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「よし、バッチリですお嬢様!」
「ありがとうナナ」
私は鏡の前でなんだか落ち着かずに全身を見回す
「ふふふ、、緊張なさってるんですね?
良いですねー、青春って感じですねー」
ニタニタと笑うナナに私は顔を真っ赤にして俯く
今日はラインとデートをする事になっている
あの日飛び出してしまったからその埋め合わせだ
「私は前々からお嬢様にはラインさんがお似合いだと思っていたんです!
こんな形で叶うとは、あぁ、、ルディカーティス様、不甲斐ない婚約者でいて下さりありがとうございます、、お陰でお嬢様とラインさんがデート出来ます、アーメン」
膝をつき太陽に向かって訳の分からないお祈りをしているナナ
もう、何をやっているんだか、、
コンコンと扉がノックされる
「上がって良いって言われたから扉の前まで来ちまったが、、まだだったか?」
ナナが扉を開けるとラインがいてドキッとしてしまった
てっきり執事が呼びに来たと思っていたから心構えがまだなのに
「もう、準備は終わって降りる所だったの・・・
その、お迎えに来てもらっちゃって・・ありがとう」
なんだか意識をしてしまって辿々しくなってしまう
「俺がリーチェに早く会いたくて来たんだ
それにその服、よく似合ってる、かわいいよ」
にこりと笑って流れるように小さな花束を渡してくれる
花を束ねているリボンにステンドグラスのような装飾を施されたアイシングクッキーがくくりつけられている
「それ、最近都で流行ってるらしくてさ
スイーツって言ったらリーチェだろ?」
爽やかに笑うラインを直視できない
こんなキラキラしてたっけ??
いや、まぁ元々好青年だとは思ってたけど
「その、きょ、、今日は、、よろしく、おねがいします、、」
モゴモゴと話す私の手を取ると手の甲に軽く口づける
そのまま恭しく私をエスコートするラインは本当に手慣れているというかなんというか、、
「俺の方こそ、リーチェと過ごせる時間をくれてありがとう
それに、、意識してくれてるみたいで嬉しいよ」
「そりゃ、、あんなことがあったら、、とうぜん、、」
なんだか私ばかり振り回されている気がして悔しい
居合わせているナナも口を抑えながらぴょんぴょんと興奮して飛び跳ねている
「・・・本気で、口説かせてもらうから覚悟しておけ」
もう十分ですと言いたくなるが逃してはくれないのだろう
ー
ーー
ーーー
カランコロンと小気味のいい音共に入店した店は小さなアクセサリーショップだった
陳列棚はそんなに広くなくむしろその横に設置されているオープンになった加工場が間近に見れる不思議なレイアウトのお店だ
「ここは既製品は一切売っていなくて金属と、宝石をそれぞれ好きなやつを選んで加工してくれるんだ」
「こんなお店があるなんて知らなかった」
自分の生まれ育った領でもまだまだ知らないお店だらけだわ
棚に並んだ金属は全てスティック状になっているが鉱物の含有率が異なるのか色合いが少しずつ違って面白い
「それぞれ相手をイメージしたものを作るのなんてどうだ?
リーチェのシルバーブロンドの髪も俺の金髪も近い金属の色、きっとあるだろうからさ」
「確かに、、楽しそうね」
ニコリと笑いかけると店主と思われる年配の男性がそれではと店の端にある机と椅子に案内してくれる
横並びになった椅子にそれぞれ腰掛けるとプレートに並べられた小指くらいの大きさの金属の棒を何本も並べてくれる
「これがシルバー、こちらがゴールドですね、、決まったらまたお声がけください」
どうして横並びなのだろうと思ったが髪色と見比べるにはこの近さの方が良さそうだ
「先、私が選んでもいいかしら?」
「もちろん」
ワクワクと胸を高鳴らせる私に少し微笑むとラインは私が見やすいようにと私側を向いて座り直し少し前のめりになってくれる
私は金属を取ってはラインの頭に掲げて髪の毛に照らし合わせる
うーん、惜しいなぁもうちょっと明るくて黄色味の薄いやつ
あぁでもないこうでもないと白熱してしまい気がつけば私も前のめりになってラインの髪の毛を1束掬って比較してみたり、、いっそ立ち上がって光の当たっている部分を見るためにラインの頭に腕を回してまで見比べてしまった
「うん!これね!これが一番ラインの髪色に似てるわ!」
ようやく納得のいくものを見つけて椅子に座ると目の前のラインが真っ赤になって固まっていた
「ライン・・・?どうしたの?」
息まで止めていたのかようやく離れた私にふぅっと息を吐く
「結構、照れるもんだな」
ボソボソと何かを呟きながらパタパタと顔を仰ぐと深呼吸した
「納得いくものは見つかったか?」
「えぇ!完璧よ!ほら、見てみて?」
ラインは差し出したゴールドを手に取ると手鏡を見ながら自分の髪色と比較する
うん、我ながら完璧な仕事をした
「今度は俺の番だな、リーチェも少しだけ下向いてくれるか?」
「えぇ!」
私もラインと向き合ったまま少しだけ俯く
ラインは机の上のシルバーを何本か手に取るとそのまま私の方に身を乗り出してサラリと髪を掬う
近づいた顔と触れられた髪がなんだかくすぐったい
ぁ・・確かにこれ、ちょっと照れるかも
なんだか気恥ずかしくなりチラリとラインに目を向けるとバチリと目線が絡み合う
ラインはそのまま目を逸らさずにじっと見つめて私の顔にかかる髪を指先でそっと払う
「・・・な?照れるだろ?」
悪戯っぽく笑いかけられて一気に顔に熱が集まるのが分かった