300.「あの日と真実②」
今回は300話ということで最後の方にオマケイラストが1枚ございます。
300話記念とは全く関係ない内容ですが(そこは関係あれよ)見たくない方は気をつけてくださいませ。
ちなみに当初はちゃんと『祝!300話記念! これからもよろしくお願いします!』みたいな感じのイラストを描こうと思ってたんですけど、(誰を描けば? 主人公2人?、それとも集合絵……は私が無理だわしんどすぎ)
みたいな感じになって、結局間に挟もうと思ってたけどタイミングなくてボツにしたお話をイラストにしました。
内容は龍奈奪還後直ぐの話で、タワマンに住んでる龍奈、セイラム、イー・ルーの3人はどうしてるの? ちゃんと服とかあるの? 果たして仲良く暮らせるの?という話です。
300記念イラストちゃんとやれよ!!という方がもしいらしたら言ってくださいませ。ついでに内容も決めてくれるとありがたいでございますm(_ _)m
【辰守 晴人】
──レイチェル・ポーカーが鴉を抜けた日。俺達は再びあの日の過去上映を体験していた。
当たり前だが、ついさっき見た光景と全く同じものが目の前で繰り広げられる。
レイチェルは早朝からバンブルビーと魔獣の森へ出かけ、城へ帰るとアイビスの姿を探す。
ローズとマゼンタからルクラブ達の話を聞いてリビラの部屋へ向かい……そして事件は起きる──
「──レイチェル姉様の両親を殺したのは、アイビス姉様だみょん」
動転したレイチェルがタリアを殴ろうとして、ルクラブがそれを止める形でそう言った。
きっとレイチェルが知りたかった事……いや、知りたくなかった事だ。
「…………なんだそれ」
レイチェルは締め上げていたタリアを放り捨てて部屋を出ていった。
「むはぁ、ところどころスキップしてきたけど前回とまるっきり同じだなー」
2回目とはいえやはり深刻な顔で過去を見守っていたバンブルビー……とは対照的に、バブルガムは退屈そうに呟いた。
「さっき俺達はここでレイチェルの後を追いかけました。今回はここに残ってルクラブ達の方を見てみましょう」
別に確信があった訳でも何でもない。ただ、ほんの少し違和感を感じてしまっただけ。違和感が助長した考察、それは口に出しすのもおこがましくなるようなもので、だからこそ俺はキチンと確認して否定したかったのかもしれない。
──だが、最悪の考察を否定することはできなかった。
「……レイチェルは行ったか?」
「真っ直ぐアイビスの部屋に向かったみょん……てか、タリア思いっきり殴られてて笑いそうになったみょん♩」
「笑い事じゃないんだよ……奥歯が吹っ飛んだんだぞ、クッソ……」
「うーん、途中でボッキリ折れてますね。これは私の回復魔法では治せないです。レイチェルお姉様ったら容赦ないんだから」
「はん、何がレイチェルお姉様よ。いい加減このくだらない演技もウンザリだわ」
「フッ、演技と言えばこの私の演技はなかなかだっただろう。間違いなく私がナンバーワン……」
「ちょっとトーラスなーに言ってるみょん! 明らかにあーしの演技がピカイチだったみょん!?」
「ふざけるな私だ! 歯を吹っ飛ばされたんだぞこっちは!!」
──レイチェルが部屋を立ち去るなり、残されたルクラブ達は一斉に騒ぎ始めた。
それは空気が変わったとか、そんな生易しい表現では不釣り合いなほどの豹変ぶりだった。
そして、その会話の内容は俺が抱いていた微かな予感にくっきりと輪郭を描きつつあった。
「ほらほら、そんなに睨みつけても歯は元に戻らないんですからさっさと城門前に行きますよ。計画通りにしないとエリスが怒っちゃいますから」
リサは普段と変わらない穏やかな物ごしでそう言った。あまりにも自然体なもんだから、エリスの名前が出たことに戦慄が走るのが一瞬遅れた。
困惑する頭を落ち着かせる暇もなく、不穏な会話は続く。
「そうだみょん〜あーしら100年もここに閉じ込められてたんだから、後半から参加した組は下手こかないでほしいみょん〜」
「……それは私のセリフなのよ。ルクラブもタリアも、前半組のアンタ達こそ土壇場で情が移ったとか言いださないか心配なのよ」
「なに、私が本懐を忘れたとでも言うのか! 取り消せカペル!」
「はいはい姉妹で喧嘩はやめるみょん。心配しなくてもレイチェルに情なんてこれっぽっちも湧いてないみょん」
「……分かったのよ。疑って悪かったのよ」
「よーし、んじゃ今度こそ皆で城門前にレッツゴーだみょん〜♫」
「ちっ、また殴られに行くのか……クソ」
「そういう手筈だから仕方ないみょん〜」
400年前ジューダスに惨殺されたというメンバーがぞろぞろと部屋を出て行く。目の前で起きた事は半分も飲み込めていないが、それでも確かなことがある。
「──あとちょっとだみょん。あとちょっと我慢したら、ようやくレイチェルを殺せるみょん」
それは、ルクラブ達が紛れもなく裏切りの算段を立てているという事だ──
* * *
「……どういうことなんだ、何でルクラブ達がレイチェルを」
「むはぁ、裏切りものはジューダスだけじゃなかったのか? アイツら舐めやがって……ぶっ殺してやる」
「バビーや、もう死んどるから」
ルクラブ達の後を追いながら、俺達は予想だにしていなかった事実に困惑していた。そして、当然それはいくら話し合っても解明できるような謎ではなかった。
ルクラブ達は城門へ向かう道すがらに出くわしたローズやマゼンタに『大変だみょん、レイチェル姉様とアイビス姉様が喧嘩してるみょん!』などと言って城門前に誘導した。
その騒ぎを聞きつけたバブルガムやホアンさんも、すぐに合流した。
そして、程なくしてレイチェルが城門前にやってきた。
連れてこられた魔女も、レイチェルも、おそらく本当の意味で何が起こっているのか理解はしていなかった。理解していたのは、ルクラブ達だけだ──
レイチェルは集まった魔女を蹴散らすと、城を飛び出して行った。そのすぐ後に、過去のバンブルビーとエリスが城門前にやってくる。
バンブルビーはエリスの制止をふりきってレイチェルを追った。さっきは俺達も過去のバンブルビーに着いて言ったが、今回はエリス達の様子を見ることにした。
現場にはローズとマゼンタとわーわー泣くバブルガムにホアンさん、そしてエリスとルクラブ達が居る。
「オイ、ルクラブ。いったい何があったかちゃんと説明するヨ」
過去のホアンさんが折られた魔剣を握りしめながらそう言った。
「あ、あーし達もよく分からないみょん……レイチェル姉様とお酒飲んでたら、急にアイビス姉様に会いに行くって出ていって……帰ってこないから様子を見に行ったら部屋の中で喧嘩してるのが聴こえて来たんだみょん」
「扉越しにレイチェルお姉様が城を出ていくという話が聴こえたので、私たち慌ててバブルガムお姉様やホアンお姉様に声を掛けたんです……けど、喧嘩の原因はまったく──」
ルクラブとリサの言葉を誰も疑わなかった。嘘だと分かっている俺すらも信じてしまいそうになるような、心に迫る演技だったのだ。
「……レイチェル、ちゃんと帰ってくるわよね。バンブルビーが追いかけたんだし、大丈夫よね?」
不安げに、まるで自身に言い聞かせるようにローズがそう言った。
「あーしは、正直言って心配だみょん……お願いエリス姉様、2人を追いかけて連れ戻して欲しいみょん!」
ルクラブ達は口を揃えてエリスに2人の後を追うように懇願した。だから、エリスが2人を追って城を出るのはごく自然に見えた。
「……殺すつもりじゃな」
城門を駆け抜けたエリスと、それを見送るルクラブ達を見て、ヴィヴィアンさんが呟いた──
誰が言うでもなく、過去上映はエリスの後を追う事になった。街へ続くという夜の街道を掛ける。意識体だからか肉体的な疲労は感じないけど、それでも妙に身体が重いように感じてならなかった。
しばらく走って、エリスが脚を止めた。彼女の目の前には、過去のバンブルビーが意識を失って倒れていた。
(……レイチェルにやられた後だな)
エリスは離れた位置から数秒ほどバンブルビーの様子を観察すると、ゆっくりと近付いた。
「……お前ならレイチェルを連れ帰るんじゃないかとヒヤヒヤしたが、まさか足止めにもならんとはな」
エリスは静かにそう言って、バンブルビーを見下ろした。
「……お前のことは嫌いではなかった」
エリスの右手が、腰に挿していた魔剣の柄に伸びた。そして、ゆっくりと刀身が抜き放たれる。
「嫌いではなかったが、面倒なやつだった。四六時中レイチェルに付きまとって、じれったいやら煩わしいやら……」
エリスは抜き放った魔剣を掲げて、刀身をゆっくりと指でなぞった。爪が刀身を滑る鋭利な音に、鳥肌が立ちそうになる。
「恨め。自分自身を……お前がレイチェルをものにしていれば、こうはならなかったかもしれんぞ」
エリスの眼がギョロりとバンブルビーに向けられて、魔剣を掴む手に力が入るのがわかった。
数瞬後に起こる出来事が恐ろしくて、俺は思わず飛び出した。
「ッやめろおぉぉ!!」
目の前で起こっているのは過去上映で、今ここに居る俺はただの意識体……テレビの画面に話しかけても無意味なように、俺の言葉にはなんの意味もなかった。
──だが、エリスはピタリと止まった。剣呑な空気をさっとしまい込んで、魔剣を握る手を弛緩させたのだ。
(……え、なんで……まさか俺の声が聴こえて──)
「──エリス。そこで何を?」
俺の困惑は、一陣の風と共に吹き込んだ声によってかき消された。
声の主は、ジューダスだった──
【以下 1ページオマケマンガ】
『3人とまな板』




