表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/44

1-1


シンと静まった空気の中サクサクと私がクッキーを頬張る音だけが妙に大きく聞こえる


チラリと視線を上げると目の前に座る私の婚約者がチラリと時刻を気にしていた


もう何度目になるかも分からない2人でのティータイムに辟易しながら紅茶を一口含みカップを置いた。


「そろそろメリアとの約束だ」


平然と告げられた浮気宣言にはもう慣れて何も思わなくなってしまった


「えぇ、、」


あんまりに退屈すぎて机の下でヒールを使って足を掻くくらいしか出来ていなかった私はようやくの解放に心の中で歓喜し飛び跳ねた

今日は短く済んだ


何度も訪れている公爵家の庭園は隅々まで整備されておりとても綺麗だがこうも会話がないと景色ばかり見てしまい気がつけばもうすっかり見慣れてしまい退屈な景色になってしまった


「次は来月だったか?」


「いえ、夜会がありますので、、ティータイムは再来月かと」


突然の質問に少し硬い声で答えるとピクリと眉毛が動いたのが分かった


「・・・夜会がある場合でもせめて月一回は行うべきだと先月話さなかったか?」


「ですがお忙しい中で何とか時間を作っていると伺いました、

私の為に時間を割いてくださらずとも大丈夫ですわ」


「・・・お前のためではない」


不愉快そうに眉間に寄せられた皺にあぁと察する

私とのティータイムの後は逢瀬ですものね


公爵夫妻には終日私と会っているとでも言っているのだろう

私の前ではさも当たり前のように逢瀬を伝えてくるが愛人の存在は流石に醜聞か、、

公爵家で堂々と会っている為もう知られてはいそうだが


「ルディカーティス様がそう仰られるなら、、」


来月もこの無意味な茶会の為に50分も馬車に揺られなくてはならないと思うと何とも憂鬱だ


「・・・いい加減に、、まぁいい、失礼する」


重々しい空気と共に去った婚約者を見送る

完全に見えなくなったところでようやく盛大に息を吐いた


「本日もお勤めお疲れ様です、ベアトリーチェ様」


そう言って側仕えのメイドがすっかり冷めたお茶を入れ直してくれる


「あなたも座って頂戴、ナナ」


「・・失礼します」


私の言葉に少し周りを見回すと先程まで威圧的な婚約者が座っていた椅子にすごすごと座る


「あら、またほとんどお手をつけておりませんね」


「えぇ、どうやら甘いものは好きじゃないみたいね

勿体無いし私たちで楽しみましょ?」


私は成り上がり貴族の娘だし側仕えのナナは乳母の娘でまるで姉妹のように育った

側から見たら主人とメイドだがそんなの関係ない

姉妹であり、親友だ

つまり重苦しい婚約者とのお茶会後の口直しにはピッタリだ


「そろそろメアリとの約束だ、、!ですって愛称まで呼んじゃって、、私との婚約なんて破棄してくださればいいのに

家格だってメアリアン様の方が上じゃない?

一体どういうつもりなのかしら?」


ため息混じりの私の言葉にナナはカップケーキを頬張りながら答える


「メアリアン様は第二王子様のご婚約候補ですしそうもいかないのでしょう」


「でも候補よ?確定ではないじゃない」


「ではこの状況をお楽しみとか、、?」


「えぇー、、悪趣味だなぁ、、」


ぐでんとテーブルに伸びるとペシッと手を叩かれる


「こうして私が向かいに座ってお茶会を続行するのを許可してくださった事自体異例なんですよ?せめてシャンとしてください」


広い庭園の中にある東屋は少し覆われていて見えづらいとはいえここは公爵家だ流石にしゃんとしなくては

スッと姿勢を正して座ると遠くから笑い声が微かに聞こえて来た

チラリとそちらに視線を向けると日傘を手にしたメアリアン様とそれをエスコートする自身の婚約者の姿が見えた


「え、、?今日の逢瀬は公爵家でだったの?」


あまりに堂々としており逆に感心だ、そもそもルディカーティス様は私がまだここでナナとお茶会をしている事は承知しているはずなのに

唖然と見つめているとナナはテーブルにまだ残るお菓子をハンカチに手早く包み私ににこりと笑いかけた


「そろそろ先月読んだ本の続きが読みたくなって来ました」


公爵家の蔵書は実に充実しており先月のお茶会の後はそちらに移動したのだ


「ふふ、、ありがとう」


そそくさと移動する私たちをメアリアン様がチラリと見てまたすぐにルディカーティス様の方へと視線を戻した


彼女だってきっと私の存在は疎ましいはずなのに

ルディカーティス様は無神経というか何というか、、まぁ、そう言った揉め事は2人で解決して欲しいものだ、私から提言するものでもないだろう


ーー

ーーー


「ーーっはぁ!面白かったぁ!夫人のセンスは最高ね!」


読み終わった恋愛小説を閉じるとまだナナは真剣に読んでいる最中でどうやら私の声は聞こえていないようだった

外は日が傾きかけており茜色に染まっている。


今日はここまでか

欲張って持ってきた何冊もの本を手にするとそっと立ち上がる

戻しながらまた次何を読むか考えるのも楽しい


広い図書室をゆっくりと歩き回っていると私が来た方向から丁度メアリアン様が本をパラパラとめくりながらこちらに向かってきた。


階段を優雅に登る姿に私は隠れるべきかそれとも挨拶をするべきかと戸惑う

そもそも家格が上の御令嬢に対し階段の上から挨拶なんてしていいものなのだろうか

だとしても登ってこられるまで待ってからというのも変な気がする、、どうしたものかとそわそわしていると気配を察してかメアリアン様がふと視線を上げ、ばっちりと目が合ってしまった


気まずすぎる、、婚約者の家で、、婚約者の恋人と対面、、


ひとまず私は慌てて踊り場まで降り二段程度下で足を止めているメアリアン様に頭を下げた


「ご、、、ご機嫌麗しゅう」


な、、なんて言えば!?

ぎこちない挨拶にクスリと笑うとメアリアン様は優雅に歩を進め同じ踊り場まで上がる

なんてお可愛らしい微笑み!そしてなんかいい匂いまでする

これが本物の令嬢、、私とは醸し出すオーラから違う気がする!


「お付きの方が探されておりましたよ?」


にこやかに言われ私はソワソワと頭を下げる


「あ、ありがとうございますメアリアン様」


私も出来るだけ優雅に頭を下げると

そそくさとメアリアン様の横を通り過ぎ階段を降りようと思ったところでつんっと何かに躓いた


ヒュッと息を呑んだ

景色がぐわんと移り全身に痛みが走るガツン、ゴンッ、ゴツンッと大きな音がなり気が付いたら階段の一番下まで転がり落ちていた

くらむ視界の中口角を僅かに上げるメアリアン様が見えた


ーーーわざと?

引っかかったのはメアリアン様の足だったようだ


やっぱり嫌だよね、愛し合う2人からしたら婚約者とはいえ私が邪魔者なのは間違いないもの

こんな事しなくても、別に私は言われれば婚約破棄くらいするのに、、

家格が低い上に成り上がりの我が家から公爵家がくれた縁談を断れるはずない

その怒り、、恋人にぶつけてくれればいいのになんて呑気な考えを最後に私は意識を手放した。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ