186.「ペアリングと狭宅」
【レイチェル・ポーカー】
12月20日金曜日
「……さて、それじゃあ今日こそ決着をつけようか、この長かった戦いにね」
「…………クリスマスのプレゼント選ぶだけだろ。大袈裟な」
「だって、クリスマスパーティーまであと4日しかないんだよ? 先週ここに来た時も、結局プレゼント買えたのカノンだけだったし……しかも結局また買いに来てるし」
「こほん、前回はプレゼント交換用。今回はテンとその妹さん用のプレゼントを買いに来たんですの」
「リア充は忙しくて大変そうだね〜爆死しろし〜」
「皆さん、そろそろいいですか? 一緒に回っていてはプレゼントの内容が分かってしまって意味がありませんから、今回こそ全員バラバラに回ってプレゼントを調達しましょう。予算は五千円、集合は1時間後~2時間後の間で、プレゼントを購入した人から一階のカフェに集合していきましょう。私の名前で角の席を予約してありますからよろしくお願いします」
「さすが委員長! 素晴らしい統率力だねー」
「よっ! クリスマス大臣!」
「櫻子さんヒカリさん、囃し立てるにしても呼び方くらい統一して下さい」
──5日前、クリスマス会の交換用プレゼントを買いに来たモールに、私たちは再び集まっていた。別にわざわざ集まって買うこともないんだけど、お昼を食べながらそんな話をしていたら自然とこうなったのだ。いつの時代も女子は仲良く団体行動……全て世は事もなし、ね。
「さて、じゃあ気合い入れていい感じのプレゼント探しますかー……あ、ヒカリ着いてきちゃダメだからね」
「わーってるよ。クリスマス大臣の言うことは絶対だからな」
公認ストーカーのヒカリはそう言ってエスカレーターの方へ歩いていった。皆もそれぞれバラけてるし、私も出発するとしよう。
* * *
【一時間後】
「──あれ、カノンじゃない。一番最後に来ると思ってたのに、早かったんだねー」
最強のプレゼントを購入した私は、意気揚々と集合場所であるカフェにやってきた。エミリアの名前で予約してある旨を店員に伝えると、既に1名御来店されていますとのことだった。つまり、それがカノンだったわけだ。
「ええ、予めある程度の目星はつけていましたの。満足のいく物が手に入りましたわ」
カノンはケーキスタンドの写メを撮りながら何やらニコニコしている。こいつめ、さては彼氏に送り付ける気だな。
「そういえば、改めてよかったね。初デートで酔っ払ってヤッちゃってなくて」
「……さ、櫻子、もう少しこう……オブラートに包んだ表現にしてくれますこと? 一夜の蜜月とか……あ、愛の契りとか……」
「い、一夜の蜜月ッ!?……ぷはははは!……やめて、もう笑わせないでッ!」
先日、屋上での公開コールによりカノンの初デート泥酔一夜の蜜月疑惑が浮上……大いに私たちを沸かせたあの件。あの後すぐにカノンの彼氏……テンだっけ? からメールが届いてことの真相が明らかになったのだ。
詳しい内容は文面ではよく分からないけど、どうやら極度に照れたカノンがテンに馬乗りになってボコボコにしたらしい。
メールを読んだ時のカノンの顔ときたら、まるでウィスタリアが取り乱してるみたいで大笑いだった。腹筋がちぎれ飛ぶかと思ったレベル。
「いつまで笑ってるんですの、もう……」
「ごめんごめん、けどよかったじゃない。またデート誘われたんでしょ?」
「ええ、今度は水族館へ行こうと誘われましたの。お酒は無しで」
「ま、懸命だね……ぷふ」
それにしても、相手の男も結構いい人みたいで良かった。可愛い女の子が無防備に酔っ払ってたら、襲ってやろうと思う輩はいくらでもいる。身近だとヴィヴィアンとかね……。
それどころか、逆にカノンに襲われてもケロッとデートに誘ってくるあたり相当なお人好しじゃないだろうか。そしてカノンの事をちゃんと好きだ。
「ん〜お二人さんもう選び終わったん〜? ちゃんと真剣に選んだのかな〜?」3番目にやってきたのはカルタだ。腕に紙袋をぶら下げているからきちんとプレゼントを購入したらしい。「どうやらエミリアなしでも買い物くらいはできるみたいだね。 関心関心、と私は思った」
「櫻子〜失礼な心の声がダダ漏れだし〜」カルタは眠たそうな目を細めながら私の頭にチョップした。
「そういえばカルタはエミリアにプレゼントは買いましたの?」
カルタの腕の紙袋を見てカノンがそう言った。確かに、プレゼント交換は誰のが誰に行き渡るか分からないし、渡す相手がいるならカノンみたいに本命用のプレゼントを用意するよね、普通は。
「ふっふ〜知りたいかね諸君〜」
「あ、これ買ってるヤツだ。多分ペアリングとかだよ」
「ネックレスという線もありますわね」
「……え、なんで分かんだし。こわ」
ふっふっーそれはねー顔に書いてあるからだよカルタ。ニコニコしちゃって。
「で、どっち買ったの?」
「リングの方、ちゃんと寝てる間に指のサイズも測ったんだから。偉いでしょ?」キリッとした目でカルタがピースサインを作った。ありとあらゆる事がテキトーな子だけど、こういうことに関しては真摯に取り組むのね。
「……か、カルタがゲームの時以外にまともに喋ってますの」
「ねーなんか怖いね」
「ちょっとーこっちは真剣なんだからねー」
言いながらカルタがスコーンを手で割ってジャムを付けている。当たり前のようにカノンが頼んだやつ食べるじゃん。
「──わ、やっぱりもう皆さん揃ってますよヒカリさん。私達が最後です」
「みたいだな。三人ともちゃんと選んだのか?……特にバカルタ」エミリアとヒカリ、2人同時に到着して全員が揃った。偶然だろうけどなんか珍しいツーショットだね。
「ヒカリもきちんとプレゼントを用意したみたいですわね。エミリアは……どうなってますのそれ?」
うん、実は私も気になっていた。エミリアの大量の荷物が。
「すみません、パーティー当日に使う飾り付けの道具や催し物のグッズ、使い捨ての可愛いお皿とか諸々を買っていたら遅くなってしまいました……」
「「「一人で任せてごめんなさい!!!」」」
いやもうホントこの子、如才無いとかそういうレベルじゃないよ。出来すぎてるよ。500も歳上の自分が恥ずかしいよ私は。
「いえいえ、なにせ私はクリスマス大臣ですから。任されたからには最高のクリスマスパーティーにする所存です」
さすがエミリア……もはや後光が射して見える。鴉には必要だけど残念ながら居なかったタイプだ。
「そういえば当日はどこに集まるの? 狭いけどウチ来る?」
「櫻子、その狭い部屋借りてるのアタシだからな。一応」
「でもさ〜櫻子の部屋狭いうえに回線もよわよわじゃん〜UiHiのプラン見直してよ〜」
「だからアタシの部屋だって言ってんだろバカルタてめぇ!」
「私の家なら大丈夫……と言いたいところですけれど、先日の件がありますからお酒はNGになってしまいますわね。やはりここは櫻子の狭宅にお邪魔するしかなさそうですの」
「ナリキンてめぇ、キョウタクって狭小住宅の略の事言ってんのか!? だとしたらなんて不快な略語を使いやがるんだてめぇは!!」
なんだろう、日に日にヒカリがいじられキャラになっていっている気がする。それに伴ってツッコミにもキレが出てきてるし、どこで道を間違えてしまったんだろう。
「皆さん、パーティー会場は既に押さえてあります。それにヒカリさんのお宅は一人暮らし用のワンルームですから別に狭くはありません。なんなら広い方ですよ」
「……味方はお前だけだ、エミリア」ヒカリがしみじみとした顔でエミリアの肩に手を置いた。そうなんだよ、エミリアはいい子なんだよ。
「ちなみにパーティー会場はVCUの事務所です。あそこならそれなりに広いですから」
「確かにいいかもねー……けど、ヴィヴィアンと八熊が居るんじゃない? まぁ別に居てもいいんだけどさ」ただ、ヴィヴィアンが割り込んできたりしたらめちゃくちゃになりそうな気がする。お酒とか全部飲んじゃいそうだし。
「社長と八熊さんは当日ホテルで過ごすらしいので事務所には居ませんよ。その辺もぬかりありません」
──なるほど、ホテルで過ごすのね。あのヴィヴィアンとあの八熊が……ふーん。
「「「「その話もっと詳しく!!!!」」」」




