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メアリアン様が二人の令嬢を連れて入ってきた
その瞬間あの日の出来事がフラッシュバックし肩が震える
「挨拶も出来ないんですの?」
彼女は同じ伯爵令嬢だが成り上がりである私の事は見下しておりいつも目の敵のように強くあたってくるのだ
「大丈夫よライラ、それにベアトリーチェ様は足が不自由なようですし、、仕方ありませんわ」
「まぁ、お優しいメアリアン様」
天使のように微笑みかけてくるメアリアン様に足をかけられた事が夢だったのではないかと錯覚してしまう
「お気遣い、、感謝いたします、、」
震える声でなんとかそう口にするとパンっとメアリアン様が何か閃いたように手を叩く
「そうだわ!週末の夜会にベアトリーチェ様もいらして下さいな!
きっといい気分転換になるはずよ?」
その言葉に私は目を見開く
夜会なんて、メインはダンスに決まっている
車椅子に座る私を上から下に見回すように動く瞳に上がる口角
その口元にゾワリと背筋が凍る
私が落ちて行くのを見下ろしていた、あの表情だ
「ルディ様もご招待いたしますね」
明るい声で言われピクリと肩が反応してしまう
ルディ様、、そうか、彼女は彼をそう呼んでいるのか
なんだか頭から冷や水をかけられた気分だ
今は怪我もあり優しくしてくれているだけだ
ちゃんと知っていたはずなのに、彼が愛しているのはメアリアン様なのだから
「まぁ、お優しいですわ」
そう絶賛する令嬢たちに私はなんとか笑顔でいる事が精一杯だった
お優しい、、?
車椅子の私を夜会に招待だなんて、悪趣味でしかない
「あまり長居してはいけませんわね」
そうメアリアン様は声を上げると最後に私の耳元に口を近づけるように屈んだ
「死んでくれたかと思いましたのに」
囁かれた言葉に喉が鳴ったのが分かった
混乱してうまく息ができなくなる
メアリアン様の側使えらしき人が招待状をそっとサイドテーブルに置いていった
入れ違うように入ってきたナナが慌てて私に駆け寄った
「お嬢様、大丈夫ですか!?」
ひゅっひゅっと浅く呼吸する私の背中を撫でてくれるナナに私はなんとか少し落ち着くが未だ震えが止まらない
涙で滲む視界の中必死に深呼吸をする
「メアリアン様に、夜会に招待されましたわ」
その言葉にナナは目を見開く
「死んでくれたかと思いましたのに、、、と、、やはり私の気のせいではないのね」
殺意を向けられているなんて、思っていなかった
確かにあの階段は急だったし床も木で硬かったが、殺そうとまで思われていた事に震えが止まらない
「いつも、大切な時に側にいれず申し訳ございません、、」
私の言葉をしっかりと聞いてから落ち着かせるようにぎゅっと抱きしめてくれるナナに私も震える手を添える
「ナナは悪くないわ、、それに、私が一人になるタイミングを狙っているのよ、、」
ベスお兄様が出てほんの数秒で入ってきたのだ、
きっとラウンジを通った時私を見かけて個室を見張っていたのだろう
「ごめんね、お待たせリーチェ、、、」
明るい声で入ってきたベスお兄様だったが私とナナの様子に声の勢いを失わせる
そして夜会の招待状をみつけ差出人の名前をみてくしゃっとそれを握る
「・・・今日は帰ろうか?」
確かに観劇どころでは無くなってしまった
「断って仕舞えば良かったのに」
馬車に揺られながらぼんやりしているとベスお兄様がポツリと呟く
侯爵家からの誘いを断れない事くらいお兄様だって分かっているが言わずにはいられなかったのだろう
私はフフッと笑う
キョトンとした顔でこちらを見るお兄様になんだかおかしくなってしまった
「馬車で添い寝なんて、おかしくって」
私の言葉にベスお兄様もフフッと笑う
「実はこれ、お父様がよくやってるんだ」
確かに、お父様はいつ寝てるのかと分からなくなるくらい忙しくしているが、一つ謎が解けた
そこからは他愛もない話しで盛り上がった
お兄様はメアリアン様との会話の内容等聞きたいはずなのに何も言わなかった
ー
ーー
ーーー
「5日後、、じゃあ杖で歩くので精一杯だのぉ」
帰るとナナがお爺ちゃん先生を手配してくれ、すぐに足の状態を診てもらう
普通に歩ければベストだが、そうはいかなさそうだ
車椅子での参加という最悪のシチュエーションは避けられそうで少し安心した
「・・・ドクターストップという手は使えんかね?」
事情は話していないが私とナナの表情で分かったのか先生は私たちを気遣うように声をかけてくれた
「相手が、それを許してくれるタイプじゃなさそうなんです」
それにもうルカ様に招待状を送っていそうだ
私が意識の無い間、流石に逢瀬が出来なかったのかも知れない
この夜会はきっと二人の久しぶりの逢瀬になるのだろう
ますます気が重くなってしまう
「ドレス、仕立て直します??」
会場で一番美しくして行きましょうと息巻くナナはきっと必死に私を励まそうとしてくれているのだろう
私はどうも気分を上げることができず小さくそうねと返事をするのがやっとだった
メアリアン様は社交界の華だ
私が幼い頃憧れていたピンクのふわふわ髪に綺麗なルビーの瞳を持っている
思わず守ってあげたくなるような彼女は男女問わずいつも沢山の方に囲まれている
きっとどんなに着飾ってもメアリアン様を超えることなどできないのは分かっている
脳裏にメアリアン様のルディ様と呼ぶ声が妙に焼き付いて離れなかった