番外編「ゆく年とくる年」
【ヴィヴィアン・ハーツ】
「――はあ、困ったことになったのう……」
白昼の賑わいも失せ、伽藍とした事務所に、高貴さと可憐さを足して二で割らなかったような声が宙に舞った。
無論、此方の声である。
「……ヴィヴィ。どうかしたのか」
それに応えるは、悲壮さと悲惨さと疲労感と疲弊を足して四で割らなかったような、聞くだけでこちらの気が滅入ってくるような声。
無論、バンビの声である。
「どうもこうもない、問題山積みじゃ」
「どうせしょうもない事だろ。気が滅入ってくるから、でかいため息吐くんじゃねえよ」
「バンビにだけは言われたくないんじゃが……」
バンビはいつものように煙草を蒸しながら、何やら新聞を睨みつけている。
おそらく新聞に載っている間違い探しをしているのであろう。煙草以外に趣味の無い奴かと思っていたが、存外可愛らしい所もあるのだ。
以前、トマトジュースを買いに行かせている隙に、間違い探しの欄に赤丸で全部チェックを入れてやったら、煙草を眉間に押し付けられたのもいい思い出である。
「で、一応聞いといてやるが……何の問題なんだ?」
「うむ、聞いて驚くがよい……かねてより年末年始の番外編を執筆する予定じゃったんじゃが、思いの外本編の更新が遅れてのう、本編まだ十一月の頭らへんなんじゃよな」
「……?」
「つまり、年末年始の番外編を書いたら二ヶ月ほど未来の話を書くことになる故、いろいろとややこしいのじゃ」
「……お前、いったい何の話をしてるんだ?」
「そもそも、一日一話きっちり更新しておればよい塩梅に本編も年末らへんになっておった筈なのじゃ……寿司猫め、怠慢じゃのう」
「……」
此方の真摯な悩み相談に、返事が聞こえないのでバンビの方を見やると、なんと再び新聞と睨めっこを決め込んでいるではないか。
「おい、此方を無視するでない!」
「……はぁ、さっきから何言ってるか全く分からんが、結局何をどうして欲しいんだよ」
「……それじゃ、それが問題なんじゃ。番外編ではVCUの社畜どもがワイワイしたり、辰守晴人がラッキースケベしたりする予定だったんじゃが、何故か此方に白羽の矢が立ってしもうたからのう。正直ネタがない」
「辰守晴人って誰だよ」
「年末年始のイベントとか何すればいいんじゃっ!! 全然分からんわ!!」
「……なにこの子怖い。よく分からんが普通は年賀状書いたりするもんじゃないのか?」
「……年賀状? 捻りも糞もない最低につまらん案じゃな。そんなん誰でも思いつく……熱うぅぅっ!?」
「……なんか言ったか?」
「……言っておらん、年賀状最高! 年賀状最っ高じゃの!! そうと決まれば早速着付けじゃ! 髪も豪華に巻いてやるわ! バンビがの!」
「俺がすんのかよ」
「此方着付けはともかく髪とかいじれんし、高貴な感じにやっとくれ」
「……そもそも年賀状書くのに必要なのかそれは」
「年賀状を宇宙一可愛い此方のブロマイド仕様にするのじゃ! こんなサービス滅多にしないんじゃからね!」
「……終始意味わからんが、それで満足してくれるならさっさとやるぞ。俺はゆっくり新聞読みたいんだよ」
――かくして、此度の番外編は超絶可愛い此方の年賀状企画で決定したのである。
髪のセットに何回か文句つけたら、ヘアアイロンで顔面焼かれたりもしたが、読者諸君の喜ぶ顔を思えば安いもんじゃ!
今年も贋物眷属と亡失魔女をよろしく頼むのじゃ!
読者諸君の今年一年に幸があらんことを、此方は切に願っておるのじゃ!
では、ハッピーニューイヤーなのじゃ!!




