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すぐメアリアン様を誘っていなくなるだろうと思っていたがルカ様はなかなか誘わず
むしろ机の上に並べ切った食事を食べようと私の向かいに腰掛けようとした
痺れを切らしたメアリアン様が座ろうとしたルカ様に慌てて声をかけた
「ルディ様、私と一曲踊ってくださらないかしら?」
にこやかに差し出された手を見るとルカ様は本当に意味がわからなさそうに首を傾げた
「・・・なぜ?」
断られるだなんて思っていなかったメアリアン様は目を丸くしている
私もまさかの展開にキョトンとしてしまった
「なぜって、、ベアトリーチェ様は足を怪我なさっていて踊れないと伺い、、代わりに私に踊ってはどうかと提案されましたの」
そんな提案はした覚えがないがキツく睨まれ口を閉ざす
正直色々ぶちまけたい気持ちはあるがどうにもならない
家格が高い上代々王家に仕えてきている侯爵家の娘に対し成り上がり伯爵令嬢の私では到底太刀打ちできない
ここは、私は物言わぬ石像になるしか無いのだ
「ファーストダンスは婚約者と踊るものだろう?」
動じずに返すルカ様にメアリアン様は少しイラついたような声を出す
「ですから、そのベアトリーチェ様が踊れませんので!」
その言葉にルカ様は間髪入れずにハッキリと言葉を続ける
「ファーストダンスを、リーチェ以外と踊る気はない、つまりリーチェが踊れないならば俺は誰とも踊らない
それに、俺と踊る必要は、、もう無いはずだが?」
紡がれた言葉に私の理解が追いつかない
いつも私と踊った後はメアリアン様と踊っていたからてっきりすぐにでもメアリアン様とダンスホールに移動されると思っていたのに
確かに生真面目で堅物な印象の強い方ではあるが、ここまでだとは
「その、私には構わず行ってください、、」
射殺すようなメアリアン様の視線に耐えきれず口を開くがルカ様は首を縦には振らない
「・・・なぜだ?」
心底わからなさそうに私を見つめるルカ様を前に必死にメアリアン様に私はこう言っているのですがアピールをしたが日に油を注ぐだけだったようでメアリアン様はプルプルと怒りで拳を震わせている
「あぁ!」
そこであげられたルカ様の声に私はようやく理解したのかと安堵したが続けられた言葉にまた迷宮入りする
「リーチェ、友人のダンス相手がいないことに心を痛めていたのか、、、」
友人、、?私とメアリアン様が?
なぜそう思ったのかは分からないが、そもそも婚約者と恋人が友人だなんて、どう言う冗談だろうか
ルカ様は少し思案した後にまた口を開く
「宰相のリンハルトは確か妻が妊娠中とかでダンス相手がいないように思う、、それか、そこにいるクロイ伯爵令息もどうだろうか」
続けられた言葉にメアリアン様は顔を真っ赤にしてもういいです!と叫ぶように言い放ち去っていった
ルカ様はよく分からないと言ったように首を傾げるとすぐに私の向かいに座る
「リーチェが好きそうなものを見繕ってきたのだが、どうだろうか?」
チラリと私を伺うように見ながら言われたが正直それどころじゃ無い
いいの?
恋人をあんな冷たくあしらっちゃって
何かのパフォーマンス??それともそう言う趣味でもあるのだろうか?
そしてもう一つ気になる事がある
「あの、ルカ様
私とメアリアン様が友人というのは、、?」
私の問いかけにルカ様はサラダにフォークを伸ばしていた手を止めてジッと私を見つめる
「よく一緒にいるのだろう、、?友人ではなく親友だったか?」
なんでこの人はこうもまぁ会話がうまく噛み合わないのだろうか
「そんなんじゃ無いです」
「・・・ふむ」
私の解答になんだか不可解そうに眉間に皺を寄せるがルカ様にとってこの話題はどうでも良かったようでジッと私の手元を見つめる
「食べないのか?」
「あ、いただきます」
取りに行ってくれた彼からしたら私が食べない事は確かに不快かもしれないなと思いここでようやくお皿に向き合う
私の好物だらけが並んでおり私もポーンっと先ほどまでのモヤモヤが飛んでいく
「凄い!私の好きなものだらけです!」
感激しながら手を伸ばす
案外メアリアン様と好みが似ているのかもしれない
こんなに好物だらけだなんて
ウキウキと口に食事を運ぶとルカ様は目を細め私が食べている姿を嬉しそうに見つめる
初めて見る表情にドキリと胸が騒ぎ出す
なに、その顔、、、
「これも、、あれば必ず食べているだろう?」
そう言って差し出されたキッシュに戸惑う
どうして知っているのだろう
受け取ったキッシュはいつも通りすごく美味しいのになんだか食べることに集中出来ない
「明日、予定はあるか?」
明日どころか目覚めたばかりの私は何一つ予定なんか入っていない
そもそも友達のいない私は公的な予定以外基本何も入らないのだ
その為直近の予定もずいぶん先の国王の生誕祭だ
割と社交的なはずなのに友人がいないのには理由がある
そもそも成り上がり貴族という立場はあまり好かれにくいのもあるが近づいてくる男の人たちはみんな兄たちが追い払ってしまったし
女の子たちはみんな兄狙いな子たちばかりだった
成り上がり貴族だと馬鹿にするくせに金はある為か兄達はとてもモテるのだ
まぁ、ルックスも良いのだけれど
「明日どころか、生誕祭まで何も予定がありません」
私の答えにルカ様は少し考え込む
なによ、仕方ないじゃ無い友達いないんだから
「では、明日ディオーラル領の視察を手伝って欲しい」
「私でよろしければ是非」
「それと、週末に遠乗りはどうだろうか?
月末に首都で花祭りもあるな、、、そういえば隣国の行商が来月頭に来るのだが良ければそれも一緒に、、、」
気を使わせてしまっただろうか?
毎週会う予定を入れてくれようとしているルカ様になんだか面白くなってしまった
「ふふっ、、ルカ様がご無理なさらない範囲で、、よろしくお願いします」
全てを全て本気にしてしまってはお忙しいルカ様の仕事を邪魔してしまう
そう思って返事したがルカ様はうんうんと頷く
「帰ったら正式に手紙を送る」
「はい、お待ちしております」