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247.「予言と証明」


【バンブルビー・セブンブリッジ】



「──実に久しぶりであるなバンブルビー。息災……ではなさそうだが、生きていて何よりだ」


「デイドリーム、お前こんなとこで何してる」


「おやおや、400年経っても相変わらずドライなのだね。もっと吾輩との再会を喜びたまえよ」


 アイアンメイデンの扉を足蹴にして閉じたデイドリームは、拘束ベッドに腰掛けて不敵な笑みを浮かべた。


「──ちょ、バンブルビー! 誰なのこの人、知り合い!? ていうか、侵入者!?」


「……(うち)のOBだよラテ。名前はデイドリーム・フリーセル。400年前、(レイヴン)に残りもせず、かといって魔女協会(セラフ)にも流れなかった放浪者」


「ご紹介に預かり光栄至極……だが、そこはかとなく悪意を感じるのだがね?」


「当たり前だろ。不法侵入してるんだぞお前。さっさと質問に応えろ……何の用だ」


「くっく、もう分かってるクセに〜! アタシが来たんだからもちろん予言の話に決まってるじゃな〜い!」


「キャラ統一しろ」


「──予言っていうのは何のことなのかしら」


 400年経っても相変わらず掴みどころのないデイドリームに若干イラついていると、ブラッシュがデイドリームの隣に腰掛けてそう言った。早速腰に手を回してる……どいつもこいつも。

 

「あら、貴女は七罪源(プレアデス)にいたブラッシュ・ファンタドミノちゃんね〜! 予言っていうはアタシの魔法の事よ〜!」


「へぇ、そんな魔法があるなんて初めて聞いたね。なかなか興味深いじゃないか」


「あ、あの、もしかして貴女、昔テレビとかで星座占いのコーナしてなかった!? ていうかしてたわよね!? 私あのコーナー凄い好きで──」


 あっという間にデイドリームを囲んでラテやヘザー達がやんや やんやと騒ぎ始めた。昔から掴みどころが無いくせにこういう謎の求心力みたいなのがある奴だった。

 そういうところも含めて、こいつの事をあんまり好きじゃなかったんだけど。


「はいはーい! 皆さんと楽しいお話をしたいのは山々ですがぁ、そろそろバンブルビーさんの顔が怖くなって来ましたので、なる早で予言を授けていきますね!」


「何でもいいからさっさと終わらせて帰れ」


「では早速、バンブルビー・セブンブリッジさん! 貴女は今日人生のターニングポイントに差し掛かりました! 谷底から500年ぶりに這い上がるチャンスが巡ってきましたよー! 鍵となるのは不殺卿!……の部下の夕張ヒカリさん! 今日中に彼女に会って仲良くなりましょう! その後は崑崙(こんろん)にて待ち人あり! お酒のお土産を忘れずに持参してください! 以上の事を守らなければ今後の人生ズンドコ! これからもやる事なす事上手く行きませんよー! 以上、デイドリーム・フリーセルでした!」


 拘束ベッドの上で謎の決めポーズをとったデイドリームを、全員が無言で見つめていた。デイドリームは咳払いを一つすると、おずおずとベッドに座り直した。


「こほん、わ、わたしの占いは以上よっ! べ、別に信じるも信じないも、アンタ次第なんだからねっ!!」


「だからキャラ統一しろ」


 デイドリームはいけ好かないやつだ。(レイヴン)に居た頃からろくすっぽまともに仕事をしない、そのくせ周りからは好かれていた。アイビスからの信頼も厚くて、相談役みたいなポジションだった。


 そう、本当にいけすかな奴だけど……こいつの予言には信憑性がある。


「……ありがたい予言をどうも。で、アビスなら入れ違いで出て行ったけど、どうするんだ?」


「アビス?……ああ、アイビスのことであるな。吾輩は今日君に用事があったから3日も前から潜入していたのだよ。君に近しい者たちの未来もある程度見ておかないと、的確なアドバイスは出来ないものでね」


「なんで俺なんだよ。お前になんの得がある」


「風吹けばなんとやら、というやつさ。これから遠くない未来に起こるナニカ……それには君の力が必要なのだよ。さぁ、善は急げだバンブルビー・セブンブリッジ。運命はもう動き出しているぞ」


 デイドリームが指を鳴らすと、手品のように右手にカードが現れた。鴉の団員証……今は魔女協会(セラフ)になっている旧 (レイヴン)城跡地へ繋がる転移魔法式でもある。


 デイドリームが右手に魔力を集中させると、カードが光を帯びた。


「……おい、帰る前に聞きたいことがある。どうやってここに侵入したんだ」


「クックック、なに簡単なことだ。贔屓にしている便利屋に手引きしてもらったのだよ。では諸君ごきげんよう──」


 デイドリームが光とともに姿を消すと、部屋にいた全員の視線がバブルガムに向かった。さっきから気配を殺してゆっくりと部屋から逃げ出そうとしていたバブルガムに。


「……む、むはぁ、結果的にデイドリームにタダで占いしてもらったんだし、私ちゃん寧ろナイスリークじゃんね!?」


「んなわけねーだろ」


 ドアのノブに手を掛けていたバブルガムにかかと落としを食らわせた。こいつ、ほんとに外に出さない方がいいんじゃないのか。


……それにしても、またおかしな話になってきた。俺が腕を失ったタイミングでデイドリームが現れて、あんな事を言うなんて……。


「……夕張ヒカリちゃん、か──」





* * *




【夕張 ヒカリ】


 馬鹿でかい(レイヴン)城の一室、櫻子に割り当てられた部屋にアタシ達は居た。

 今は不安そうな櫻子と2人で隣合って、ベッドに腰掛けてる。


「……まぁ、なんだ……ゆっくりでいいから、話せることから話せよ」

「……うん。ありがとう……ヒカリちゃん」


『ヒカリちゃん』隣の櫻子はそう言った。アタシの家を出たあと、助けを求めて電話を掛けてきた時も確かに『ヒカリちゃん』って言ってたよな……。


 ただ呼び方が違うだけなのに、声色っていうか、言葉では言い表せない違和感みたいなものが、確信を持ってアタシに告げていた。これは“アイツ”じゃなくて“櫻子”だって──


 だからアタシは大急ぎで鈴国のところに行って、“願い事”を一つ使って鴉城(ここ)へ来る方法を聞き出したんだ。


 来て早々、喫茶店で働いてた青髪……あのブラッシュとかいうド変態に捕まって閉じ込められちまったけど、それでも何とか櫻子にはこうして会うことが出来た。


『……ヒカリちゃん。わたし、わたしね……温泉合宿の時から……記憶が無いの』


 再開した櫻子は不安でいっぱいの瞳を潤ませて、泣き出しそうな声でそう言った。


 温泉合宿以降……つまり“アイツ”が現れた時期とちょうど同じだ。


 急に人が変わったみたいに気が強くなって、ヴィヴィアンにヘリックスとかいう監獄の話を聞きに行ったり、鈴国に轟 龍奈って女の事を調べさせたり……今の櫻子が本当に櫻子なら……だったら“アイツ”はどこへ行ったんだ……。


「──目が覚めたら、自分の部屋でね……」


 考え込んでると、隣の櫻子が意を決したように話し始めた。声が少し震えてる。


「……すぐにバブルガムさんが家にやって来て、わたしを(レイヴン)に連れていくんだって……わたし怖くて、ヒカリちゃんに電話したんだけど、バブルガムさんにスマホ壊されちゃって……」


「……あのデコッパチ、クソだな」


「それでね、ここに連れてこられてからようやく自分の記憶が無いって気づいたの……エ、エミリアちゃんの事も……」


 アタシは櫻子の手を握った。エミリアの件はアタシ達全員がまだ受け止めきれていない事だ。

 記憶を失ってただでさえ不安な筈の櫻子は、たった一人でエミリアの事を知ってしまった。


 それがどれだけ孤独で恐ろしい事か……きっと目の前の(レイヴン)に縋っちまうくらい、それくらいいっぱいいっぱいだったんだ。


「……わ、わたし、エミリアちゃんの件に関わってる魔女狩り、見つけたんだけど……殺せなかったの……仇がっ、目の前に居たのに、わたし……」


「バカヤロウ、そんな事する必要ない! 櫻子がそんな事しても、エミリアは浮かばれねぇよ……」


 アタシはぼろぼろ泣き出した櫻子を抱き締めた。悔しかった……こいつを1人にしちまった自分に腹が立った。なんだってアタシはいつも、肝心な時にこいつを守ってやれないんだ──


「……ヒカリちゃんっ、わた、わたしって……何なの……突然、知らないはずの記憶が、見えたりするの……怖いの、自分が、ほんとに自分なのか……もう、わからないよぅ……」


「大丈夫、大丈夫だ……お前は櫻子だ。世界で1番お前のこと愛してるアタシが保証する。アタシが櫻子の証人だ……だからもう泣くな、櫻子」


 櫻子はアタシの肩に顔を埋めてしばらく泣いた後、段々と落ち着きを取り戻していった。しばらくすると、鈍い音が部屋に響いた。音は櫻子の腹から聞こえた。


「……アタシが保証する。その腹の音が櫻子の証明だ」


「ち、違っ、これは朝から何も食べてなかったからで! もう、ヒカリちゃんの意地悪!!」


 恥ずかしそうに顔を真っ赤にした櫻子が、アタシの肩をポカポカ叩いた。まさか腹の音に感謝する日がくるとはな。


──コン、コン、コン。


 不意に扉をノックする音が部屋に響いた。櫻子は慌てて涙を服の袖で拭って、鼻声のまま返事をした。


「あの、フーだよ!……えっと、入ってもいい?」


「もちろん。どうぞ入ってきて」


 扉からひょこりと現れたのは、金髪の魔女だった。


「どうかしたのフーちゃん? ハレくんは?」


 櫻子はこいつと面識があるみたいで、随分と親しげだ。ハレくんってのは……あの辰守とかいう男前の事だよな?


「実はさっきバンブルビーが目を覚ましてね、皆が心配だから手分けして様子を見て回ろうって話になったの! バンブルビーはバブルガム達の所へ行ってて、ハレはイースとスカーレットの所だよ!」


「バンブルビーさん、目を覚ましたんだ!……ほんとによかった……けど、そんなにすぐに出歩いて大丈夫なの? 安静にしておいた方がいいんじゃ……」


「私とハレもそう言ったんだけどね、本人がじっとしてられないって言うから……でも、元気が無いよりいいよね!」


「うん……そうね!」


 櫻子と金髪は随分親しげに笑いあった。なんつーか、金髪は人当たりの良さが滲み出てるつーか、万人に好かれそうな奴だ。きっとそういう要因もあってコミ障の櫻子がこんなに心を開いてるんだろう。


「あー、今一つ会話についていけてないんだけど、別についていけてなくても問題ない系か?」


「あ、ごめんねヒカリちゃん。ちゃんと全部説明するから──」


 櫻子は(レイヴン)に連れてこられてから今まで何があったのか、ゆっくりと話し始めた。エミリアの訃報を知って、復讐のために(レイヴン)に入ったこと、辰守やバンブルビーってやつに協力してもらった事、そのバンブルビーが大怪我をして帰ってきたこと。


「……まあ、だいたい分かった。バンブルビーって奴は中々まともそうな奴だな。後で礼言っとかねぇと」


「──それには及ばないよ。別に俺が櫻子のために何かしてあげれたって訳でもないからね」


「うわっ、何だお前! いつから居やがった!?」


 急に部屋の扉の方から声が聞こえて心臓が飛び出るかと思った。不揃いな灰色の髪に、両腕の無い女……こいつがバンブルビー……。


「ごめんね、驚かせちゃったかな。夕張 ヒカリちゃん……だよね。初めまして、バンブルビー・セブンブリッジだよ。櫻子は、少し顔色が良くなったみたいだね」


「バンブルビーさん、ほんとにもう歩き回って大丈夫なんですか? ていうか、バブルガムさんの所に行ってたんじゃ……」


「そっちの用事はもう終わったの。2人はどう? 話は終わったかな」


「はい……一応は。わたしに何か用事ですか?」


「いや、櫻子っていうか……」


 何か言い淀んだバンブルビー・セブンブリッジは、少し困ったような顔でアタシの方を見た──

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