなのにまた彼女を見ずに話を進めようとしてしまった

きっと彼ならば心地よく眠る彼女を見守りブランケットをかけ、隣で穏やかな時間を彼女を見つめながら過ごしたのかもしれない


自分で自分が情けなくなってしまう


細やかな気遣いのできる彼といる方がリーチェはもしかしたら幸せなのかもしれないとそう思い至っては必死にかき消した


「すまないリーチェ、、君を思うならば身を引いた方が良いのかもしれない

それでもどうしようもないくらい好きだ、、リーチェ、愛しているんだ、、、」


寝ている彼女に向かってしか言えない情けない自分にまた自傷的な笑いが込み上げる


「情けないな、、面と向かっても言えないくせに」


そう一言呟くとブランケットの一枚も用意していない自分に落胆しながらせめてもと着ていたジャケットを脱ぎリーチェにかける

再び寝転がりぼんやりと空を眺めてもどうにも気分は上向きにはならなかった




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