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282.「調べものと面白い話」


【辰守 晴人】


『──四大魔女を連れて来い。少なくとも3人……それで貴様の知りたい過去はある程度分かるであろうよ』


 ジューダス・メモリーによる裏切り。12羽の鴉が命を散らすに至った事件の真相に迫るために西王母が出した条件は、非常に困難なものだった。


 何故ならば、四大魔女の内1人は裏切りによって死に、1人はその裏切りの張本人……今や魔女狩りに身をやつしている仇敵(きゅうてき)なのだ。


 つまり、西王母さんの言っていることは、アビスとヴィヴィアン・ハーツ、そしてジューダス・メモリー

を3人まとめて連れて来いということだ。


(……俺でもわかる。そんな事できっこない。絶対に)


「……2人だ。2人で何とかしろ。他の出演者(キャスト)は出来るだけ集めるから」


 バンブルビーは当然俺以上に西王母さんの言っている事の無謀さを分かっている。そして、事件の真相に迫る意思も、俺なんかとは比べ物にならない。


「妥協は許さん。四大魔女をきっちり3人集めてくるまでは本座は協力せんぞ」


「……ジューダスをここに連れてこいって? そんなの無理に決まってるだろ。よしんば出来たとして、崑崙山が真っ二つになるぞ」


「本座別に天下一剣を連れて来いとは限定しとらんじゃろ。四大魔女のうち3人と言うたんじゃから、天下一剣(ジューダス)が無理ならそれ以外を連れて来い。アホのヘイフォンめ」


──ギリッ、と。バンブルビーの口から歯が軋むような音が聞こえた。途端に肌がピリつくような魔力が溢れ出して……そして、収まった。


「……四大魔女は今、3人しか居ないんだよ。レイチェルは、もう死んだんだ」


「……なんじゃと?」


「あの、ジューダス・メモリーの手にかかって亡くなったって……ご存知なかったんですか?」


「知ってる筈だけど忘れてるんだよ。こいつバカだから」


「なにぃ!? 失礼なやつじゃなぁ!! 天下一剣の乱心騒ぎならちゃんと覚えとるわ! 本座はただ桃花(タオファ)が死んだという与太話を()に受けておらんだけじゃし!!」


「……与太話じゃねぇよ。あいつは死んだんだ」


「ほう。そこまで言うなら聞くが、その目で確認したのか? タオファの死体を見たのか?」


「……死体は、切り刻まれてバラバラだったんだよ。誰が誰かなんて、判別はつかなかったってヴィヴィアンが……」


「はん! それじゃから貴様はハイパーアホなんじゃ。あのタオファがそうそう死ぬタマか……さっさと探して連れて来い。本座はそれまでゆるりとここでお酒呑んじゃうんじゃからね!」


 ジャージ姿の西王母さんは、酒の壺に抱きついて俺達を追い払うようにシッ、シッ、と手を振った。


 バンブルビーはほんの少しだけ何か考え込んだように立ち尽くすと、すぐに「また来る」と言って踵を返した。


「……あの、大丈夫ですか。バンブルビー」


「……うん。一度城に戻ろうか。調べなきゃいけないことが出来ちゃった」


「分かりました。お供します」




* * *




──2日ぶりに城へ帰った俺達は、早速“調べもの”に取り掛かろうとした。いや、取り掛かろうとしたのだが、その前にちょっとした事件が起きた。


「──甘えてもいいんだよね」


「ま、任せてください」


「……じゃあ、苦しいから服……脱がせて欲しいな」


 バンブルビーと2人で城門を通り、城の中へ入るなり目の前に飛び込んで来た光景は明らかに異常だった。


 何故なエントランスホールのど真ん中にベッドが置かれており、しかもそのベッドの上にブラッシュとラミー様が居た。


 そしてまるでそれを鑑賞でもするかのように、目の前にズラリと椅子を並べて腰掛けるイースやスカーレット達……。


 パッと見た視覚から得られる情報だけで既に混乱必死だったが、同時に飛び込んで来た聴覚情報がさらにそれに拍車をかけた。


 とてつもなく嫌な既視感(デジャブ)……ついさっき、崑崙宮で西王母さんの仙術で感じたのと同じものだった。


(……今ブラッシュとラミー様が言ってたセリフって、まさか……)


「──なんですって」


「……聴こえてたよね」


 何かの間違いだと思いたい俺をよそに、ベッドの上で2人は会話を続けた。俺とバンブルビーが、先日ベッド上で交わしたのと、まるっきり同じ会話を──


「──な、なに……してるの……」


 目眩(めまい)がしそうな光景を前に立ち尽くしていると、隣のバンブルビーがぽつりとそう言った。見ると、顔が真っ青である。


 そしてバンブルビーの声に反応して、エントランスホールの皆が一斉に俺たちの方へ振り返った。勢いがすごい。


「……な、バンブルビー……てめぇ、何してるは俺様のセリフなんだよぉ〜!!」


「……は、晴人……違うわよね? さすがに昨日の今日でこんなにすぐ他の女に……しかもバンブルビーに……違うんだよね? ね!?」


「むはぁ、私ちゃんも今度言ってみよっかな……甘えていいんだよね……だっけぇ?」


 イース、スカーレット、バブルガム……椅子に座っていた3人は立ち上がって、そう言った。どういうわけかは分からないが、どういう事が起こったかは分かる。


(……昨日のアレがバレてる……なんで)


 俺たちを見つめる3人の視線……沈黙が苦しい。何か、何か言わないと……けど、何を言えば……くそ──


「──ぼ、房中術という……修行の一環だったんです……」


「……ほう、修行かぁ」


 考えうる限り1番クソみたいな言い訳が口をついて出てしまった訳だが、イースは穏やかな反応を見せた。これは……案外乗り切れるのでは……。


「修行だったなら仕方ねぇなぁ。俺様ぁてっきり舐められてんのかと思ったぜぇ……なぁ晴人?」

 

「……ッ!?」


 イースが目の前までやってきて俺の肩を掴んだ。物凄い力だった。恐る恐る顔を見ると、目が「捕まえた」と言っているように見えた。


 直後、イースが肩を掴んでいない方の右手を振りかぶった。ものすごい勢いで拳が顔面に迫る──


 俺は衝撃に備えて歯を食いばったが、イースの拳は俺にぶち当たる前に、バンブルビーによって掴み止められた。


(……バンブルビー……! これは、折檻(せっかん)回避ルート突入か!?)


「てめぇ離せバンブルビー! よくも、俺様だってまだなのにっ……」


「ごめん、ほんとごめん……状況を、説明して欲しいんだけど……とりあえず晴人君を殴るはその後にして」


(だよな。やっぱり殴られるんだよなこれ)


 イースは食いしばった歯の間から蒼い炎を漏らしながら大きく深呼吸すると、バンブルビーの腕を振り払って椅子に戻った。


「──ぷぷぷ。すこぶる機嫌の良いトカゲ共に変わって、この私が説明役を買ってでてやろう。まあ座れバンブルビー」


 イースもスカーレットもジトっとした目で俺とバンブルビーを睨めつけるばかりだったが、意外なことに普段なら絶対にこの手の話題に絡んでこないラミー様がそう言った。


 ラミー様はベッドから降りると、オレたちの方へ歩きながら椅子を1つバンブルビーに放り投げた。


 バンブルビーはキャッチした椅子に腰掛け、俺はラミー様に「おすわり」と言われたので、その場に四つん這いになってラミー様の椅子になった。


 背中にふんわりとした暖かみを感じるが、イースやスカーレットの方からは冷ややかな視線を感じる。つらい。


「……さて、では話すとするか。そうだな、あれは昨日のことだ──」




* * *




【ライラック・ジンラミーもといラミー】


──朝の心地よい目覚め。酒カス女の作った朝食を食べ、私はライラックの書庫(へや)で読書に(ふけ)っていた。本を1冊読み終える頃に、ちょうどフーが出先から帰ってきた。


「おはようラミー。今日もここで本を読んでもいい?」


「好きにしろ。お前に限ってここを使うのに許可はいらん……駄犬との用事は済んだのか?」


「うん。皆に新年の挨拶を済ませて帰ってきたところだよ。ハレはバンブルビーの補佐官の仕事があるからってもう行っちゃったの」


「そうか。それで飼い犬のことは放っておいてここへ来たのだな。懸命だ。少し待っていろ、赤トカゲにクッキーと紅茶でも用意させよう」


 しばらくフーと2人でゆるやかな時を過ごした。フーは以前教えてやった英語を頼りに本を読み、分からない単語があったりすると逐一聞いてくるのでその度に教えてやった。実に愛らしい奴である。



──コン、コン、コン。



 どれくらい経っただろうか、不意に無粋なノックの音が部屋に転がり込んだ。


「……誰だ。紅茶ならもう要らんぞ」


「私よ。少し話があるの。部屋に入ってもいいかしら?」


「入るな妊娠する」


 声の主はブラッシュだった。フーに悪影響なので絶対にこの部屋には入れん。いや、それでなくとも入れてたまるか。


「……ふふ、つれないのね。とっても面白い話があるから私だけで独占するのもどうかと思って来たのだけれど……まあ、1人で楽しむとするわ。じゃあね」


 扉の奥で、ブラッシュが踵を返すのが分かった。この色魔が言う“面白い話”など、ろくでもない内容である事は容易に想像出来るが……妙に気になってしまった。


「……待て。本もちょうど区切りのいい所だ。聞いてやろう」


「あら、それなら失礼するわ」


 ブラッシュは扉を開けて部屋の入口に立った。どうやら中まで入ってくる気はないらしい。

 フーは本を読むのに夢中で、ブラッシュには気づいてもいない。


「で、何の用だ。くだらん話なら承知せんぞ」


「あら怖い……そうね、けどきっと退屈はさせないわ」


 ブラッシュは本を読むフーを一瞥(いちべつ)すると、気を使ったのか小さな声でそう言って手招きした。


「……なんだ」


 読みかけの本に、栞を挟んでソファに置いた。ブラッシュの方へ歩み寄ると、ブラッシュが私の耳に顔を近づける。


「──今ね、辰守君が酔ったバンブルビーをだき抱えて運んでいるところよ」


 それは、なんとも……面白そうな話ではないか──



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― 新着の感想 ―
ま、まずいぞー晴人! バブルガムとスカーレットのノ◯ターン最高でした
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