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167.「地下と月光」


 【レイチェル・ポーカー】


 あの女が一体全体どういう仕組みでわたし達から吸い上げた魔力を結晶化させたり、自らの魔力へと変換しているのかは甚だ謎だ。


 けど、さっきセイラムの懐から頂戴したこの魔石……蓄えられた魔力はきちんとわたしの体内へ流れ込んでいるわけで、まあ仕組み云々は分からなくとも問題はないだろう。今重要なのは、わたしがまともに戦えるようになったということだ。


「──改めて自己紹介しておくね? わたしはレイチェル。レイヴンの熾天卿、レイチェル・ポーカーだよ」


 黒羽で作った漆黒の六翼を背に纏い、両手には双刀キャンセレーション。魔力が血流にのって体の隅々まで行き渡っていくような感覚。端的に言ってわたしは今絶好調である。目の前の彼女は辛そうだけど。


「……くそ、化け物め……」


 セイラムは地面に突き立てた凶々しい大剣を杖のようにして片膝をつき、肩で息をしながらわたしを睨みつけている。時間にして数分だろうか、魔石を奪ってからセイラムと剣を交えたのは僅かな時間だ。しかしその僅かな時間でわたし達の立場は完全に逆転していた。


「魔力を……それもマナを遮断するとかオドを吸収するとか、実際にこの目で見て体験しなきゃ絶対に信じられない話だよね。罠があるのは承知の上だったけどさ、正直これは予想外。ほんとまいったよ」


 言いながらセイラムの方へ足を進めると、セイラムが膝をついたまま赤雷を放ってきた。けど威力がさっきまでと桁違いに弱い、黒羽で難なく防げるレベル。


「それに魔眼同盟イーヴルアイズ七罪原プレアデスがグルになってるのもビックリだったよ。罠のことといい、一体全体いつからこんな計画企んでたんだか……」


「……はぁ、はぁ、く、くそ……来るなぁ!!」


 再びセイラムから赤雷、しかしさっきよりも威力が落ちている。どうやら魔力もほとんど残っていようだ。この地下空間、魔石が無ければ魔力の自然回復が出来ないのはセイラムも例外ではないということらしい。


「まあ、何が言いたいかって言うとね? あなたは強かったよセイラム・スキーム。わたしがこれまで戦った魔女達……ううん、レイヴンがこれまで相手にしてきた中でも、きっと一番手強い相手だったんじゃないかな」


「……はは、なんだい君、もう勝ったつもりで、いるのかい? 僕は、まだ……アイビスを殺すまでは……止まらないよ」


「そう、何でそんなにウチのボスを恨んでるのかは知らないけどさ、正直かなり疲れたしそろそろお縄についてもらうよ。反省会はお友達と一緒に螺旋監獄ヘリックスでしてね。最後に何か言い残すことはある?」


 わたしは広げた黒翼を触手状に形質操作、セイラムの体に巻き付けながらそう言った。


「……ろ……どな」


「……ん? なんて?」


 セイラムは体を這い上がる触手を振り解く素振りもせずに、何かを呟いた。


「……けろ、エキドナ」


「えきどな?」


 それってなんだっけ、たしか、そう。魔女の名前だ。七罪原の……。


「──見てないで助けろエキドナあああああ!!!!」


──ゴゴォォォン!!!!


 突然だった。セイラムが叫んだ直後に、体の芯まで震えるような鈍く大きな音が頭上から響いた。反射的に真上を見上げると、なんと天井が崩れて巨大な岩が落下してきている!


「……ちょ、冗談でしょ!?」


 こんな地下で天井を崩すとか、正気の沙汰じゃない。エキドナとか言う奴の仕業なんだろうけど、それにしてもこんな事したらセイラムだってタダじゃ済まないのでは?


……いや、しかしセイラムはわたしたちをここまで追い詰めた魔女だ、これすらも彼女の計画の内なんじゃ──


「な、ななな!? 正気かエキドナ!! お前僕を殺す気かあああ!!?」


 あ、全然違った。たぶん普通にイレギュラーなやつだわこれ。


「……めちゃくちゃするなぁもう!!」


 わたしはセイラムに巻きつけた触手を切り離し、降り注ぐ岩に向かって跳躍した。


 広大な地下空洞、天井の一部が崩れ落ちてきても全ての空間が埋まる訳ではないだろう。けど少なくとも岩の落下範囲にボロボロになったアイビスがいるし、バンブルビーに至っては何処にいるかもまだ分かっていない。したがってあの大岩たちは回避じゃなくて破壊しなくてはならないのだ。


 展開した黒羽の形状を変化。六本の触手状にして先端には大槌、これをつかって全速力で降り注ぐ岩を迎え撃つ。


「はあああああ!!」


 六本の触腕が鞭のように高速で飛び交い、無数に降り注ぐ岩々を爆散させていく。粉々とはいかないまでも、ある程度小さく砕けばあの二人も死にはしないだろう。


「……?」


 崩れ落ちた天井の最後の残骸を砕いたところで、頭上から光が差し込んだ。何事かと上の方に目を向けると、満月がわたしを見下ろしている。青白い月光は長らく薄暗い地下にいたせいか、やけに眩しく感じた……ていうか、月光!? 


「これ、天井抜けてんじゃん!!」


 天井が崩れてきてるのは分かってたけど、まさか地上まで吹き抜けになるほどがっつり崩壊しているとは思わなかった。


 わたしは少々驚きながらも気を取り直して瓦礫の積もった地面に着地した。するとどうでしょう、拘束していたはずのセイラムが忽然と姿を消しているではありませんか!


 そんなバカな、しっかりと触手でグルグル巻きにしておいたはずなのに!? 


「──レイチェル上だ! あの野郎魔眼で地上に逃げたぞ!」


「……バンブルビー! 分かった、任せて!」


 数十メートル先、身体に積もった瓦礫を蹴り退かしながらバンブルビーが天井の穴を指した。無事で何よりだしナイスアシストだよお姉様!

 

 触腕を再び羽の形状に戻し身体強化は最大。脚に目一杯の魔力を込め、わたしは天井に空いた穴に向かって跳躍した。一瞬で地下から地上へ、それどころか地上を置き去りにして月夜の空に突き抜ける。


 逃亡したセイラムを補足するために高さをとったけど、意外にも彼女は大穴からさほど離れていない場所にいた。


「……見つけた!!」


 エキドナとやらが近くに居ないかとも思ったけど、ざっと見渡した限りでは姿は見えない。逃げたのか、それとも隠れて隙を窺っているのかと逡巡したものの、わたしはすぐにセイラムに向かって滑空していた。


 セイラムの魔力は殆ど底をついているはずだし、よしんばエキドナやセイラムが何か企んでいたとしても、わたしの不死身体質(アンデッドボディ)は想定していないはず。アイビスとバンブルビーが地下にいる今なら、罠だろうが何だろうが気にせず捨て身で戦える。だから決めるなら今なのだ。


 猛スピードで急降下しながら、わたしは黒羽を使って手元に魔剣を生み出した。ヴィヴィアンが使ういくつかの魔剣の内の一振りだ。一見斧の様にも見えるこの魔剣にはしかし刃は無い。これは巨大な戦鎚なのだ。上空からの急加速と身体強化、さらに破壊力に特化したこの戦鎚……止めれるものなら止めてみろセイラム!


「……ブラックマリアァァ!!」


 魔剣の名前を叫びながら、わたしはセイラム目掛けて両手を振り下ろした。




 



 



 


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