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72.「バブルガムとデート【前編】」

本編末にバブルガムのビジュを含んだ設定資料的なものがあります。(1話の前に載せてるのと同じです)

見たくない方は注意をば。


 【辰守晴人】

 

──目を閉じれば、いつもフーの顔が浮かんでくる。


 何処で何をしていても、気がつけばフーの事を考えている。誰かを好きになるってきっとそういう事だ。


 しかし、今目を閉じて浮かんでくる顔は一つではなかった。

 

──フーとスカーレット、二人の顔が頭に浮かんでくるのだ。




* * *



──もう今日は来ないのかと思い始めた頃、分厚い地下牢の扉がけたたましい音を立てた。

 

 今まで誰も彼女にノックの力加減を教えてやらなかったのだろうか。


「むはぁ、おっはようたっつんー! 待ったー?」


「おはようございます。結構待ちましたね、なにせ待ち合わせから二時間経ってますから」


 昨日のスカーレットに続き、今日もレイヴンの魔女とデートする訳だが、本日の相手はバブルガムだ。


 俺を勘違いで拉致監禁し、牢獄生活を送る事になった元凶と言ってもいい女。そんな奴とデートするなんて考えただけでも気が重い。しかも遅刻してくるし。


 しかし、バブルガムには以前から聞きたいことがあったのだ。その点においては今回のデートは暁光だったとも言える。


「むはぁ、細かい事気にしてたら女の子にモテねーぞ! それに私ちゃんだって、ただ寝坊してきた訳じゃねーんだからな!」


「といいますと?」


「むっふっふぅ、今日のスペシャルなデートプランを立ててたんだよー!」


「なるほど、聞いてもいいですか?」


「むははぁ、よかろう! まず午前八時からスペシャルモーニングを食べて、その後九時まで腹ごなしに島を軽く散歩。その後は昼まで私ちゃんの部屋で映画鑑賞! 午前中はざっとこんな感じだ!」


 思いのほか考えることは考えていたらしい。昨日のスカーレットはノープランだったからな。まあそれが功を奏した訳だが。


「ちなみに今すでに十時過ぎてますけど、どうやってスケジュール調整するんですか?」


「むはぁ、過ぎてる分は飛ばせばいいじゃん。ってことで、早速私ちゃんの部屋で映画鑑賞だー!」


「スペシャルなデートプランどこいった」


 つまりデートプランなんて立てようが立てまいが、結局のところ大事なのは相手だということか。


「むふぅ、だから細けーこと言ってんなよー! ほら、鍵開けてやったからさっさと出ろ!」


「……ほう。なるほど」


 扉を開けると、シャツの上にグレーのカーディガンを羽織ったバブルガムが立っていた。


 そういえばデートは学生服縛りになったんだったか。すっかり忘れていた。


 少しダボついた大きめのカーディガンが、ラフな雰囲気のバブルガムによく似合っている。


「むふぅ、なるほどって何だよー。他に何か言うことねーわけ?」


「これはすみません。不本意ながらよく似合ってますよ」


「むっはぁ、だろぅー? けど触っちゃダメだからな? 私ちゃんがよしと言うまではお預けだ!」


「よしと言われても触りませんよ別に」


 不本意ながらの部分は華麗にスルーされた。どうやら都合の良いことしか聞こえないタイプらしい。




* * *


 


「そもそも、バブルガムは俺のこと殺す派なんですか? 殺さない派ですか?」


 城へ続く林道を歩いているている時に、何気なくそんな疑問が頭を過った。話し合いの時は訳の分からない事を言っていたけど、あれが本心とは思えないし。


「むはぁ、私ちゃんはおめーをペットにしたい派だけどー?」


「真面目に聞いてるんですけど」

 

「真面目に答えてんだけどー?」


 この調子である。これでは肝心の俺が聞きたい事にも、まともに答えてくれないかもしれない。どうにかしてご機嫌をとるか。


「今日は何かして欲しい事とかありますか? せっかくのデートですから俺に出来る事ならやらせてもらいますけど」


「むっはぁ! 殊勝な心がけだなー! じゃあそこでちょっと屈んでみー?」


「……こうですか?」


 俺は言われたとおりにその場で屈んだ。いったい何が始まるのやら。


「むふふぅ、そいッ!!」


「……おっふぅ!?」


 バブルガムが俺の後ろに回り込んだと思えば、いきなり背中に抱きついてきた。いや、抱きついてきたというか、ビッタリと張り付いてきた。


 俺の首に両腕を回し、腰には両脚が絡み付いてきている。


「むはぁ、いい乗り心地だぞ! くるしゅうなーい!」


「きゅ、急に何のつもりですか!?」


「むふぅ、私ちゃんは実はかなりのおんぶ好きなんだけどー、いい歳だから自重してたのに最近それがバレちったんだよー!」


「……で?」


「むはぁ、だからこれからは開き直って堂々とおんぶされていこーと決めたわけだ!」


 なんだろう、言ってる事は角を隠す事をやめたスカーレットに近い気がするのに、クソほどどうでもいいし、かなり迷惑だ。


……しかしこれも機嫌をとるため、取り敢えず言う通りに従っておこう。


 それにしても、背中に感じる圧倒的な存在感はやはりアレなのだろうか。小柄な割には大きい気がする。着痩せするタイプか?


「これ、どこまで行けばいいんですか?」


「むはぁ、私ちゃんの部屋までだなー!」

 

 背中のバブルガムが脚をパタパタさせた。


 俺の手は今バブルガムの太ももを支えているわけだが、脚が動くたびにタイツの艶かしい感触が手に伝わってくる。


 はて、おんぶってこんないけない気分になるもんだっただろうか。





* * *




 地下牢を出てから三十分、俺達はようやくバブルガムの部屋に到着した。


 バブルガムをおぶっているうえに、途中でバンブルビーやラテに絡まれたせいでよけいに時間を食ったのだ。


「むはぁ、ここが私ちゃんの部屋だよー! 下ろしてよーし!」


 バブルガムの私室はイースやスカーレットと同じ四階で、二人の部屋とは真反対の西側、一番奥の部屋だった。


「……はぁ、やっと着いたか。あー重かった」


「……お前、今何つった?」

 

「何も言ってませんよ?」


 唐突なドスの効いた声に、脊髄反射で嘘をついてしまった。怒ると普通に怖いのかよ。


「むはぁ、次はねーからな。んじゃ、早速シャワー行くぞー」


「……あの、映画鑑賞するんじゃなかったんですか?」


 バブルガムは言いながら既にカーディガンのボタンを外し始めている。


「むはぁ、そんなに汗かいてんのにゆっくり映画とか見れねーじゃん。先にシャワーしてやるから」


 確かに三十分も人をおぶって歩き回ったせいで、かなり汗をかいている。しかし、バブルガムまで服を脱ぐ必要はなくないか?


「してやるって、一人で入れますよ」


「むはぁ、ペットのシャワーもご主人様の楽しみの一つなんだよー!」


「なぜ既に俺がペットに!? ていうか脱ぐのやめて下さい!!」


 バブルガムは既にカーディガンを脱いで、スカートに手を掛け始めている。


「むふぅ、脱がなきゃ濡れちゃうじゃん! たっつんも早く脱いで洗濯機に服突っ込んどけよなー! 乾燥するまで時間かかんだからー」


「あ、洗った服が乾くまでシャワーするつもりなんですか!?」


「むふぅ、スピードコースだから大した時間じゃねーし、つーかこれ以上うだうだ言うなら殺すけど?」

  

 『殺すけど』の部分に割と本気マジの殺気が篭っていた。こんな短期じゃペットなんて飼えないだろ。


「……せめて、腰にタオルを巻かせて下さい──あと、前は自分で洗いますからね」


「むはぁ、仕方ねーな。それでいーよー」


 バブルガムは不承不承ながら納得してくれたようだ。背中を流されるだけでもとてつもない心労なんだから、これでも譲歩した方だけどな。


 それにしても、地下牢といいこの部屋といい、風呂が付いているなんてまるでホテルみたいだ。


 イースやスカーレットの部屋にはそれらしきものは無かった気がするけど、角部屋は特別待遇ってことか?


「たっつんほら、早く服脱ぎなよ。風邪ひくじゃん」


 俺が風呂に気を取られていると、タイツを脱衣所の洗濯槽に放り込んだバブルガムが俺のズボンのベルトを外し始めた。


「じ、自分で脱げますから、先に入って待ってて下さい!」


 慌ててバブルガムを風呂場へ押し込むと、中からシャワーを流す音が聞こえてきた。


 俺は急いで服を脱いで、タオルを腰に装着した。なんだかイケナイお店にきたような雰囲気になってきたけど、実際はただのペットの水浴び。気持ちを落ち着けていこう。


「むはぁ、バスタブん中にお入りー。まずは頭からシャンプーしましょうねー」


 風呂場には眩しい姿のバブルガム。身長は龍奈とそう変わらないくらいなのに、出るところは出ていらっしゃる。


 真っ白な肌に黒い下着というのも、実に趣きがあるというかなんというか──端的に言うとえっちである。


 俺はえっちな格好のバブルガムに促されるまま、お湯の溜まっていないバスタブに正座した。


「むはぁ、何で正座?」


「……他の姿勢だとガードがゆるくなる気がしまして」


 いくらタオルを巻いているとはいえ、タオルの防御力なんて高が知れているからな。


「むはぁ、なるほどねー。お湯かけるよー」

 

 顔にお湯がかからないように、片手を俺の頭に添えながら丁寧にシャワーが当てられる。


 ここに来て初めて目覚めた時は、バブルガムに髪の毛引っ掴まれていた記憶があるけど、とても同一人物とは思えない。


「むふふ、たっつんには特別に私ちゃんのお気に入りシャンプーを使ってやろう! 高くて経費で落ちねーから、自腹で買ってるやつなんだぞ?」

 

 そう言ってバブルガムガムがシャンプーを泡立てて、俺の頭を包み込むように洗い始めた。


 色々めちゃくちゃなところはあるけど、贔屓ひいきにしているシャンプーがあったりと、なんだかんだでバブルガムも女の子なんだな。


 それにしてもこのシャンプー、すごくいい香りなのだが、かなり嗅ぎ覚えがある。というか、昨日もこれを使った記憶がある。地下牢で。


 イースのやつ、バブルガムからくすねてやがったな──

 



* * *


以下、バブルガムさんのビジュを含んだ設定資料的なものです



○借金の魔女こと紫雷の魔女 バブルガム・クロンダイクさん


挿絵(By みてみん)





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