234.「鴉と魔女狩り⑤」
【平田 正樹】
こころと偽装交際を初めてから一年が経った。元々人付き合いが苦手だった俺が、自ら望んでこんなにも長い間他人と関わり続けたのは初めての事だった。
偽装という特殊な関係が、俺とこころを結びつけていた。
お互い踏み込み過ぎず、かといって離れ過ぎず……なんというか丁度いい距離感。
臆病な俺には、こころとのそんな関係が心地よかったのだ。
「──だ、ダーリン……今なんとおっしゃいました!?」
大学の食堂。こころが持っていたスプーンをカレー皿に落としてそう言った。
「……今晩、一緒に飯でもどうだって言ったんだよ。絶対聞こえてただろ」
「いえ、てっきり聞き間違えたのかと……だって、ダーリンからデートのお誘いなんて初めてですし……ついに、好きになっちゃったんですね?」
「そんなわけないだろ……両親の知り合いがイタリアンの店やっててな。昨日ばったり駅で会って、久しぶりに食べに来いってお呼ばれしたんだよ」
「……ふむふむ。話は分かりましたが、しかしダーリン。わたくしを誘う理由になってないじゃないですか。素直にこの絶世の美少女を好きになってしまったと認めたらどうなんですか?」
こころが髪をかきあげてキメ顔でそう言った。本人は気づいてないが、口の横にカレーが付いてて結構マヌケな絵である。
「あそこのマスター、俺が高校の時から何かにつけて彼女つくれとかしつこいんだよ。大学に入った時なんか見合いの縁談まで持ち掛けてきたんだぞ」
「それはそれは……なかなかのお節介焼きマスターですね。ということはつまり、わたくしを誘って下さったのは……」
「まさしくそれだ。お前が彼女のフリしてくれれば、当面お節介されずに済むだろ。上手くいけば偽装彼女の面目躍如ってとこだな」
普段はこころが享受してる偽装交際の有用性に、今晩は俺もあやかろうと思った。この1年、こころが無数のサークルを潰すのを未然に防いだんだから、これくらいのたくらみは許されていいはずだ。
「……申し訳ありませんがそのお誘い、お断りします」
しかし、こころの返事はけんもほろろだった。
「なんだよ、なんか怒ってんのか?」
「いえ、そういう訳では……ないこともないですけど……とにかく今日はどうしても外せない用事があるんです! ですから明日以降にずらして誘い直してください!!」
こころは口にカレーを付けたまま、妙に必死な様相でそう言った。どんだけイタリアン食いたかったんだよ……。
「……分かったよ。また今度な」
本人に用事があるなら仕方ない。急な誘いだったし、先約があるのなら当然それを優先すべきだ。
……ただ──
(……参ったな。断られると思ってなかったから、2人分でもう予約済みなんだよな……)
〜8時間後〜
日が沈んでも未だ蒸し暑い夏の夜。俺は1人繁華街を歩いていた。
(……結局マスターには絡まれるし、コースは2人分食うはめになるし、今日はダメな日だな。まあ、お土産に酒を貰ったのはちょっとしたラッキーだが)
猥雑な夜の喧騒……活気に溢れた店の呼び込みや、酔っ払いの笑い声。こんな時間にも忙しそうに電話をしているサラリーマン。
目や耳に入ってくる情報を、何の気なしに受け流す。今日はこのまま家に帰って、風呂でさっぱりしたら早く寝よう。明日も日が昇る前から野菜の収穫があるんだから……。
──突然の違和感だった。
これまで流し作業のように行われていた情報処理に、エラーが発生した。右から左へと受け流していた、何でもない繁華街の喧騒に……あいつがいた。
(…………こころ?)
10メートル程先……ちょうど小洒落た店から出てきたこころの姿があった。こころは何やら真剣な表情で、隣に並ぶ男に話をしていた。
それを見た途端、一体どういうわけかは分からないが、俺はフリーズしてしまった。とめどなく流れる雑踏の中、急に立ち止まった俺を通行人が迷惑そうに避けていく。それでも尚、俺はその場に……その光景に釘付けになっていた。
どれくらい経ったのだろうか、話し込んでいた男が急に膝まづいてポケットから何かを取り出した。小さな箱みたいなそれを、こころへと差し出すようにして何かを話している。
結婚指輪だ。会話は聞こえなくても、あんなの見れば誰でもわかる。あれはプロポーズをしているのだ。
こころは動揺していた。急に膝まづいた男に少したじろいで、指輪を差し出された途端に両手で口元を覆った。
距離はほんの10メートル。ここからでも心の表情はよく見て取れた。
こころは目に涙を浮かべていた。
──パリンッ……!!
足元でガラスの割れる音がした。ハッとして下を見ると、マスターから貰った酒が地面に染みを作っていた。それを見て、俺が持っていた紙袋を落としたんだとようやく理解が追いついた。
顔を上げると、こころと目が合った。
こころもすぐに俺に気が付いたようで、ハイライトの入っていない瞳をまん丸にしていた。
俺はびしょびしょになった紙袋を拾って歩き出した。再び雑踏の流れに身を任せ、1歩、また1歩と前へ進む。こころのいる方へ。
別に、あいつのプライベートなんて俺の知ったことではない。俺たちの交際関係はただの偽装……それ以上でもそれ以下でもない。だってのに、俺は何を戸惑っているんだか……。
……あいつも、なんだってそんな気まづそうな顔をするんだよ。
ただ前を見て歩く俺は、とうとうこころの隣までやってきて、そして通り過ぎた。視界の端でこころが何か言いたげな素振りをしたが、俺は足をとめなかった。
──だってのに、数十メートル進んだ辺りで呼び止められた。振り返ると、息を切らしたこころが立っていた。
「……よお、奇遇だな。連れほっといて何してんだよ」
自分自身に、とてつもない嫌悪感がこみあがった。なんだってわざわざそんなクソみたいな事言うんだよ。知らないフリして、干渉しないのが俺達の関係だった筈なのに……。
「あの、ダーリン……違うんです。その、あの方は……」
「いいよ別に」
俺はこころの言葉を遮るようにそう言った。続きを聞きたくなかった。自分の中で、正体不明の黒い感情がゆっくりと首をもたげている。
こころは、何か言いかけては口をつぐんで……目を伏せた。
俺は1歩、こころの方に歩み寄った。
「…………怒って、ますか?」
きっと色々言いたいことがあったろうに、こころが絞り出したセリフはそれだった。きっと俺のせい……自分では分からないが、俺はきっと今酷い顔をしているんだと思う。
「……フリなんだろ。俺たちは」
俺は踵を返して歩き去った。もうこころは追いかけてこない。
……なんだってんだ。なんで普通に「怒ってないよ」って言ってやれない……まったく制御の効かないこの黒い獣は、いったいいつから俺の心に巣くってやがったんだ……。
次の日から、俺はこころと関わることをやめた──
* * *
【スカーレット・ホイスト】
「──殲滅しろ」
魔女狩りの拠点に降り立つや否や、アビスの号令で戦闘班は襲撃を開始した。
アビスはスノウと共に海上フロアを担当。バブルガムはいの一番に建物の側面へ飛び降りて行った。海面ギリギリの壁に穴を開けてショートカットするつもり腹積もり……私とイースも丁度いいから、その後を追って施設内部に入り込んだ。
ものの数分で重武装した人間たちがわらわら出てきたけど、私が手を出す暇もなくイースが片っ端から切り伏せた。
その脇を通ってバンブルビーとラミーが先行する。彼女達は海中フロアの下層担当なのだ。
ちなみに海中フロアの上層部はバブルガムの担当で、私とイースの担当は中層フロア……前回、前前回と感じていたことだけど、ここ数年で異端審問官とドールの数はめっきり数を減らした。
魔女との戦闘ですら私たちの圧勝なのに、ただの武装した人間なんて赤子の手をひねるようなものだった。
「……ったく、歯ごたえねぇなぁ!!」
「別に無くてもいいでしょ。ていうか、ない方がいいじゃない。何血迷ったこと言ってんのよ戦闘バカ」
「うるせぇぞスカーレット!! 俺様はアビスとバンブルビーにくらってる日頃の鬱憤を晴らしてぇんだよ!!」
「はぁ、自業自得じゃない……ほんとどういう神経してんのかしら……って、ちょっと! 炎は出さないでって言ったでしょ!? スプリンクラー作動してんじゃない!!」
けたたましいサイレンの音とイースのバカでかい声だけでも耳障りなのに、天井から雨が降ってきた。濡れるの嫌だから、極力火は使わないようにってアビスからのお達しがあったのに……。
「あぁ!? 俺様がいつ火なんか出したんだよ!! 目ん玉ついてんのかてめぇ!!」
「……じゃあ誰よこれ。バブルガム?」
「あんのクソデコ、大人しく金目のものだけ漁ってりゃあいいものを……」
イース以外で無茶苦茶するのはバブルガムくらい。これに関してはイースも同じ意見みたいね。ほんとどういうつもりなのかしら。
「……おら、このフロアはあらかた片付いた。さっさと下いくぞ!!」
「はいはい。いちいち怒鳴らなくても聞こえてるわよ」
イースが余計な手出しはするなって言うし、私も別に好んで戦いたい訳じゃないからただ後をついて行ってるだけになってるけど、まあ楽だし文句はない。
こんな事さっさと終わらせて、早くシャワーを浴びたいわ。
「……イース?」
ずかずかと進み続けていたイースが、とつぜん足を止めた。何事かと思ってイースの視線を辿ると、前方の休憩室で、優雅に椅子に腰掛けている女がいた。
鴉の制服を想起させる黒い装束に、スプリンクラーの水で艷めく銀色の髪。一目見て感じた……こいつは魔女だ。
「──せっかく紅茶を楽しんでたのに、まさか部屋の中で雨に降られるなんてね。いたずらっ子にはおしおきが必要かしら」
ただ話しているだけなのに、私は槍を握る手に力が入っていた。魔力とかじゃなくて、この女の持つ異様なオーラみたいなものに、背筋がひりつく。
急に斬りかかったりしないところを見ると、イースのバカもこの女の異質さを感じ取っているみたい……なんて思いかけた刹那──
イースが女に向けて爆炎を放った。
一瞬で女を吹き飛ばした蒼白い光が、部屋の壁に当たって濁流のように私の方へ押し寄せる。
反射的に氷壁を出して炎を防いだけど、あとほんの一瞬、コンマ数秒遅れていたらただでは済まないところだった……。
「……ッイースあんた何考えてんのよ!! 私まで殺す気!?」
炎が過ぎ去ったのを確認してイースに猛抗議した。なのに、イースは私の方に振り返りもしない。ただ前を見ている。彼女の方を。
「…………なっ、嘘でしょ……あれを止めたの?」
女は健在だった。部屋に来た時と何ら変わらず、椅子に腰掛けていた。さっきまでと違うところは、いつの間にかむき身の剣を杖のように地面に突き立てていること。
さらに異状なのは、彼女の正面だけはまるで切り取られたように炎に焼かれた痕跡がなかった。
「コイツ、俺様の炎を斬りやがった……おもしれぇ!!」
イースが腰に挿していた魔剣を抜いた。当然、大太刀の方。さすがのイースもこんな場所であの小太刀を使うほど馬鹿じゃない。
「魔獣化崩れの魔女が二人……私が抜けてからもユニークな子が集まって来るのは変わってないみたいね。制服も……近頃はそういうのが流行ってるの? 私流行には疎くって……」
「おいこらてめぇ! ごちゃごちゃ言ってねぇで構えやがれ!! 座ったまま死にてぇのか!!」
「いやいやいや!! ちょっと待ちなさいよイース! あんた今の聞いてなかったの!?……こいつ──」
「──ジューダス・メモリーだろ。俺様がぶっ殺すからてめぇは引っ込んでろ」
イースはそう言って口から蒼白い炎を漏らした。本気で戦うつもりだ。あのジューダス・メモリーと……アビスと同じ四大魔女と。
「あら、私のこと知ってるのね。なんだか少し恥ずかしいわ。で、いいの?」
「あぁ!? 何がだよ!!」
「ほんとに1人でいいの? 2人がかりなら私の身体に傷くらいは残せるかもしれないわよ」
ジューダスが椅子から立ち上がってそう言った。セリフとは裏腹にまったく嫌味のない表情だった。まるで本当に誰かを気遣って言ったような、そんな感じ……。
「……ほざけ!! 傷どころか燃えカスも残んねぇよ!!」
イースが右手で大太刀を構えて、左手で蒼炎を放った。溜めがある分さっきよりも炎の密度が濃い……なのに、ジューダスは剣の一振りで炎を割った。剣を振る速度が速すぎて、ほとんど残像の様にしか見えない。
けど、イースも負けていない。炎を放った直後に踏み込んでいたイースは、既にジューダスの懐に潜り込んで魔剣を振り抜こうとしていた。
イースが魔剣を常に持ち歩いているのにはわけがある。魔剣なんて重くて邪魔だし、使う時だけ魔力で練り上げればいい。普通はそうする……なのにそうしないのは、あれらが“加工品”だからだ。
イース魔剣“夢花火”には、切り付けた対象を時間差で爆裂させる魔法式が刻まれている。
意外なことに、細やかな感性とか技術が要求される魔法式の才能がイースにはあったみたいで、10数年がかりの試行錯誤のうえ完成したというのがあの魔剣なのだ。
そんな魔剣で身体を斬り付けられれば言うまでもなく致命傷……剣で受けて尚無事では済まないだろうという厄介極まりない、まさしく魔剣……。
なのに、ジューダスはそれを躱す。躱す。躱す……。
いとも容易くイースの連撃をくぐり抜けていく。本能的にあの魔剣は受けずに避けるのが吉だと見抜いているのかもしれない。
けど、よしんば魔剣のからくりが割れていたとしても、イースの得意な体術や強靭な尻尾を混じえた攻撃さえかすりもしないというのは、異常事態だ……。
「……化け物じゃない……こんなの」
ジューダスは笑っていた。バブルガムみたいに戦闘中にハイになって笑っているのとは違う、と思う。
微笑んでいる。まるで子供と遊んであげる母親みたいに、とても戦闘中に見せる顔ではない……あのイースを相手に。
「ちょこまか避けんなぁ!!」
「ふふふ、ほら頑張って。そろそろ私も攻撃しちゃうよ」
ジューダスが剣を振った。ほんの一振り。
そう、ほんの一振りしただけなのに、それなのにイースは身体中のあちこちから血を吹き出して吹き飛んだ。
ぶち当たったコンクリートの壁を半壊させて瓦礫に埋まったイースは、そのまま沈黙した。
私は唖然とした。一振りしか見えなかった。私は身体強化の魔法は使えない……けど、魔獣化の影響でそもそもの身体能力は並の魔女とは比肩にならないほど向上している。
だから身体強化持ちの魔女相手にも、これまで遅れをとったことなんて一度もなかったのに、この目の前の化け物だけには勝てる気がしない。
──けど、勝てる気がしないのは、私がこいつと戦わない理由にはならない。
「……オールドタワー」
重力魔法を掛けた魔槍 オールドタワーを指先で高速回転させる。同時に辺りに冷気を放ち、地面も壁も天井も、全て赤い氷で覆い尽くした。
もちろんスプリンクラーから吹き出る水が鬱陶しかったからではない。ただの下準備だ──
「あら、綺麗な魔法を使うのね。赤い氷なんて初めて見たわ。まるで宝石みたい」
ジューダスが白い息を漏らしながら微笑んだ。笑ってられるのも今のうちよ!!
「いくわよ!!」
「……ッ!!」
剣を片手に佇んでいたジューダスの身体が、前方に向かって崩れた。私の重力魔法の強力な引き寄せ……氷の上じゃ踏ん張りも効かない。そこへ超高速回転へと至った槍が放たれる。私の必殺コンボ……!!
……だったのに────
「……今のはちょっとゾクゾクしたかも。どう? まだ頑張れそうかしら?」
「〜〜〜ッ!?」
信じられない光景だった。前方に落下するように引き寄せられたジューダス。それ目掛けて投擲された私の槍は、たやすく素手で掴み止められた。
重力の引き寄せで浮いた身体……その状態で大砲の玉みたいに飛んで来た槍を掴んだりしたら、普通は吹き飛ぶ。
なのな彼女は受け止めた槍をそのまま地面に突き立てて、反動を殺すために利用した。右手には剣……全て左手一本で瞬時にやってのけたのだ。
「はぁっ!!」
今度は重力を上方へ操作、真上に落下するように浮き上がったジューダスは、床に突き立てた槍に片手でぶら下がるような体制になった。
私の“重力操作”は引力と遠心力……それらの方向とバランスを支配する。
それを使って、無数に精製した紅の氷槍を、マシンガンのように絶え間なくジューダスに浴びせた。
けど、これもジューダスは剣で全て薙ぎ払ってしまった。ジューダスは余裕の表情で地面に刺さっていた槍を引き抜くと、身体をくるりと回転させて天井に着地した。恐ろしいまでの適応性……。
戦慄する私に追い打ちをかけるように、彼女は左手を振りかぶった……。
「これ、返すわね」
振りかぶった所までしか視認出来なかった。気が付けば私の視界はめちゃくちになって、全身に激痛が走っていた。
きっとさっきのイースみたいに吹き飛ばされた私は、壁にもたれ掛かるような体制になっていた。
腹部にはオールドタワーが突き刺さって、後ろの壁まで貫通している。
喉の奥から嘔吐感が混み上がってきて……吐血。ジューダスは……重力魔法が解けて再び地面に降り立っていた。剣の先端で氷の地面を斬り削りながら、段々こっちに近づいてくる。
──立たなきゃ……。
左手でオールドタワーを掴み、右手で槍が刺さっている腹部を抑える。一息の後、私はオールドタワーを霧散させた。
栓になっていた槍が消えて、腹部から血が吹き出す……その前に、患部を凍らせて無理やり出血を止めた。
「あら、まだ立ち上がるのね。さすが魔獣化崩れはタフよね」
呆れ顔のジューダスに追撃の様子はない。圧倒的な強者の余裕……いつでも好きな時に殺せる。そういうのことなんでしょうね……ほんと、ムカつくったらない。
「…………イース……いつまで、寝てんのよ……この、バカ……!」
イースが埋まっていた所の瓦礫を、重力魔法で取り払った。派手に切り刻まれていたけど、あんなので死ぬほどヤワなやつじゃないってのは、私が一番よく知ってる。
「──クソッタレがぁ……酔いが覚めちまっただろうがぁ……!!」
案の定、血だらけのイースは崩れた壁の穴からよろよろと起き上がってきた。殺しても死なないやつなのよ、こいつは。
「あらあら……勝てないって分かってるのに、何で起き上がってくるのかし──」
「──鬼灯流し!!」
──ジューダスが言い終わる前に、イースの剣が彼女の頬に薄い切り込みを入れた。あのバカが贔屓にしてる剣術……花合流の剣技。
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ!! 勝つまでやんのが鴉の流儀だぁ!!」
「……このバカに同意するのは……ムカつくけど、そういう事よ……!!」
「ふふ、あははは! いいわ……真面目にやるわ」
ジューダスはここに来てようやく穏やかな顔を引っ込めた。頬を伝う血をペロリと舌で舐めとって、ニヤリと不敵に笑う。
さっきまでとは私たちを見る目が違う。戯れの対象から、敵へと昇進したのだ。
ジューダスは左手にもう一振り魔剣を生成した。天下一剣と伝え聞く四大魔女の二刀流……その二刀の切っ先は今、私とイースを捉えている。
「……さあかかって来なさい。私、強い娘には目がないの。昔っからね──」




