4、偉大なる僕にひれ伏せ、愚民ども!【クリストフォロ視点】
タルタニア王家に長男として生まれた僕は、幼いころから国王になる未来が決まっていた。つまり僕は生まれながらにして選ばれた人間ってことさ! ひれ伏せ、愚民ども!!
いつ決まったのか忘れてしまったが、僕には婚約者がいる。公爵家じゃなくて侯爵家からもらうんだってさ。
「ふんっ、僕より身分が低いなら愚民だな」
「愚かなことを言うものではない、息子よ。アルベリーニ侯爵は我が国の宰相。侯爵家は代々優秀な人材を輩出しておる」
「だけど父上、僕が結婚する相手は女だろ? 女ってのは全員愚かに生まれているのさ」
「はぁ」
父上のため息は、感嘆のため息ってやつかな? 優秀な息子に参っちゃった?
だけどこの婚約者のレ……なんだっけ、とにかく侯爵令嬢ってのが気に食わない奴なんだ。口癖は、
「殿下、お言葉ですが――」
いちいちうるさーい! 僕は生まれながらに特別なんだ! 臣民の分際で、しかも女のくせに口をはさむな!
さらに気に入らないことには僕の教育係までが、
「殿下、それはレティシア様のおっしゃることが正しゅうございます」
などと言い出したこと。
なぜだ!? そもそも出自が尊い僕を侯爵令嬢ごときと比べるのか!? もはや理解できぃぃぃん!
だいったいあの女、いっつもお高く止まりやがって、婚約者だってのにお前からは一切愛って奴を感じないんだよ!
「殿下、わたくしは殿下との婚約は国家との婚約だと考えております。私と殿下は共に手をたずさえて王国民のために働く身。協力して国を良くして行きましょう」
だとぉ!? 小難しい言葉を並べやがって! 意味が分からん!!
そんなストレスフルな日々に、僕は愛らしいピア嬢と出会った。彼女はレ何とかっていう僕の婚約者とは全てが違っていた。
まず若くてかわいらしい。これ大事!
「しかし殿下」
小うるさい侍従が口をはさむ。普通、侍従って黙って付き従うものだろう?
「殿下、女性が若く愛らしく見えるのは数年間だけでございますぞ。手前の女房も十六で嫁いで来たときは右も左も分からぬ守ってやりたくなる少女でしたが、三年も経てば亭主をどやす鬼嫁に進化しましたからな」
お前の自分語りは聞いていない!
「ピアをお前の鬼嫁と一緒にするな。彼女は僕に一切口答えしない。絶対に『お言葉ですが』とは言わないのさ。つねに『そうよ!』って肯定してくれる」
「そりゃあ殿下、彼女の頭蓋骨の中は空洞なんでございましょう」
侍従が難しいことを言いやがった。腹が立つ。僕は生物学が嫌いだ。
そしてついに念願が叶い、僕はピア嬢と婚約したのだ! 両親も教育係も色々言っていたが、よく分からない。彼らが僕の決断に反対するのはいつものことだから気にしなかった。
しかしピア嬢が王宮に住むようになると、母上が彼女をいじめだした。
「殿下ぁぁぁ! またお義母様にお小言いただきましたぁ」
泣きながら僕の部屋に駆け込んでくる。
「母上! なぜ彼女にきつく当たるのですか?」
僕の抗議に母はため息をついた。僕の周りの人間は一日三回はため息をつくから、これもいつものこと。
「彼女は将来王妃になるのよ? 王妃はグランヴァルト帝国から訪れる要人を接待することも仕事です。にも関わらずピア嬢はグランヴァルト語すら話せない……」
「ピアは毎日勉強しているじゃないか!」
「とてもそうとは思えないわね。グランヴァルト語とタルタニア語は発音が少し違うだけで文法は一緒。単語も共通しているものが多いわ。なのに全く進歩がないなんて――」
僕はかわいそうなピア嬢にジュエリーをプレゼントしてなぐさめた。
王宮での生活に苦しむピア嬢を元気にするため、僕はほとんど毎日のように宝石商や仕立屋を呼びつけていた。
「殿下ぁ、あさっての夜会に着るドレスがないのぉ……」
ピア嬢のクローゼットにはずらぁぁぁぁっときらびやかなドレスが並んでいる。
「これは先週着たでしょ、こっちは先月」
彼女は一着一着指さして説明してくれた。どのドレスをいつ着たか覚えているなんて、僕のピアは天才だな!
「先月着たドレスをもう一度着たら?」
僕の提案に、
「嫌よぉぉぉ、一度着たドレスは二度と着ないのっ! 一度付けた宝石も二度と付けないのよっ!」
服や宝石に関しては、ピアは「そうよ!」とは言わなかった。まあ女性のお洒落なんて僕には分からないしな。
「でもピア、ほぼ毎日夜会に出てるのに? 今後もこの生活が続くのに? 毎回新しいドレスを仕立てるのかい?」
「そうよ! だってアタクシ、王太子妃だもん!」
「わ、分かったよ…… こっそり王家のツケで買うから……」
僕の決意を大蔵卿に告げると、彼は慌てた。
「な、なりません、殿下! もはや王家の財政は火の車でございます!」
「それなら民からもっと税金をしぼりとればいいだろ?」
「そんなことをしたらただでさえ困窮している王国民はさらに貧しくなり、暴動が起こります!」
「難しい言葉を使うな! 愚民は僕たちのために生きているんだろ!?」
一発、鼻面を殴ると小うるさいのはおとなしくなった。
「なにが愚民だ、この愚王子めぇぇぇっ!」
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