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ざわっ
会場に着くとあたりが一度どよめくのが分かった
明らかにこちらを見ているのが分かり居た堪れない
理由は分かっている
エスコートをしてもらって入ることも滅多に無いのに今回はコーディネートまでしっかり揃えてある
こんな格好で公の場に出るのは私のデビュタント以来の出来事だ
あぁ、早くどこかに隠れて食事を堪能したい、、
どうせルカ様は早々にメアリアン様の所に行くだろうし一人になったら誰かに捕まる前にどこか隅にでも隠れよう
そう思っているのに、ルカ様は私にぴったりくっついて離れない
何でだろうと思ったが、メアリアン様主催の夜会な事もあり、彼女は挨拶で忙しくしているのが見えた
今行っても邪魔だから私のそばにいるのだろう
それに、しっかりと支えてくれているこの腕を見るに、私の足を気遣ってくれているのもありそうだ
足を理由に縛り付けるのも申し訳ないし、どこか端にでも座ってしまえば彼も心置きなく私から離れられる
「あの、、お食事でも取って座りませんか?」
こう誘えば彼も察して適当に座らせて何処か行くだろう
「・・そうだな」
私の提案に頷くと思ったより会場の目立つ所にある椅子に座らされる
こんな目立つ所じゃ貴方も逢瀬に席を外しにくいでしょうよ!
私はもっと端の質素なところで良かったのに、、
会合や歓談を楽しむ人用に設けられたスペースに移動するとは思わなかった
一体何を考えているのだろう
困惑しながら席についたが、私が座るなり早々に立ち去ってしまった
端に行く時間さえも惜しいと言う事なのだろうか
すぐにでも食事を取りに行こうか悩んだが、ここまででだいぶ消耗してしまったようで足が僅かに痛む
覚束無い足取りで転び、パーティを台無しにしかねない
通りすがりのウエイターから飲み物だけもらい飲みながらぼんやりと人間観察でもする事にした
「随分と素敵な格好ね?」
後ろからかけられた声に私はやはりか、と言う気持ちで振り返る
流石に今回は立たないわけにはいかず痛い足に鞭を打つ
「この度はお呼びいただきありがたく存じます、メアリアン様」
少し震え、痛みが走る
格上に対するお辞儀は相手が何かリアクションしないと顔を上げられない
彼女はそれを分かっていて無言でいるのだろう
普通でも少し辛い体勢なのに片足は痛む上体力だって落ちているのだ
ついに耐えられなくなりぐらつく私をメアリアン様は大袈裟に抱き止める
「まぁ大変!ご無理なさらないで!」
そう大きな声で言った後、私を支え近くなった顔をそっと耳元に近付ける
「いつ、婚約破棄なさるの?」
囁かれた言葉の解答は私は持っていない、自身の恋人に聞けばいい話だ
何も言わない私には一切お構いなしに彼女は言葉を続ける
「次は、助からないかもしれないわよ?」
その言葉にゾクリと背筋が凍り息が詰まる
彼女は満面の笑みで体を離すと私を椅子に座らせる
「来てくれてとっても嬉しいわ!心配していたのよ?
その、、大丈夫??」
気遣うように私を見やる彼女の演技力は本当に素晴らしい
女優をすればいいのに、、、
「いっ!?」
思考を飛ばしているとメアリアン様に足を蹴られる
流石、、的確に痛い方を狙ってきた、、のこ性悪な性格みんなにバレて仕舞えばいいのに
「リーチェ、、メアリ、、一緒にいたのか」
手にたくさん料理の乗った皿を持って戻ってきたルカ様に驚く
無言でいなくなったからてっきり逢瀬に去ったのかと思ったが食事を取りに行ってくれていたようだ
「来てくれて嬉しいわルディ」
さっきとは打って変わって天使のように微笑むメアリアン様は甘ったるい声を出してルカ様に駆け寄る
「本日はお呼びいただき感謝いたします。」
丁寧に答えるルカ様に私の心がズキリと痛む
ただお互い挨拶を交わしているだけなことは分かっているが、お互い向き合っているだけで見つめ合っているようにしか思えない
「その、素敵な衣装ですわね」
「・・・一度くらい、いいだろ」
メアリアン様の言葉に一瞬ヒヤリとしたがルカ様の返答に私は言葉を無くす
一度くらい、、か
恋人からしたら私たちのこの格好は不快でしか無いだろう
でも、私たちはまだ婚約しているし破棄だって貴方からしないと言ったのに
真意がわからないルカ様に私の心はぐしゃぐしゃにされている
タイミングよく流れたダンスメロディに胸を撫で下ろす
これで、ようやく二人が私から離れてくれる
正直、メアリアン様とルカ様が仲良くしているところをこれ以上見ているのは辛い
本来ファーストダンスは婚約者と踊るものだが、メアリ様は王子が婚約した事で今はフリーになってしまったし
ルカ様も、踊れない婚約者しかいない為二人が踊るのは自然な事だ
ましてや、この夜会はメアリアン様が開いたものだ
主催者からの誘いを断ることは無いだろう
まぁきっと、より噂は大きくなるだろうが
どうせすぐに真実になるだろう