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あれは確か10年前、私がまだ7歳の頃だ


「そんなに緊張しなくていいのよリーチェ」


ガラガラと揺れる馬車の中、向かいに座るお母様が息巻く私にそっと声をかける


「大丈夫、僕もついてるよ」


隣に座るお兄様がぎゅっと手を握ってくれる


「私、緊張なんてしてないわ!」


むしろ楽しみで仕方がないのだ

ようやく、ようやくこの日が来たのだから


先日迎えた7歳の誕生日で私はようやく社交の場に連れて行ってもらえる事になった。

お兄様は5歳の時には連れて行かれていたというのになぜ私はダメだったかというと


「あぁ、私の可愛いリーチェ、、、ちゃんと約束するんだぞ!男の子たちとは目を合わさない!分かったね?」


この過保護な父親のせいだ


帝都から馬車で50分程度、、辺境ではないが中心地でもない中途半端な土地に居を構える我がディオーラル家は立地的に流通の要であるが為一代で成り上がりなんと爵位まで買い上げた成り上がり貴族だ。

男爵になった数年後には災害時の復興手腕が評価され伯爵に、、あれよあれよと出世した為さぞ大きな反感を買うだろうと思われたが父の人柄もありそう大きな波風は立っていない

そんな破竹の勢いで何もかもを手にしていたディオーラル家がなかなか手に出来なかったもの、それが娘だった。


5人の兄ののち生まれた私、ベアトリーチェは本当に本当に溺愛されて育ったのだが、、箱入り娘と言うには少々やんちゃで自然の中伸び伸びと育った。

本来なら迎える5歳でのお披露目の際、嫌な事はなーんにもしなくていいよーと甘やかして育てていたがようやく貴族だと言うことを思い出した父は大慌てで最小限のマナーを叩き込み、、苦節2年なんとか形だけは淑女らしくなった。


これまではパーティやお茶会の度に交互に兄たちが残ってくれたが自分だけ参加のできない事にもどかしさを覚えていた。


それが今日ようやく、、!


領地の外に出たことのない私は新鮮な景色を堪能しながら馬車に揺られていた、

かれこれ40分以上、、少し飽き始めてはいるが、、


少し身を乗り出し窓から顔を出すとちょうど門が開かれるところだった

これが、、、帝都!!

うちもなかなか栄えているとは思っていたが規模が違う

何よりこの城下を囲む塀や門、、厳かな雰囲気にソワソワとワクワク、そしてちょっぴり不安感が体中を駆け巡る


そして広がる城下町はとても活気にあふれていた


「こら、リーチェ危ないよっ」


お兄様がソワソワと私の腰を支える

どうやら夢中になっているうちに相当身を乗り出していたようだ


「ベアトリーチェ!」


お母様のピリリとした声色に慌てて体を引っ込めると姿勢を正して座った


「あら、馬車でお留守番したいのかと思ったわ?」


にこりと微笑んではいるがピリピリとしたものを感じる


「大丈夫大丈夫、帝都にある私の仲の良い貴族が開催するお茶会だ!気心の知れた仲だし、相手もリーチェにとってはじめてのお茶会だってことは分かってくれている」


「そうは言っても、、、」


お母様は不安そうに到着した家を見上げる、いや、、それはもう城と言っても良さそうだ


「あのお転婆なリーチェの初めてが公爵家だなんて、、」


額を抑えながら口元を隠すようにお母様は扇を広げた


ーー

ーーー


「ほわぁぁぁぁ!美味しすぎるぅ」


庭園の中、茂みの影に隠れて私はパクパクとお菓子を頬張る

会場に着くと大人と子供で少し会場が離れていた


そう、つまりお母様の監視から逃れたのだ

問題を起こせばきっと次は無くなってしまう

だけれど知らない子たちとお上品にお話ができるほど私のマナーは完璧ではない、、

そもそも男の子とは目を合わせるなと言われているのだ


私はお皿にてんこ盛りにご飯を盛ると庭園の隅に隠れてもそもそと食べ物を頬張った


もっと、もっとと食べているとパタパタと足音が近づいてくる


「あ!リーチェこんな所に!!」


少し肩で息を切らした兄の姿にびくりと肩を揺らす


「お、お兄様、、、」


ちょうど持ったマカロンがぐしゃっと潰れるのがわかった


「はぁ、、お母様には黙っててあげる、、そんな事より急いで!」


つぶれたマカロンを慌てて口に頬張ると兄は呆れながらハンカチで顔や手を拭ってくれる


「もう、、こんなに食べたらお腹壊すよ?」


呆れたように微笑むと私の手をぎゅっと握る


「大丈夫、習った通りにやればいいだけだからね」


兄に腕を引かれるがまま訳がわからず連れてこられたのは会場から少し離れた所にある応接室だった

お兄様は扉の前で一つ深呼吸をすると緊張した面持ちで扉をノックした


「失礼します」


そっと開かれた扉に私はまだ頭が追いつかずキョトンとしてしまった

両親と一緒に厳格そうなおじ様と柔和に微笑む女性、、どちらも私の両親とそう歳の差はなさそうだ

そしてその2人に挟まれるように綺麗な黒髪の男の子が立っていた

まずは挨拶、と思ったが男の子と少し視線が合い慌てて晒してしまった

目を合わせるなと言われているから、、だからそんな顔で睨まないでお母様、、


「パーティは楽しんでいただけているかしら?」


「はい!お気遣いいただきありがとうございます」


優しい声に笑顔で反応してハッとする

到着時に挨拶した今回のパーティ主催者、、つまり公爵夫妻!?


「ご、、ご挨拶が遅れましたベアトリーチェと申しますっ」


ギクシャクと挨拶をするとお母様は頭痛がするのか頭を抑えている

これは帰ったらきっと怒られる


「ふふっそう緊張しないで、、息子が挨拶したいそうなの、ね?」


しかしそんな私に優しく微笑むと公爵夫人はそっと男の子の背を押す

促されるように私の前に出された少年に目をやると今度はあちらがふいっと顔を晒した


そしてそのまま私を指差すと柔和に微笑む公爵夫人に一言


『・・・これでいい』


一気に凍りつくその場の空気に私だけが未だ状況を理解できていなかった


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