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1-3

なんだか懐かしい夢を見た気がする。


今となっては悪夢の始まり

私に婚約者ができた日のことだ


婚約して間もなく彼はメアリアン様とみるみる親密になり気が付いた時には恋人同士だという噂が流れ始めた。

初めこそ努力したがなんとなくで決めてしまった婚約者と違いしっかりと愛を育んでいる恋人に到底叶うわけもなく見向きのされない婚約者をしている。


あぁ、なんで嫌な夢を見たのだろう

寝覚めから最悪の気分だ、、

ギシギシと妙に軋む体を起き上げ周りを見回す

ここは私の部屋だ

なんだか随分と長く眠ってしまった気がする

きょろきょろと見回すとナナと目が合った


「リーチェお嬢様ぁ」


凄い勢いで駆け寄ってきたナナは目にいっぱい涙を溜めた


「大丈夫ですかお嬢様!?ご気分は!?」


「えぇ、、大丈ぶっ、、」


返事をしながら立ち上がろうと少し足を動かした時に走った痛みに眉間に皺を寄せる


「あぁっ、安静になさっていてください!

3ヶ月も眠っておられたのですよ」


「・・・はぇ!?」


その言葉に私は目を見開く

そんなに!?

それでは約束の夜会はどうなったのだろう

彼は一人で、、いや、私がいないのをいい事にメアリアン様と参加している可能性だってある

それに3ヶ月、、、その間に何か大切なイベントがあった気がする


整理のつかない頭に何度も瞬きを繰り返す

そもそも何故そんなに長く意識を失っていたのだろう、、そこまで考えてハッとする

そうだあの日、メアリアン様に足を引っ掛けられて、、


考え込んでいる間に両親を呼びに行こうと動き出すナナの手を取る


「待ってナナ、、人を呼ぶ前に色々教えて欲しいの」


その言葉にナナは黙って私の瞳を見つめ返す


私はことの経緯を話した

と言っても本を返しに書庫の奥まで登った際、帰りの階段でメアリアン様に足を引っ掛けられただけなのだが


「、、、そんなっ」


私の言葉にナナはショックを受けたようだ


「あの時私がついていれば、、」


確かに二人でいれば足を引っ掛けるなんて事はされなかったかもしれないが、、

いずれはこうなっていたのかもしれない

メアリアン様にとって私が邪魔な存在な事に変わりは無いのだから


「なんとかして婚約を破棄出来ればいいのだけれど、、」


そう思考を巡らせてハッとする

今はチャンスなのでは無いだろうか

階段から転がり落ちた今、何か後遺症を装えばふさわしく無いと思ってもらえるかもしれない


「記憶喪失って事にして婚約破棄してもらうのはどうかしら!」


私の思いつきにナナは渋い顔をした


「お嬢様、、私にはお嬢様が演技を出来るような器用なお方には見えないのですが、、」


「大丈夫よ!それに、、」


破棄されたらすぐに記憶は戻った事にすれば良いのだから


私はニヤリと口角を上げた


ーー

ーーー


「あぁ!リーチェ!!」


私が目覚めたことを伝えに行ったリーチェを見送り私は神妙な顔でその時を待った


凄い勢いで雪崩れ込んできたお父様は目覚めた私を見ておいおいと泣き出した

お母様もハンカチで目尻を押さえているし

お兄様たちも勢揃いで私を覗き込んでいる


「あ、、えっと、、」


私はふぅっと息を整えるとぎこちなく口を開いた


「スミマセン、、ドナタデショウカ?」


その瞬間シンッと静まり返る


お父様もお母様も目をまんまるくして私を見つめておりお兄様たちも固まってしまった


「えっと、、、」


なんともいたたまれない空気に扉のそばで控えているナナに視線を向けるとやれやれとため息をつく


「お嬢様は記憶喪失だそうです」


ナナの投げやりな言葉に一番上のお兄様が呆れたようにため息をついた


「リーチェ、、和ませようとしてくれたんだね?

でも少し良く無い冗談だよ」


「えっとそのぉ」


あわあわとする私に今度は2番目のお兄様が私の背中をさする


「何か考えがあったのかな?」


優しく覗き込まれ私は観念した

私のことが大好きでたまらない家族たちにこんな下手な演技が通じるはずはなかった


「わ、、私の婚約を破棄したくて、、っ」


絞り出すように言った言葉にお父様とお母様はへなへなと床に座り込んだ


「お父様!?お母様!?」


驚く私に寄り添いながら床にへたり込んだ二人ははぁーっと息を吐いた


「なんだ、記憶喪失じゃなかったのか」


「驚かさないで頂戴っ」


どうやら両親の事は騙せていたようだ


ーー

ーーー


私はことの経緯を説明した

実は家族には婚約者に恋人がいることや冷遇されている事は伝えていなかった

この過保護な家族は私の現状を知ったら家格の事などお構いなしに怒鳴り込み婚約を破棄していたかもしれない

公爵家は我が家にとって事業の要と言っても良い

そんな事になればせっかくここまで築き上げたものが台無しになってしまう

それだけは避けたかった

だから私は次期公爵夫人にふさわしく無いという方向に持っていきたかったのだ


「あのルディカーティス君が恋人ね、、それは確かなのかいリーチェ」


ひどく憤慨すると思っていたが思いの外お父様は冷静に声を上げた


「はい、、もう何年も私とのお茶会は早々に切り上げメアリアン様と逢瀬をなさっております」


最近では夜会でもコソコソと噂され後ろ指を刺されていた為家族も知っているだろうと思っていたがどうやら私の気にしすぎだったようだ


「それに、、、」


ナナからは今回の事は私が足を滑らせた事で起きた不慮の事故だと聞いた

そもそも第一発見者も大きな音を聞きつけてやってきたナナだったようでその場にメアリアン様がいたかどうかは定かでは無いらしい

きっと事故だと思っている家族にもこのことを伝えなくてはいけない


「私が階段から落ちたのはメアリアン様に脚を取られたからです」


そう俯きながらいうとワナワナとお父様の肩が震え出す

お兄様達もぎゅっと拳を握り青筋を浮かべながらも顔だけはにこやかだ

どうしよう、これは、、、

完全にブチギレてらっしゃる、、、



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