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「少し、散歩しよ、、」


公爵夫妻は気を使うだろうからと同じ敷地内にある別邸に私を泊めてくれている

もう殆どの業務を引き継いでおり、今年ルカ様が20歳になったタイミングで爵位を継ぐ事になっている

爵位を継いだ後はこの別邸に現公爵夫妻は移動するらしく、準備が進められておりとても綺麗で生活するのになんの問題もない


既に夜もふけっておりメイド達に声をかけるのも忍びなく、私はブランケットを夜着の上から羽織り、灯り片手に別邸を散歩する

好きにどうぞとは言われていたが部屋を散策するのは忍びなく廊下を歩きながら庭園を眺める

月夜にキラキラと光る噴水や、草花についた水滴が光っておりとても綺麗だ

庭師の仕事が行き届いているようでどの花も露を含み星のように輝いている

ぼんやりと外を見ながら歩いているとベンチに腰掛けるルカ様の姿を見つけた

月の光に照らされる姿が妙に幻想的でついつい見入ってしまう


「・・・、よしっ」


なんだか今ならいけそうな気がする

私は少し意気込むと庭園に向かった


ーー

ーーー


「風邪、引いてしまいますよ?」


近づいてみるとルカ様は目を閉じており、眠っているように見えたのだが私が声をかけると驚いたようにこちらを見た


「・・眠っていた訳ではなかったのですね、お邪魔してしまいましたか?」


色々あったし、一人で考え事でもしていたのだろうか、そう思ったがルカ様は首を振り立ち上がると私の肩にかかっていたブランケットを掛け直す


「まだ病み上がりだろう、風邪を引く」


戻るように促す手を掴み私は首を振る


「少し、お話がしたいです」


ジッとルカ様の瞳を見つめると彼は少し戸惑いながらも了承してくれた

一緒にベンチに腰掛けながら夜の噴水を眺める


「助けてくださったと聞きました、ありがとうございます」


「いや、、むしろ遅くなってすまなかった」


「そんな、、あの時私、、、あまり良くない態度とりましたし、、」


少し俯きながらモゴモゴと呟く

指先をいじいじしながらどう話を続けようかと悩む

お礼から、婚約破棄に話題を変えるのって難しすぎる、、

そもそもこんな御礼で良いのだろうか

沈黙が長くなればなるほどどう切り出したら良いか分からなくなり押し黙っていると思いがけずルカ様が口を開いた


「・・・婚約破棄の件、受け入れよう・・」


思ってもいなかった言葉に面食らってしまった


「え、、、?」


「君からの提案をあの時受けていればこんな事にはならなかっただろう、、申し訳なかった」


「そんな、、!」


ルカ様はあの時私を確かに助けてくれたのに、

痴情のもつれとはいえ海に突き落とすまで発展するとは誰も思っていなかっただろう


「本当に、申し訳なかった」


そうもう一度小さく呟くとルカ様はおもむろに立ち上がる


「・・夜は冷えるな、早く戻った方がいい」


私の次の言葉を待たずにルカ様は少しだけ微笑む


「随分長い間・・・迷惑をかけたな」


あまりに切ない表情にぎゅっと胸を締め付けられる

足早に去っていく後ろ姿に何か言わなきゃと焦って口を開く


「あ、、ありがとう、ございます、、いままでっ」


ついてでた言葉は御礼で、自分でも驚く

なんだか泣きそうになりながら言った私の言葉にルカ様は振り返る事も足を止める事も無かった

追いかけたくなる衝動を必死で堪えながら私は自分に言い聞かす

婚約破棄、したかったんだから良かったじゃないかと


ーー

ーーー


翌朝一番に自宅に帰宅した私はそのまま自室に篭る

婚約破棄する以上そう長く留まってしまっては迷惑になるだけだ


ルカ様との婚約破棄、ようやく出来て嬉しいはずなのに、どうしてこうも気分が落ち込むのだろう

この強い消失感はきっと長年あった婚約者という肩書きが消えてしまうせいだ


それに、これで晴れてルカ様とメアリアン様は幸せになれるのかもしれない、、


なんだか私ばかり失うものが多い気がするが仕方ない

今後社交界に出られないのは私も同じか、足が治ったところで“完治しない“という理由で婚約破棄する以上ダンスなどはもう踊れないし、貴族との結婚は諦めよう

まぁ、そこに強いこだわりがあった訳ではないのだが


「リーチェ、入っても良いかい?」


昼下がり、もうじき傾き出す日をぼんやり眺めているとノックと共に入ってきたのはお父様だった

その手に握られている書簡をみて姿勢を正す

来てしまったのか、、


「リーチェ、、ルディカーティス君から婚約破棄に関する同意書類が届いた、ここにサインしたものを提出すれば晴れて婚約は解消される。

後悔はないんだね?」


優しく見つめられ少しだけ深呼吸をして頷く


「はい、、大丈夫よ、お父様」


にこりと微笑みかけるとお父様は何度も何か言いたげに口を開き、閉じる


「・・・お父様?」


何かあるなら言って欲しい、、なによりそんなに意味ありげに見つめられてしまうと気になってしょうがない


「いや、何でもないよ

病み上がりなんだ、ゆっくり休みなさい」


絶対何かありそうな背中を見送る

そばで控えていたナナもキョトンと首を傾げる


「旦那様は今日も抗議に行っていましたし、、難航しているのでしょうか?」


「さぁ、、私はもう関わりさえ持たないと誓ってくれれば釈放でもなんでも良いって言ったんだけど、、」


「お嬢様は優しすぎます!!」


優しいのではなくて、、兎にも角にももうメアリアン様と接したくないだけなのだ

お兄様とお父様の時間も無駄にしたくない

それ相応の罪をと言ってくれるのはありがたいがこうして生きていたし、婚約破棄さえ成立してくれればもう彼女もあんな暴挙に出ることはないだろう



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