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「これで決まりだな」
無事宝石まで決め終わった頃には結構な時間が経っていた
私の瞳に似たアクアマリンは割とすぐ見つかったのだが灰色がかった宝石があまり無く結構時間を使ってしまった
最初に並べられた宝石の中にはカラフルなものが多くグレーがかった石がなかった
近いものを見繕うかと悩んでいると店主が少し考えて奥から木箱を持ってきてくれた
それにはまだ削られる前の石がいくつか入っておりそこからグレーがかったダイヤモンドを見つけた
どこがどう削られ、宝石として成り立つか分からないらしく、石などの部分が削り出されるかは分からないらしい
一つの石の中に濃淡があり珍しい灰色がかった宝石はカッティング後はどういう感じになるのか今から楽しみだ
そして、同じく箱に入れられていた真っ黒なダイヤモンドの石もなんだか気になってしまい削り出して欲しいとお願いしてしまった
今まで黒い宝石なんて見た事がなかったし、
見た瞬間脳裏にルカ様がよぎってしまい思わず手に取っていた
それになんとなく、真っ黒なダイヤモンドも見てみたいなぁと思った
宝石を選び終えた後、何に加工するかとサンプルを並べられバングルにする事にした
店主は当然指輪にするものと思ってサンプルを提示してくれていたが、、
そこでようやく自分達がどう見えているか分かり少し狼狽えてしまった
「あぁいうアクセサリーを素材から選んでオーダーメイド出来るお店、最近一部の平民の間で流行ってるんだ、、その、デートプランとして
ほら、この辺平民でも金持ち多いからさ」
周りから見たら私達が恋人に見えると言う事実に少しギクシャクしてしまっている私に気を遣ってかラインが色々と話してくれる
「ああいうお店は少し、性急過ぎたよな・・?ごめん」
モジモジとしていると頭を下げられてしまい驚く
「あっ、ごめんなさい、そういうつもりじゃなかったの!」
ラインが私にとてもとても気を遣ってくれているのが分かり申し訳なくなる
どことなく歩いていたが気がついたら広場まで出ていたようだ、夕暮れの中噴水の周りに置かれたベンチに座る
「あのね、ライン・・・」
きっと本人に言う事じゃないのは分かっているが私に誠実に向き合ってくれようとしているラインに私もちゃんと向き合わなくてはいけないと思った
「私、恋人とか、恋愛としての好きって感情がよく分からないの・・
家族に対する私の好きって気持ちと、ラインが私にむけてくれる気持ちは違うんでしょう?
それが、分からなくて」
こんなこと言われて、きっと困っているはずなのに
ラインは静かに私の話に耳を傾けてくれている
「その、こんな事聞いてしまうのはあまり良く無いってわかっているんだけど、
ラインにとって、家族や騎士の皆さんに対する気持ちと私に対する気持ちは明確に違うの?
どうして、私を、その、、恋愛として好きだと思ったの?
ラインはとてもモテるって言っていたでしょう?
ラインの友人の中には女の子もいると思うの、その子と私はどう違うの?」
自分で言っていて本当、どうかと思う
こんな事を聞いてしまっている事自体が失礼なのだろうし、自惚れているようにも感じる
それでも分からなくて、聞かずにはいられなかった
ラインはうーんと悩みながらぼんやりと噴水を眺める
「好きの違いかぁ・・・そうはっきりとはないかもな」
意外な答えに驚いてラインを見つめるとラインも私を見つめ返す
「例えば、ずっと一緒にいたいとか、、こうして触れ合いたいとか、、
・・・幸せにしてやりたいとか、」
そう言いながら指先をほんの少し重ねられる
「俺のリーチェに対する好きはそういうのだけど、
リーチェといつか家族になりたいっていう気持ちもこの好きにはあるから
そういう意味では家族に対する好きと変わらないかもな」
なんだかとんでも無いことを言われた気がする
家族になりたい、、
恋人に見えるというだけでいっぱいいっぱいになってしまう私としては思考が追いつかない回答だ
「俺も、初恋っていうのかな、リーチェの事しか好きになった事ないから他がどうとかよく分からないけどさ
リーチェの為ならなんだって出来る
それに、リーチェが幸せなら俺も幸せだって思える
その幸せを俺が作れてたらもっと幸せ、、、
人によって違うかもしれないけど、俺の好きはまぁ、、そんな感じかな?」
思ったよりずっとずっと真っ直ぐ思われていてどうしたらいいか分からなくなる
「リーチェが俺と同じ意味で俺のこと好きになる必要なんか無いよ、まだ時間はあるんだ、ゆっくりでいい
俺は、リーチェが真剣に俺のこと考えてくれてるってだけで嬉しいからさ」
「・・・私、そんなに思ってもらえて、ラインに何を返したらいいか・・」
少し戸惑う私にラインは困ったように笑う
「ごめんな、重かったよな?
そんな気負い過ぎないでくれよ、俺の事とか世間の事とか、そういうの置いといてリーチェがどうしたいかだけ考えてればいいからさ」
重なっていた手を離し私と離れるようにベンチから立ち上がる
「さっきの店主、出来上がりは来月って言ってたよな?
いつ取りに行くか・・・また、決めようか!」
ー
ーー
ーーー
夕食前に帰ってきた私にナナは早かったですねと言いながら着替えを手伝ってくれる
「今日は何されたんですか?」
「その、路地裏にあるオーダーメイドのアクセサリーショップに行ったの」
私の言葉に少し思案してナナはあぁ!と手を叩く
「人気のお店ですよね?元王宮専属技師の方が一人でやってるこじんまりとした!
いいなぁ!あのお店、予約大変だって有名ですよ!
ほら、職人さんって無口な人多いし、、こだわりも強いから完全予約制で数日に一組しか受け入れないんですよ!」
「え?そんな感じの店に見えなかったけど、、」
「オーダーメイドなんですよね?そこしか無いですよ!
都の貴族も通うほどの人気店ですよ!
値段は素材の選び方によっては平民でも手を伸ばせるものから王宮に贈呈できるレベルのものまでピンキリらしいですけどね」
その言葉に私は固まる
え?値札なんてなかったよ?
何にも考えずに選んじゃったけど受け取り時大丈夫かしら?
そもそもお金のことなんて何にも言われてないのなけれど、、、
長いこと出費らしい出費はしていないし今あるお小遣いで大丈夫だと信じるしか無いか、、