1-18
あれから、私は彼に一通手紙を送った
たくさんのお誘いをありがとう、もう気を使わなくて結構ですので是非メアリアン様を誘って差し上げて欲しいと
そして婚約破棄して早く彼女と婚約して差し上げて欲しいとも書いた。
長年彼女とお付き合いされている事をずっと承知していた旨も告白した。
それでも早々に婚約破棄を申し伝えなかった事を詫びたかった
家格だなんだと言ってはいたがきっとそれは言い訳だった
ここ数日で分かったがきっと私は彼がずっと好きだったようだ
メアリアン様が王子の婚約者になれば二人の関係は終わるだろうし、いつか自分を見てくれるとどこか期待していたのだろう
返事も要らないし、手紙ももう送らないで欲しい
会う事も当分は避けて欲しい、、とも書いた
私の気持ちにも区切りを付けたかった
ナナは花祭りに一緒に行くかと誘ってくれたがとてもじゃ無いが気分が乗らなかった
ただ夜に行われる船上イベントにはどうしても参加しなくてはならなかった
今回の花祭りで使われる船はディオーラル家が公爵家による南部取引の成功を祝って送られたものだった
なので両家のみんなで甲板から花に見立てたランタンを上げる予定らしい
もしかしたらこの両家の結びつきが彼の婚約破棄を邪魔しているのかもしれない
両家の関係をそのままに私たちの婚約を破棄出来るよう掛け合ってみても良いかもしれない
張り切って買った刺繍糸は一度は仕舞い込んだが引っ張り出して自分の色の花をたくさん縫い付けた
ルカ様の色の花を消すように、上から水色と銀色で埋め尽くす
彼の色を纏う事が私には耐えられなかった
花祭り当日、家族はみんな忙しく朝から出払ってしまう
流石に家にいてはみんな気を使うだろうと一緒に都には出たが気乗りしなかった為、ベスお兄様が借りている都の宿に引き篭もる事にした。
ベスお兄様はこの花祭り用にたくさんの脚本を書いており、大忙しだった為帰る時間も惜しんで都に宿を借りていた
窓から今夜のフィナーレで使われる船が見えてカーテンを閉めた
ー
ーー
ーーー
夕方になり私は宿に来てくれたおじいちゃん先生に足首を固定してもらう
甲板に出てランタンを上げて、戻る
その間杖を使わなくても良い様に足首に添え物を入れてもらい包帯でしっかり固定してもらう
足首が稼働しなくなる為歩きづらいし動きもぎこちないが負荷がかかって痛めることは無さそうだ
「何か美味しい食べ物があるといいのぅ」
励ましで掛けられた言葉になんとか苦笑いを返すと私は祭りのフィナーレを飾る船上へと向かった
船内は招待された貴族達で賑わっていた
特に甲板にはこの後上げるランタンが用意されておりより賑わっている
キョロキョロと家族を探したが王女様に言い寄られるルーファお兄様しか見つけられなかった
「ぁ、、」
家族を探していると今最も見付けたくない人No.1のルカ様、、いや、ルディカーティス様がいた
バッチリ目が合ってしまいこちらに向かってくるのが分かり慌てて逃げる
幸いにも私にたどり着く手前で話しかけられて歩みが止まるが直ぐにでも追いかけて来られそうで慌ててその場を離れた
この足ではあまり人が多いところだとぶつかってしまい迷惑だ
出来るだけ人がいない所にと歩いているとグイッと体が引っ張られる
「ちょ、、いたっ」
振り払って逃げたいが足が痛くて思うように動けずずるずると
薄暗い裏に引っ張られていく
甲板横に取り付けられた細い通路は荷物搬入の為に使われる滑車などの工具が置かれており、豪華客船ではなく貿易船だという事を伺わせる作りになっている
「うぐっ」
強く壁に叩きつけられるようにして止まると固定された足ではうまく体を支えられずそのまま倒れ込む
私はこの薄がりまで引っ張ってきたその人を恐る恐る見上げる
「、、、メアリアン様」
「お加減はどうかしら?」
ぐっと足を踏みつけられ、先ほど巻いてもらった添木が食い込む
丁寧に固定されたとは言え上から踏まれればむしろゴツゴツとした木が足を圧迫し強く痛みが走り私は足首を庇うようにメアリアン様の足に縋り付く
「イッ・・・!!」
髪の毛を鷲掴みにされ上を向かされる
「次は、どうなると言ったか、、覚えていませんの?」
憎悪に満ちたその瞳に私は怯えて言葉が出ない
「ずっと、ずっと貴女が邪魔でしたのよリーチェ?」
愛称で呼ばれた事がより恐ろしさを引き立たせる
髪を引っ張られて再度壁に叩きつけられるとグイッと顎を鷲掴みにして至近距離で目と目が合う
「わたくしは、、わたくしはずーっとずーっとルディ様をお慕いしておりましたのに、成り上がりの平民風情が、、!!」
そのまま髪を掴んでいる方の手を振るようにして壁から柵へと引っ張られる
抵抗したいのにあまりの痛さにされるがままだ
「イタッ!はなしてっ」
髪を掴んでいる手に抵抗していたが荷物用の通路のせいか腰までも無い柵に向かって落ちそうに身が乗り出したところで髪を離されあわや落ちそうになったタイミングで首を絞められる
どうして私が、こんな目に合わなくてはいけないのだろう
締められる首は苦しいが、この手のおかげでなんとか柵から落ちづに済んでいる
私はメアリアン様をグッと睨みつける
彼を、ルカ様を慕っていたなら、、、それ相応の行動があったはずだ
「じゃ、、ど、して、、王子の、、こ、やくしゃ、候補、、な、て
、、辞退すれば、、っ」
私の言葉にぎゅっと首を絞める力が強くなる
「何をおっしゃいますの?王女になれるならその方が良いじゃない?」
フッと蔑むように笑う彼女に私は沸々と湧き上がるものがあった
それは愛と呼べるのだろうか?
その方がいい?王女?
その程度ならどうして私にそう怒りをぶつけるのか分からない
私は彼女の手首を掴むとグッと押し返すように身を乗り出し彼女と顔を近づけて睨む
「王女にもなりたいしルカ様にも愛されたいって、、傲慢がすぎるわ、、婚約者に選ばれなかったのも納得ね!」
言い放つとメアリアン様はドンっと強く私を押した
「言ったでしょう?次は助からないって、、」
ふわりとした浮遊感と共にメアリアン様がどんどんと遠くなる
あぁもう、煽ってどうするの、、、
船から放り出されながら私は後悔した
あんないつでも落とされる体勢で言う言葉じゃなかったなぁ、、なんて、、、
ドボン
春のまだ肌寒い夜
冷たい水が肌を刺す中、背中から落ちた私はその強い衝撃に息を全て吐いてしまいブクブクと海中に沈んでいった