1-11
あれから4日経った
夜会に招待されたあの日の夜、ルカ様から夜会に同行する旨の手紙が届いた
ルカ様の住む都とメアリ様の夜会会場はとても近いのだが、迎えにきてくれるとの事だった
遠慮しようかとも思ったが、視察の関係で今日から3日ほどうちの領地に宿をとっているらしい
道中が同じなら特に断る理由もない為承諾した
そして相変わらず忙しい中、花束が送られ続けている
流石に本人が来る事は無くなったがいつも目覚めるよりも前には届けられ、起き抜けにまず花束を渡される
届ける人の負担になっていないといいのだが
そして私は少しでも体力を付ける為に頑張ってリハビリに励んでいた
というかルーファお兄様が水中でのリハビリが効果的だとか言ったせいで庭の端にプールが開設されてしまったのだ
一日で作らされた職人さん達には本当に申し訳ない
というわけでせっかく設置されたものを有効活用している
お陰で足に負担なく体力作りに励めているのだ
「今日はほどほどにして、磨きましょう」
一生懸命水中でウォーキングをしているとナナがきらりと美容グッズを取り出した
どうやらまだ私を美しくする作戦は続行中だったようだ
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「お嬢様、ルディカーティス様よりお届け物です」
ようやくご飯が完全解禁し、昼食にサンドイッチを食べていると執事が何やら大きな箱を運んできた
せっせとナナが開封すると綺麗なネイビーブルーのドレスが入っていた
アクアマリンとダイヤモンドが夜空の星のように散りばめられておりシルバーのレースはまるで天の川のように美しい
「まぁ!まぁ!!まぁ!!!」
ナナはとても興奮したように声を上げる
「美しいドレスですねお嬢様!!
ルディカーティス様のセンスがこんなにもよろしかったなんて!」
あまりの興奮ように私は少したじろぐ
「知らされてから時間はあまりなかったはずなのに、、
こんなに凝ったドレス、、どうして用意できたのかしら?」
メアリアン様とルカ様の仲ならば夜会がある事は既に知っていてもおかしくはないが、私が目覚めるかどうかなんて分かりっこないだろう
そもそも彼からドレスを贈られたのは初めての事だ
デビューの日、一度お揃いのドレスを贈られたがそれは彼からというより婚約後初のお披露目の場という事でそれぞれの親から贈られたものだった
その後はドレスのドの字どころか碌な贈り物さえもらった事はない
「メアリアン様に送るものだったのかしら?」
ポツリと呟く私にナナも首を傾げる
「でも、銀糸にアクアマリンですよ?
お嬢様のために作られたドレスって感じですね」
二人して大きく首を傾げながらそのドレスを眺めた
他にも届いた箱の中にはまるでルカ様の瞳のような深いネイビーブルーの宝石を使ったアクセサリーが一式揃っていた
キラキラとダイヤモンドまであしらわれておりドレスとよく合いそうだ
「サファイアかしら、、?」
呟きながらネックレスを持ち上げるとナナも覗き込む
「ダイヤモンドはお嬢様の御髪の色ですかね?」
その言葉に黙り込む
これじゃあ、まるで愛されているみたいではないか
ルカ様の瞳色のドレスにアクアマリンは私の瞳の色だろう
このアクセサリー達だってそうだ
ついこの間、思い知ったばかりだというのに何故こうもすぐ勘違いさせるような事をして来るのだろう
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ーーー
「えっ!?もういらしたの??」
翌日、昼食をとっていると慌ててナナが雪崩れ込んできて伝えられた言葉に驚く
夜会の開始時刻は18時、早めに出て16時半頃に来るものかと思っていた為、準備に取り掛かってすらいない
そもそもまだ11時過ぎ、、どう考えたって早すぎる
慌てて移動しようとしたがナナの後ろから当然のように顔を出したルカ様に固まってしまった
「そのままで大丈夫だ、君はまだ回復しきっていないだろう?」
どうやらルカ様は私の移動を最小限に抑えるためにここまで出向いてくれたようだ
気遣いなのだろうがなんだか少しズレている気がする
「その、昔ドレイクにディオーラル流の特別な移動方法を聞いて、早めに迎えにきた」
何のことやら分からず首を傾げる私だったがルカ様はお構いなしに話を続ける
「首都で着替えられるよう手筈は整えてある」
なにが何だか分からずにいる私を置いてけぼりにしたままルカ様はキョロキョロとあたりを見回す
「車椅子はどこにある?」
「リハビリの成果で、もうこの杖で大丈夫です」
ルカ様は私の横に立てかけてある杖を一瞥すると少し何かを考え込み側使えに何かを伝えて下がらせる
「よし、それじゃあ行こうか」
食べ終わるのを見計らって短くそう言うと何の躊躇いもなく私を抱き上げる
「えっ、、ちょ、、自分で歩けます!!」
必死の抵抗虚しく馬車まで運び込まれ、その扉が開いた瞬間思わず開いた口が塞がらなくなってしまった
ディオーラル流だなんて言うから何かと思えば先日ベスお兄様と一緒に乗ったあの寝られる馬車仕様と言う事か
確かに、ヘアスタイルなど崩れる事間違いなしだ
きっちり準備をしていたらこの馬車には乗れないだろう
ここまで理解できない事だらけだったルカ様の行動に妙に納得して肩の力が抜けてしまった
途端に笑いが込み上げてきた
「ぷっ、、ディオーラル流なんておっしゃるからどんな事かと思いましたら、、まさかそんなに知れ渡っていたなんて」
クスクスと笑う私にルカ様はふいっと視線を逸らす
腕の中にいるせいか無表情なのは変わらないのに照れていると分かった
「私がこれを知ったのはつい先日なんですよ」
ヨイショと馬車に乗り込むとルカ様も乗れるように移動する
ルカ様は少し悩んだ後、意を決したように乗り込む
並んで寝そべると何だか不思議な気分になる
ルカ様も落ち着かないのかソワソワと寝返りを繰り返している
「・・・快適だな」
馬車が動き出し少し経った後にポツリと呟かれた言葉に短く答える
妙に心地よい沈黙が続きすっかり睡魔との戦いに敗れそうになっている私にはそれで限界だった
段々と重くなる瞼に等々抗えず私は満腹感と心地よい揺れの中眠りについた