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「え?俺の休みの日を知りたい?」
「うん、普段お休みの日はどんな事をしているのか教えて欲しいなーと思って」
自分用にと買ったパン二つを食べている間にラインはパンを五つも食べてしまった
ドレイクお兄様も本当に食べるのが早いがラインも負けてない
騎士団の人たちはみんなこう忙しなく食事をしているのだろうか
どんな事をしようかとラインは試行錯誤し、観劇はどうかとか都でカフェ巡りなど色々提案はしてくれたがなんだかしっくりこなかった
元々ラインは今日非番だったのだ
用はないと言っても何かしらしようと思っていたことがあるのではないかと思った
それに、普段どんなふうに過ごしているのかなんとなく気になった
「うーーん、大した面白みないと思うけどなぁ」
ラインは悩ましげに頭を掻いた後まぁいいかと笑う
「それじゃあまずは、俺の実家にでも行くか!
改修工事もされて多少綺麗にはなってるからさ」
ー
ーー
ーーー
「ここって、、、」
たどり着いたのはディオーラル領の外れにある教会だった
さっきラインが言っていたように改修はされているようだがまだ完全には終わっていないようで所々朽ちており相当な年期を感じさせる
「俺はスラム出身でさ、ここに住んでいた訳じゃないけどシスターにはお世話になってたんだ」
「そうなのね」
教会の庭では子どもたちが走り回り、少し大きい子たちは敷地内に飼っている鶏のお世話や畑仕事をしている
「ほら、俺こそ泥まがいな事色々してただろ?
捕まるたびシスターが謝りに来てくれてさ、、、それが無かったら今頃どうなってたか
だから恩返しも兼ねて手伝ったり、色々してんだ」
そうだったんだ
今はお父様が相当なテコ入れをしてディオーラル領は世界的に見てもスラムの規模が小さくホームレスなどの生活困窮者はほとんどいないとは言っていたが、ゼロではない
ラインがスラム出身というあまりの事実に驚いていると隣でラインも少しびっくりしたように目を見開く
「え?もしかして、知らなかった??
あちゃー、言わなきゃ良かったなぁ
親父さんもリーチェの兄貴たちも俺がコソ泥しにディオーラル家に近づいたって知ってたからさ
てっきりリーチェも知ってるものかと思ってた」
「なん、、ですって?」
また私だけ除け者扱いだなんて
最近そんな事だらけじゃない!!
むすっと不貞腐れていると奥から人の良さそうなおばあちゃんがやってくる
「シスター!」
ラインがすぐに駆けつけて手を貸す
「あら、ライン、、また来てくれたのね」
シスターの嬉しそうな笑顔に思わず私も微笑んでしまう
私も挨拶しなきゃと慌てて二人の方に足を向けた
ー
ーー
ーーー
何か困っている事はないかと聞くとラインは頼まれごとを片っ端から請け負った
畑作業用の道具の修理
棚の修繕
重い家具の移動、、
ラインは何度か私と一緒にできる作業はないかと聞いたり
出来れば離れなくていいものをと悩んでいるようだったが気にしないで欲しいと都度いうとようやく諦めたように作業に取り掛かりに行った
私も子どもたちと遊んでいたのだが今は庭で子どもたちと遊ぶラインを眺めながらシスターに少し話さないかと誘われたところだ
「まさかあの子が領主様の娘を連れてくるとは思わなかったわ・・・ずっと想っている人がいるのは知っていたけれどね」
嬉しそうに微笑むシスターに私は少したじろぐ
なんだろうかこの感じ、照れ臭い
「領主様とラインの支援のおかげでここも随分と受け入れられる子供の人数が増えたの、、あの子が子供の頃、私たちも手がいっぱいでね、、気にかけてあげることしか出来なかったのに、、
こんなに優しい子になってくれたのはきっと貴女のお陰ね」
「そんな、私は何もしていないです、、本当知らない事ばかりで
ずっとラインを気にかけてあげていたシスターと、ライン自身の努力の賜物ですよ」
私の言葉にシスターは首を振る
「いいえ、私はラインを見守ることは出来てもその行動を止めることは出来なかったの、、、
あの子が道を踏み外さずに、騎士を目指したのはあなたのおかげよ」
シスターはそっと私の手を握りしめるとじっと私の瞳を見つめる
「どうかこれからもあの子をお願いね、、とても、とても優しい子だから」
切実な瞳に私は少し後ろめたい気持ちになってしまう
「シスター、リーチェはまだそう言うんじゃないんだ
今はまだ口説いてるところ、だからそれはまだ気が早いって」
わたしたちの間に入りシスターの手をそっと私から離す
「あら、そうだったの?てっきり昔年の恋が成就したから紹介しに来てくれたのかと想ったわ」
「そうだな、嬉しい報告が出来るようにリーチェに俺の良いところたくさん教えておいて」
悪戯っぽく笑ってまた子供達のところに戻っていくライン
陽の光を浴びてキラキラ光る髪も、全力で子供達と遊ぶ姿も、なんだか絵になる
「ふふ、それじゃあ張り切ってラインの自慢をしなくっちゃね
いつの話をしようかしら、、初めてのお給料を握りしめて私たちにご馳走を振舞ってくれた話なんてどうかしら」
嬉しそうに声を弾ませるシスターに私まで嬉しくなる
「はい、たくさん聞かせてください」
ー
ーー
ーーー
「今日はごめんな、シスターの事、負担に思わないでくれ
リーチェがどうしたいかが一番大切だから、それが俺であるように努力はするけれど
誰かを悲しませたくないとかそういう理由で考えないでくれ」
帰り道、切実なラインの言葉に私は頷く
そんな気はなかったが確かに、いざどちらかを選ぶとなった時に絶対脳裏によぎる気がする
「そうね、、確かにシスターの悲しい顔は見たくないけれど、、ちゃんとラインともルカ様とも向き合いたいと思ってるから」
私の言葉にラインは少しホッとしたように笑う
「いや、やっぱりそういうのも全面に推して俺を選んでもらうのもありかな?」
悪戯っぽく笑うラインに私も思わず笑ってしまう
「ふふ、もう手遅れよ」
「あーぁ、チャンスを逃したかー」
なんだか今日はラインの事をたくさん知れた気がする