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「とりあえずリーチェ、、今後どうするかは僕達で相談するから
お医者様に診てもらうといいよ」
3番目のお兄様は柔和に笑っているがどうも怒りが滲んでいる気がする
4番目と5番目のお兄様はコソコソと話してはニヤリと笑っている。
何か悪巧みをしているとしか思えない
足早に出ていった家族達を見送るとナナと共に控えていたお爺ちゃん医師がベットサイドに移動する
「いやぁ、、相変わらず賑やかでいいですなぁ」
この主治医は父が駆け出しの頃からお世話になっている方でもう既にいい歳なのだが後を継ぐ息子はまだ若い、、と言っても私からみたらもうおじさんなのだが
私を診せるわけにはいかないとかでもう本当は隠居したいであろうに私だけは彼に診てもらっている
兄達や両親は息子が診ているため実質おじいちゃん先生は私だけを診ている状態だ
父や兄たちは頻繁に私を可愛い可愛いともて囃すが婚約者からそのように言われた事はないし夜会やパーティーでも男性達に声をかけられた事はない
いや、そういえば前に一度声をかけてくれた人はいたがたまたま挨拶が終わったルディカーティス様が戻りその日はすぐに会場を後にしてしまった
そりゃあ勿論この家から出る前はあまりに溺愛してくる家族達に私って可愛いのかしらと勘違いしていたが7歳ですぐに現実を見せられた
家族の贔屓目であって私は取り立てて魅力はないのだろう
愛人を作られてしまうほどなのだから
「それにしても面白い作戦でしたな」
ずんっと思考を巡らせて落ち込んでいたがかけられた声に顔を上げた
愉快そうに笑いながら髭を触る先生に私ははぁっとため息をこぼす
「こうでもしないと婚約破棄は出来ないかなぁと思いまして、、」
私の言葉に先生はうーんと思考を巡らす
「全身を強打した事には変わりない、、一度診察をしてみようかね」
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ーー
ーーー
一通り診てもらいわかった事は特に後遺症が残るほどの怪我がないという事だった
喜ばしい事ではあるがこれを理由に婚約破棄は無理だろう
しかし、つまづいた際、咄嗟に出した左足がヒールを履いていたこともあり踏ん張りが効かず筋を痛めていたようでいまだ腫れていた
そこで先生はじっと私を見つめ口を開いた
「足を痛めた事にして仕舞えば婚約破棄も叶うかもしれませんね」
「、、、えっ?」
思わぬ言葉に私の方が驚いてしまった
「日常生活に支障はないが、、回復は難しいという噂を流すとか」
続けられた言葉にナナも頷く
「確かに、公爵夫人が踊ることも出来ないとなれば社交活動に影響が出ます、、婚約破棄も不自然ではないかと」
控えているナナの言葉に私はパチクリとまたたく
「ただ、問題があるとすればお嬢様にそれ以降の婚約話がでるかどうか、、、」
ナナの言葉に今度は私が思考を巡らす
そもそも婚約破棄をしたいと考えた段階で次が無くなるかもしれない事くらい想定済みだ
「いいわよ、どうせ一度婚約破棄された成り上がり令嬢なんて貰い手がつかないわ
適当に隠居生活を送るか、平民の男性を捕まえて慎ましやかに暮らすわ!」
私の言葉にナナとお爺ちゃん先生は顔を見合わせ諦めたようにため息をつく
「お嬢様からご家族にしっかりと、全て、説明して下さるのなら私達に止める権利はございません」
ナナの口調から私だけの知恵や演技ではどうにもならないというのが見え隠れしている
「そう、、よね、、
お父様やお母様、、いえ家族には知らせておくべきよね」
「いえ、知らせるのではなく手を貸していただきましょう」
間髪入れずに訂正してきたナナを睨むとしれっと視線を晒された
・・・そういえばずっと気になっていた事があるのだが
「このお花達は誰から送られてきたの?」
随分と聞くのが遅くなってしまったがお部屋が花で溢れている
私には友達と呼べる人はいないし、一体誰がくれたのだろう
「あぁ、こちらは、ルディカーティス様が」
思いもよらない人の名前に驚いてしまう
「毎日届けて下さっており、今朝もこちらを」
一番近くに飾られていた花束に目を向けられる
可愛らしい水色とピンクの花束からはルディカーティス様が選ぶ姿がとてもじゃないが想像できない
大方メイドが執事にお願いでもしたのだろう
あれこの花、、
「これ、小さい頃よく庭に咲いていたわよね」
ピンクの可愛らしいマーガレットが花束の中にありついつい懐かしくなる
昔よく庭で花冠を作っていたのを思い出す
他の花束にもピンクのラナンキュラスやバラなど随分と可愛らしいチョイスだ
「ふっ、、メアリアン様が選んでいたりして」
なんて呟いて首を振った
あまりに女性的で美しい花束たちにふと彼の横に立つ一等綺麗な花の存在を思い出してしまった
私だって始めは自分にできた婚約者と仲良くなろうと努力したし、不器用ながらも優しい人なのではと思っていた
前に、一度だけ遠駆けに行った事がある
綺麗な夕日を眺めながらぶっきらぼうに差し出された手にこの人となら上手くやれそうなんて夢見たこともあった。
ほんの少し芽生えそうになった恋心を思い出しなんだがセンチメンタルな気持ちになってしまった。
愛はなくともこの10年でどうやら情だけは湧いてしまったようだ。