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147.「鉄道橋と崩壊」


 【スノウ・ブラックマリア】


──バブルガムが魔女狩りを取り逃したと聞いた時、最初は悪い冗談だと思った。普段からふざけた奴だけど、彼女の実力を疑うものはレイヴンには一人もいない。私だってそうだ。


 本人曰く、はなから相手が逃げる算段を整えていた事が取り逃すに至った大きな要因らしいけど、そもそも如何なる作戦を立てていようがバブルガム相手に即殺されていない時点で相手がある程度の実力者であることは否めないのだ。


 アジア系、黒髪に低身長、火炎魔法と身体強化魔法二種類持ち……おそらく目の前にいるコイツはバブルガムの報告にあった人形ドールの内の一人だろう。


 なるほど、確かにこれまでほふってきた魔女狩りの連中とは一線を画す強さだ。


 先程までコイツの身体強化魔法はせいぜい三級程度に感じていたが、私が辰守晴人を斬り飛ばしてからは明らかに二級相当かそれ以上の動きをしている。実力を隠していたのか?


 それに引き換え私は辰守晴人を捜索するために黒羽を使い、さらにハイロジョーカーを生成、傷の再生も少々……身体強化の魔法は既に十分近くぶっ続けで発動している。


 アビス様が城を留守にしている間にも無駄な魔力を使った。辰守晴人とデートした日、アイツを半殺した時だ。ただでさえ補充の効かない私の魔力残量は既に二割を切っていた。

 

 悟られてはいけない、このままダラダラと続ければ魔力が底を尽きて私は負ける。忌々しい辰守晴人は逆に川へ落としてやったんだ、あとはこの女……この女さえ殺せば……。


 何処もかしこも轟々と燃え盛る鉄道橋の上で、私は女に鎌を振るい続けた。


 女はもうほとんど私の攻撃を見切りつつある……いや、攻撃が当たらないのは女が慣れてきただけじゃない。私の攻撃が遅くなっているのだ。魔力不足のせいか身体強化に回していた魔力が無意識の内に少なくなっている。


「……ッちぃ!?」


 女の魔剣が首筋を掠めた。鎌の軌道を潜り抜けるのも段々と上手くなってきている。


──仕方ない、魔力の消費が激しいから使いたくはなかったけど、もう黒羽を使うしかない。


 次に女が私の鎌を抜けて間合いに入った瞬間、黒羽で包み込んで滅多刺しにしてやる。女は黒羽の事はよく知らないはず、油断している初撃で決める!


 私はハイロジョーカーを構えて女に突進した。踊るように身体と鎌を回す、一見燃費の悪そうな大鎌は生産コストこそ掛かるものの出してしまえば運用は楽だ。僅かな力で回してやるだけで遠心力が爆発的な力を生む。


──だが女はそれでも自ら間合いに迫ってくる。確かに下手に距離を取るよりはやいばの内側まで詰めた方が安全だ、しかし分かっていてもできる奴はそういない。


 辰守晴人とどういう関係かは知らないが、この勇気と強さには敬意を払おう。一切の出し惜しみなく、本気クロバネで殺す。


 私の八振り目の連撃、女が身を捩ってハイロジョーカーを潜り抜けた。瞳には勝利への確信が透けて見える。


「……詰みだ、女」


 黒翼が女を覆った──

 



* * *

 


【轟龍奈】


──ハレはお人好しだ。それも頭にバカが付くほどの。


 魔女狩りだった事を隠していた私をあっさり受け入れたのもそうだけど、この期に及んでレイヴンの魔女相手に手加減しているというのだからもう重症だ。


 ハレは私が渡した魔剣を使ってマリアとかいう女と渡り合った。剣を渡したのは作戦の役に立つと思ったからなんだけど、この調子なら面倒な事をしなくても二人で倒せるんじゃないかと一時は思った。


 けど、ハレの剣が初めてマリアを捉えた瞬間私は目を疑った。刃を返したのだ。


 事もあろうかハレはこの極限の状況でマリアに峰打ちを仕掛けたのだ。ハレの言っていた『倒す』は『殺す』ことでは無かったのだと瞬時に理解した。


 だがそれはもちろんマリアも同じだ。マリアは峰打ちを素手で払い除けると、私を牽制しながら距離をとった。そして再びハレへ襲いかかる。


 ハレは鎌の攻撃を受けるために再び刃を返して迎え打つ姿勢に入ったけど、マリアは鎌を振り下ろすことのないまま顔面から剣に向かって突っ込んだ。


──すると、あのバカお人好しは自分の剣を下ろしたのだ。それがマリアの狙いだと分かったうえで……分かったうえで剣を下ろして、そしてマリアに斬り飛ばされた。


 ハレは身体から血を吹き出しながら橋の下へ落下した。名前を叫んだけど、安否を確認する暇もなくマリアが私に襲いかかってきた。



 それからしばらく、五分は戦い続けただろうか。私はさっきまで二人がかりでも手一杯だったマリアとほとんど互角に渡り合っている。いや、それどころか徐々に私が優勢になりつつあった。


 紫雷の魔女と戦った時もそうだったけど、絶対的な力の差を前に眠っていた本来の力が呼び起こされていくような感覚を覚えた。これがこの身体の元になったという魔女の本来の力なんだろうか。


 とにかく、勝てるなら理由なんて何でもいい。今は何としてもコイツを倒してあのバカが無事かどうかを確認しないと……!


「……ッちぃ!?」


 ようやく私の剣がマリアに当たった。当たったと言っても掠めた程度だけど、次は確実に斬る。もうあの大鎌の攻撃パターンも大体見切った。


 首筋に傷を付けられたマリアは一瞬顔をすくめて、すぐさま突進してきた。右上段からの斬り払い、回転して今度は下からの斬り上げ、身体と鎌を回しながらの薙ぎ払い……流れる様な連撃を、いなして躱して飛んで潜って、とうとう八連撃目で間合いに入った。


 マリアが振り切った鎌を構え直すよりも、確実に私の剣の方が速い!……勝った──


「──詰みだ、女」


 マリアの声と同時、突然視界に影が落ちた。今の今まで夕陽と炎で一面真っ赤に染まっていた筈なのに、急に夜が来たのかと錯覚する程の闇……。


 その闇の正体がマリアの背後から発生した何かだという事、そして命に手が掛かっていたのは自分だったという事を、私は瞬時に察した──


 


──ドゴオォォォンッ!!!!


 突如発生した轟音と足場が傾くほどの衝撃……ほんの一瞬、マリアが固まった。


「……くぅッ!?」


 その一瞬の隙に私はマリアの左脚を斬り払い、その場から飛び退いた。離れて見ると私を覆っていた闇の正体はマリアの腰から生えた黒い四翼だった事が分かった。

 

「な、橋が……!? 女、貴様何をした!?」


「別に、龍奈はアンタとダンスしてただけよ。それよりも自分の心配した方がいいんじゃない?」


 衝撃と共に傾いた橋はゴリゴリと何かを砕く様な音を立ててその傾斜を強めていく。そして二度目の大きな衝撃……これを皮切りに橋は一気に崩壊を始めた。


「──龍奈、無事か!?」

 

 滑り台みたいに傾いた橋にハレが現れた。下からよじ登って来たんだろう。


「こっちのセリフよバカ! 全然橋が落ちないから海まで流されたのかと思ったじゃない!」


「それが実際ちょっと流されたんだよな、すまん」

 

「舐めプしてるからそんな事になんのよバカ!」


「ちょ、文句は後で聞くから取り敢えず向こうまで行くぞ! 俺たちまで川に落ちちまう!」


 ハレに腕を掴まれて私の身体が宙に浮いた。どうやら三分の一が崩壊していた鉄道橋は、ハレの手によってさらに三分の一ほど崩壊するらしい。中央を支えている橋脚を破壊したんだろう。


「ちょっと、べ、別に抱っこされなくても龍奈自分で走れるわよッ!?」


「いいから黙ってそうしてろ!!」


 空中で抱き抱えられた私は少々狼狽しつつもハレにしがみついた。たまには男らしい所もあるじゃない……。


「──貴様ら、これで勝ったと思うなよ……レイヴンの恐ろしさを思い知らせてやるからな……」


 崩壊する橋に取り残されたマリアは燃え盛る瓦礫と共に数十メートル下の川へ落ちていった。強がりを言ってもあの脚では脱出は不可能だろう。


「龍奈、多分アイツ逃げる気だからあとは任せたぞ!」


「……はぁ!? アンタなに言って……」


 マリアが泳げないならあとは流されてお終いの筈だ。どういう意味なのか問いただそうとした瞬間、落下していくマリアが黒い影になったのが見えた。


 影は幾つかにバラけて空中へと飛び立っていく、アレは……カラスだ。


「龍奈、マリアはカラスに変身できる! もしカラスに変身したら火炎魔法でなんとかしてくれ!」


「バッカ、アンタそれ早く言いなさいよねー!!」


 私は鉄道橋から離れていくカラスの群れに両手を向けた。なるほど、わざわざ私を抱き抱えてるのは怪我の心配とかじゃなくてカラス対策のためって訳ね……そう、ふーん。


 私の手から放たれた火球は今日一番の大火力になった──







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