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「それじゃあ、行ってくるよ」


「はい、気をつけて」


アッシュお兄様を見送りながらぎゅっと拳を握る


「リーチェ、今日は一日、一人にならないように、、

ルディカーティスくん、リーチェを頼んだよ」


「はい、お任せください」


お父様もアッシュお兄様に続いて馬車に乗り込む

二人を乗せた馬車を見送りながら私はなんだか少しだけ不安になりスカートを握る

それに気付いたのかルカ様がそっと握りしめた手を優しく覆ってくれる


「大丈夫だ、リーチェ

何も起きない、いや、、起こさせたりはしないから」


今日はメアリアン様の拘束期間が明ける、、

その際にメアリアン様に対して一部行動などを制限する制約を交わすらしくお父様とアッシュお兄様は釈放に立ち会うことになった

私とルカ様も当事者な為立ち会うことは出来たのだが変に波風を立てたくなかった

何より、明確に向けられた殺意の恐ろしさがまだ私の脳に焼き付いて離れない

突き落とされながら見たメアリアン様は本当に恐ろしかった

とてもじゃないが会う気にはならないし、もう二度と会いたくはない


ただ、社交場への出入り禁止といった内容は流石に盛り込めなかったらしく貴族であれば今後顔を合わすことは普通にありそうだという

メアリアン様からの故意な接触は禁止されているそうだが、同じ夜会などに参加した際に挨拶程度交わすことはままあるだろう


「気晴らしに乗馬の練習なんてどうでしょうか?」


ナナの提案で私たちは馬小屋に足を向けた


ーー

ーーー


「これならもう遠乗りしても問題なさそうだ」


ルカ様の言葉に私はニッと口角を上げる

最近はめっきりしていなかったが昔はよく兄達と馬で駆け回っていたのだ


5歳の誕生日プレゼントで貰った子馬がいたのだが、何度かの出産で少し足腰が弱くなってしまい乗るのは可哀想だと思い乗馬をやめた

なんとなく他の馬に乗る気にならなかった

ただ、定期的に馬小屋に行って手綱を引いて散歩をしたり、ブラッシングをしたりはしている

私の愛馬は彼女だけなのだ

真っ白な毛並みの美しいスノーという名前の馬だ

ちなみに今も馬小屋から私のことを見守ってくれている

いや、今乗っている馬がスノーの息子にあたるから、、我が子を心配してこちらを見ているだけかもしれないが


少し間が空いても体が覚えているものだ


「先日の騎乗服も完成の連絡があった事だし

週末、早速遠乗りに出かけようか」


ルカ様の言葉に頷く


「いいですね!サンドイッチも準備して、、ピクニックにしましょう!」


私の提案にルカ様も微笑み返してくれた


「それは、リーチェの手作りだろうか?」


ルカ様の言葉に少し考え込む


「私が作ってもいいのですが、、シェフに頼んだ方が美味しいですよ?」


たまに兄達に差し入れにと簡単な料理はするが特段うまいわけではない

ナナとお菓子作りもよくしている為、お菓子の方がまだ自信はあるが当然どちらも素人レベルだ


「リーチェが作ったものが食べたい・・・」


呟くようにいって顔を逸らすルカ様は耳まで真っ赤だ

今までの事を埋め合わせようと、ルカ様は思ったことや感じた事を素直に口にすると私に宣言していた

照れ臭いからと口にせずつっけんどんな態度をついつい取ってしまったばかりに起きた事件だから、もうそうならないようにしたいらしい

照れ臭くても頑張って口にすると言っていた

その言葉通りルカ様は頑張っている、、のだがいかんせん10年もツンツンしてきたのだ

言葉数は少なくぎこちない

けれども節々に私への想いが伝わってきてなんだか可愛らしくも思えてくるから不思議である


「それじゃあ、頑張って作りますね」


私の言葉にルカ様はぱぁっと表情を明るくさせてそうか、と呟いた

声色からは伝わらないがうん、喜んでいる

ちゃんと見てあげれば微かに喜怒哀楽が表情に出ている

表現力が乏しく、そっけなく聞こえてしまう為昔の私だったら気が付かなかっただろう

きっと今までも私の言葉にこうして、小さく一喜一憂していたのだろう


「、、一つ伝えなくてはいけないことがある」


改まってルカ様が口を開く

なんだか少し重々しい空気感に背筋を正した


「ベスが、書いた新たな劇が明日から開演されるのだが、、

リーチェの今回の件が題材にされている。

当然俺やリーチェに対して不利な内容ではないと聞いているが社交場などで噂はされるだろう、、

俺は明日観に行こうと思いチケットを手配してある。

リーチェの分もあるが、辛い事も思い出されるだろうし無理しなくて大丈夫だ。

明日一緒に行ってもいいし、別日でもいい

必要なら呼んでくれたら一緒に見るが、家族や友人と見たほうが気が楽であればそうしてもいい

もちろん見なくても大丈夫だ」


なんだかすごく気を遣ってくれているのが伝わる

ベスお兄様が何か企んでいるということはジルお兄様から聞いていたが、、

そういう事だったのか


「明日、ご一緒しても良いですか?

きっとお兄様の事だからわざと噂しやすいように作ってるはずだから、、」


お兄様達は私よりもメアリアン様の謹慎が早く解けていることや制約が軽すぎることに怒っていた

つまり、この劇は報復の一部、、どんな内容になっているのか見ておかなくてはならないと思った


「分かった、、くれぐれも無理はしないでくれ

明日の朝、迎えにこよう」


「都の劇でしたらこちらにくるのは手間では?」


「それなら泊まっていくかい?」


都で待ち合わせすればいいと思い口を開いたのだが突然後ろからかけられた声に驚いてしまった


「アッシュお兄様!?」


驚いて振り向くとアッシュお兄様がヒラヒラと手を振った


「今帰ってきたところでね、制約内容とか色々二人には報告しないといけないと思って来たのだが、、今日は家族みんな揃う、夕飯時に報告で済むようになるし丁度いいだろう?」


「でも、そんな急な話、、」


「もし良いのであればそうさせていただきたい」


「それじゃあ決まりだ」


まさか二つ返事でことが決まるとは思わなかった

ルカ様は邸宅の前に止めてある馬車に控えていた御者に宿泊を伝えに行ってしまった


「リーチェ」


二人きりになるとアッシュお兄様が真剣な顔でこちらを向く


「こんな話をするべきではない事は分かっているが・・私はルディカーティス君と婚姻をするべきだと思っている。

もちろん今回の事は重く受け止めているが、リーチェ、、貴族と平民は思ったよりも色々なことが違う

お父様の手伝いとして領主代行をしているからこそ分かる事が色々あるんだ

ライン君は確かに騎士で給金もいい、普通の平民とは違うが騎士とは一生の職ではないのも事実だ

ドレイクは怪我などで引退しても貴族というだけで他の職に就けるがライン君はそうは行かない、、良くて貴族の護衛、悪くて傭兵だ

怪我した体で傭兵をしたらどうなるかはリーチェも分かるだろう?」


アッシュお兄様は言い聞かせるように私に目線を合わせてくれている


「リーチェ、、君に苦労して欲しくない、、

公爵夫人という立場は未亡人になったとしても変わらないが、平民が夫を失うということの恐ろしさを私はよく知っている

だからよく、考えてほしい

もちろん気持ちを優先して欲しいというのも分かるが、、私は今後何十年も先を見越した上で冷静な判断をして欲しいと思っている」


アッシュお兄様は私の頭を一度ポンっと撫でるとそれじゃあと行ってしまった

丁度ルカ様が戻ってくるのが見える

アッシュお兄様の言葉が頭の中でぐるぐると巡った


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